“ 世界の代替医療の現況 ”

  浜松医科大学(第一病理)
医学博士 遠藤 雄三 氏

今、海外では米国を中心に、代替医療の波が医療界に押し寄せている。インターネットによる医療情報の開示が、代替医療の台頭の大きな要因になっているといわれる。カナダ マクマスター大学(健康科学部病理・分子医学部門)客員教授の遠藤雄三氏に、主として欧米の代替医療の現況をうかがった。
----代替医療に興味を持たれた経緯をお聞かせください

約700例を超える病理解剖から、抗がん剤や抗炎症剤の限界を知る

遠藤:東大で闘争直後に卒業した後、東大脳研病理の白木先生のもとで神経病理を学ぼうと思ったのです。脳神経病理だけを初めからやるのではなく、全身の病理をやるようにということで病理学教室で1年間学びました。その後、臨床に非常に近い病理をということで、虎の門病院に入りました。それから、カナダのトロント大学の免疫研究所に留学し、帰国して虎の門病院に免疫部検査部門を創設し、そこで部長を16年務めました。その間、病理部にも所属し、最終的には病理、細菌検査部長も兼務しました。現在は、カナダのマクマスター大学で客員教授として粘膜免疫学に関連してIgA腎症の研究を行っています。

これまで病理医として、亡くなられた患者さんを病理解剖して、病気の原因を顕微鏡的観察や免疫学的に検討するということを約700例ほど行ってきました。一方、手術や生検の病理診断に従事して、がんだったら手術するというようながん治療の臨床に携わってきたわけですが、今の医療で使われている抗がん剤は頻度の高い肺、胃、乳腺、前立腺の進行した腺癌にはほとんど効かないということが、現場にいてだんだんわかってきました。

それから、抗がん剤はがんを壊しますが、同時に正常な細胞、例えば骨髄の造血細胞も壊しますので、がんをやっつけても、患者さんの体がダメージを受けてしまいます。亡くなられた患者さんの臨床経過上のquality of lifeの状態を見ていて、もっと他の方法でがんとの例えば”共存共栄”みたいな道はなかったのかと思いました。それで、代替医療の情報を集めるようになりました。まず、自分の実験や研究を進める上で、代替医療を評価してみたいということがありました。そうした過程の中で、現代医学の問題点とか、良さを客観的にみれるようになりました。

------代替医療の有効性については、どのようにみていらっしゃいますか

今までの医療のまずさを補完する力はすごくある

遠藤: 効果については、まだ疑問に思う部分もありますが、少なくとも今までの医療のまずさを補完する力はすごくあるんじゃないかと思います。現代医療の一番良いところは早期発見早期治療ということです。非常にハイテク化された医療機器が開発され 、抗生物質も大変威力があり、救命や延命に貢献しています。輸液や輸血についても、非常に役立っています。
抗生物質の開発でいえば、一方でそれによって耐性菌による新たな感染を引き起こすといったこともあり、現代医療には得意な部分とそうでない部分があるといえます。

ですから、これまで全てを現代医療でカバーしようとしていたところに問題があったと思います。例えば、進行したがんとか難治性の慢性炎症性の病気というのは、今までのような薬を使って治療するだけでは副作用が強く完治が難しいことがわかって来ています。また、病気が治ったとしても、肉体的あるいは精神的なダメージが大きかったりとか指摘されています。

現代医療がおよばない部分を代替医療が補えばいいんですが、傲慢にも全て現代医療でできると思ってやってきたのがいけなかったのではないかと思います。一方で、確かに、代替医療のエビデンス(医学的な根拠)も問われてはいますが、まずトライしてみることも大事です。

イギリスに「ランセット」という有名な国際的医学雑誌がありますが、そこの編集長がイギリスの公衆衛生行政の動向に関するコメントを書いており、その中にイギリスの環境省の1990年の「警戒予知原則」の改訂が掲載されています。意訳しますとこういうことです。
『私達は最良の科学情報を用いて、事実を正確に理解して行動する必要がある。しかしこれは、科学的に100%解明されるまで待つということでは決してない。完治目標のために人々の健康が危険にさらされ、よりよい治療法の開発がなかなかうまく行かない状況においては、完治を求める前に予防を考えるべきだろう。科学的根拠が結論に達していなくても、起こりうる代償と公共の利益の釣り合いがとれるなら、公共の福祉を損ね得るリスクを最小限にくいとめる行動を起こす必要があろう』(Lancet 352:252-253,1998)。

ですから、代替医療の有効性が100%わからなくても、現在の医療が非常に大きな副作用があることがわかっている場合には、それはやはり避けて、エビデンスは少ないけれども代替医療を選択する道もあるのではないかということです。そういうことを医者は、患者さんに説明して、選んでいただくという義務があると思うわけです。

その際の大事なことは、どちらか一つの選択というのではなく適材適所に両方の医療が補完しあえるような、医療と情報の自由選択が医療を受ける側の権利として確立していないといけないのです。それから、私の代替医療の第一は、植物栄養素のがん予防、がん治療、難治性の慢性炎症性疾患治療への積極的な導入です。Dr.Gaynor's Cancer Prevention Programという本がニューヨークのケンシントン出版(1999)からでていますが、この本の内容もさることながら、大豆の植物性エストロゲン、魚油の不飽和脂肪酸、オリーブ油中のスクワレン、経口的なカルシウム補給が及ぼすがん予防や抗炎症効果などに関する学術論文は近年著しく増えています。その中にバイオブランやキチン・キトサンもバイオジェニックス(北沢春樹 他:乳業用乳酸菌の免疫賦活化因子 食と生体防御 293-312,Biodefenceシリーズ4 1999 紀伊国屋書店)として加えることが出来ると私は考えます。

------海外での代替医療への関心については

米国では、ここ数年代替医療にかけられた医療費が通常の医療費と拮抗し上回る勢い

遠藤: 先日、こちらのテレビの報道で、米国とカナダで、がん患者の5分の4が西洋医療と代替医療の両方にかかってるということです。80%が併用しているわけです。米国では、ここ数年、通常の医療費より、代替医療にかけられる医療費のほうが上回る勢いといわれています。
行政の取り組みとしては、1992年に米国の国立健康衛生研究所(NIH)に代替医療のオフィス(のちにNCCAM:国立補完代替医療センター)ができて、それがどんどん大きくなって、97年には五カ年計画という非常に大きなプロジェクトが組まれました。今、職員もさらに増えて、関連の施設にも多大な研究費が投入されています(2,000万ドルから6,800万ドル)。センター長のストラウス博士は、昨年(2000年)4月に英国に招聘され、英国政府の代替医療委員会に大きな影響を与え、推進しようという動きが出ているといわれます。ストラウス所長のあいさつにありますが、補完代替医療はグローバルに支持され、発展するという視点に共感します。NIHのサイトには自由にアクセスできます(http://www.nih.gov/)

------NIHの研究テーマとか、具体的な取り組みについては

大豆に含まれる植物性エストロゲンなども研究対象に

遠藤:米国や英国は代替医療については前向きで、今後両国が協力的にミーティングを設けて、教育制度化、許認可、エビデンスベースの代替医療の研究を協議する予定とのことです。英国では、現在7割以上の大学の医学部に、代替医療関係の機関ができ、教育課程もあるといわれます(JAMA 280:1564-1575,1998, BMJ 319:693-696,1999)。

米国NIHの具体的な取り組みについては、昨年(2000年)8月の段階ですが、第1に針灸の生物学的基礎。2番目に進行ガンまたはエイズ患者のターミナルケアをどうするか。3番目に代替医療の人種学的な疫学調査。4番目に乳がんに対する植物性エストロゲンの作用といったことを研究テーマとして挙げています。
余談ですが、北米で有名な話で、日本女性に乳がんが少ないのは豆腐の中に含まれる植物性エストロゲンのせいじゃないかといわれています。米国に比べて、日本女性の乳がん発生率は6分の1といわれています。前立腺がんについても植物性エストロゲンが関与しているとみられていまして、発生率が米国の30分の1と低いという報告があります。

さらに、骨関節炎の発生と進展の阻止。その他に小規模研究として、セントジョーンズワートの抗鬱効果、イチョウ葉の痴呆予防効果、サメ軟骨の抗ガン効果などの検証がテーマとして挙がっています。

------代替医療の普及は現代医療への不信感が背景に

インターネットによる情報開示が代替医療の普及に拍車

遠藤:そうは思いません。不信感でなくて、米国での普及は日本に比べて医療情報が閉鎖されてないからです。インターネットを使うと、かなり専門的なことが詳しくわかります。情報がオープンになっていますから、患者は自分で適切な医療を選べるわけです。主体的に代替医療も選んでいるということです。しかし代替医療即がん治療ではないことも指摘しておくべきです。
例えば、がんについて調べると沢山のネットサイトがありますから、問題点がほとんどわかってしまいます。問題がわかれば、やはり避けますよね。日本の場合は、それがオープンにされていないから抗ガン剤といったら多くの場合、先生の言いなりです。例えば、食べ物にしても、うまく使えば治療薬にもなったりするわけで、医者はそのようなことについても患者さんにアドバイスすべきと思います。
基本的にはエビデンスベースが大事なんですが、前向きにとらえていくといった姿勢が大事だと思います。米国の良さは研究にお金をたくさん注ぎ込むだけではなくて、そこから得たものを教育にも活かし、実践もするということでしょう。

現代医療の良さというのはもちろんあります。しかし、一方で効かないかも知れないが保険適用として投薬する。しかし、何年やってもダメという部分もあるんです。それで、切れ味は薬ほどではないし、100%解明されてはいないけれど、代替医療で用いられているものも現代医療を補完して使っていくという考え方も必要です。ですから、「代替」ではなくて、「補完」、あるいは「統合」という言い方のほうが適切だと思います。北米では「補完代替医療」(Complementary and Alternative Medicine)と言っていますよね。


◆プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

<略歴>
IgA腎症という慢性糸球体腎炎で最もありふれていて、かつ腎不全、透析に進行しやすい難治性疾患の原因解明を目指している。消化管の液性免疫の主役であるIgAの関与と粘膜免疫異常がそれに深く関わっていると考え、マクマスター大学の腸疾患研究プログラムのチームに加わり研究している。

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