腸からはじめる健康生活、腸内改善で病気予防 〜第12回 21世紀食と健康フォーラム
2012年4月23日(月)、東京国際フォーラムで、「第12回 21世紀の食と健康フォーラム〜腸からはじめる健康生活、腸内改善で病気予防」が開催された。近年、腸内細菌のバランスを整え、人が本来持つ抵抗力や免疫力を高めるという観点から、プロバイオティクスが医療分野でも利用されはじめている。

腸内細菌バランスと私たちの健康〜メタボリックシンドローム発症の関連性
北海道大学大学院 農学研究院 微生物生理学研究室 横田 篤

プロバイオティクス、感染防御や免疫調節作用など

プロバイオティクスは生物間の共生関係を意味する生態学的用語を起源としている。「腸内細菌(=腸内フローラ)のバランスを改善することにより、宿主(人など)に有益な作用をもたらす生きた微生物」と定義されている。

この微生物を含む食品(ヨーグルトや乳酸菌飲料)はプロバイオティクスと呼ばれる。プロバイオティクスは腸内細菌バランスを良好にし、便通改善、感染防御、有害物質の生産抑制、免疫調節などに有益であることが知られている。

腸内細菌数、ヒトの細胞数よりも圧倒的に多い

横田篤氏は腸内細菌のバランスとメタボリックシンドロームとの関係について次のように述べた。
細菌は35億年前から地球上に存在し、生物は細菌と共存することで進化を遂げてきた。これは人も同様である。人は母胎にいるときは無菌状態だが、生まれた瞬間から腸内細菌が一斉に棲みつくようになる。

母乳で育てられる乳児の便の95%以上はビフィズス菌だが、離乳後には一気に減少し、さまざまな種類の細菌が腸内に棲みつく。腸内細菌数(平均100兆個)はヒトの細胞数(60兆個)よりも圧倒的に多い。この腸内細菌と宿主(ヒト)との相互作用については1970年代より盛んに研究されている。

腸内で、酢酸、プロピオン酸、酪酸を生成

これまでヒトの大腸は小腸で吸収されなかったものが便になり排出される役割と単純に考えられていたが、近年、大腸内の腸内細菌の発酵作用で主に酢酸、プロピオン酸、酪酸の3種類が生成されていることが明らかになっている。

この3つの生産物は、大腸の健康増進のために大腸上皮細胞の栄養になっている。また、大腸の蠕動運動を引き起こす起爆剤となっていることが判明している。とくに、酢酸は大腸から血中に移動し肝臓で脂肪合成に使われることが明らかとなっている。

酢酸、プロピオン酸、酪酸の3つは短鎖脂肪酸と呼ばれ、有用代謝産物とされている。しかしその一方で、腸内では有害代謝産物を生成する。とくに二次胆汁酸は発がん物質として注目されている。

二次胆汁酸、強力な殺菌作用

胆汁酸は胆汁の主成分として含まれる化合物で、食事中の脂質の消化吸収を補助する役割を果たす。そのため高脂肪食を摂取すればするほど胆汁からの分泌量も増大する。分泌されて消化吸収の手助けをした胆汁酸は腸内細菌と反応すると二次胆汁酸に変換される。

この二次胆汁酸は非常に強力な殺菌作用があるものの、DNAの損傷を引き起こしたり、DNA損傷修復酵素の働きを阻害するなどする。

そのため、二次胆汁酸が生成されないよう腸内細菌バランスで腸内を整える。また腸管内の胆汁酸濃度をあげないよう、低脂肪食を日頃から意識的に摂取することが大切。

また、プロバイオティクス食品の活用が効果的で、とくに乳酸菌やビフィズス菌は、二次胆汁酸を含む有害物質の生産抑制に寄与することが明らかとなっている。

さらに、短鎖脂肪酸を生成し、腸内PHを低下させることで有害物質の増殖抑制、腐敗細菌の増殖抑制、便通改善、免疫系の発達などが解明されている。

腸内細菌叢が肥満の発症に影響

国内では約2000万人がメタボリックシンドロームとその予備軍といわれている。近年は「腸内細菌叢が肥満の発症に影響を与えている」と考えられるようになっている。

マウス実験でも、肥満ラットの腸内は細菌の構成バランスが崩壊していることが明らかとなっている。またヒト試験では逆に、健康的なダイエット食により肥満が解消すると、腸内細菌叢の構成が正常化することが報告されている。肥満になるから腸内細菌叢のバランスが崩れるのか、バランスが崩れるから肥満になるのか、相互の関係性が明らかとなりつつあり、因果関係の研究が続けられている。

高脂肪食、腸内の細菌を減少

腸内細菌叢のバランス調整が肥満治療に役立つのではないかと期待されている。高脂肪食を摂取すると胆汁酸が増大する。胆汁酸とくに二次胆汁酸は強力な殺菌作用を持つため、二次胆汁酸が発生した直後の腸内細菌の様子を観察すると、腸内細菌の多様性が減少し、バランスが崩れる。

つまり、高脂肪食は二次胆汁酸を腸内に増加させる。その二次胆汁酸が腸内の細菌を減少させるのではないか、という「胆汁酸仮説」の検証を進めている。

もちろん胆汁酸だけでなく、薬や抗生物質、ストレスや過労、暴飲暴食や偏った食事、そして加齢でも腸内細菌の多様性が減少し、腸内細菌のバランスが崩れる。それがメタボリックシンドロームだけでなく、免疫力の低下やアレルギー疾患の原因となることも指摘されている。

腸内細菌叢のバランスとメタボリックシンドローム発症の因果関係についてはまだ仮説の段階だが、いずれにせよ高脂肪食は控えめに、そしてプロバイオティクスを豊富に含む食品の摂取に努め、腸内細菌叢のバランスを保つことで、健康維持が可能といえる。


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