”血液の性状を計測し、疾病を防ぐ"

  独立行政法人食品総合研究所
マイクロチャネルアレイ工学チーム長
理学博士 菊池 佑二 氏

近年、増加の一途を辿る糖尿病、高脂血症などの生活習慣病は食習慣が深く関与するとされている。こうした中、個々人の血液の性状を計測し、健康状態を評価する毛細血管モデル装置「MC-FAN」が登場、疾病を未然に防ぐものとして期待されている。開発者である独立行政法人食品総合研究所マイクロチャネルアレイ工学チーム長の池地 佑二 氏に食品と血液の性状との関係についてうかがった。
----最近、「血液がサラサラ、ドロドロ」といった言葉をよく耳にしますが、菊池先生が開発された血液の性状を計測する装置「MC-FAN」とはどのようなものですか

これまで病気を診断する技術はあっても、健康を評価する技術はなかった

菊池:これまで病気を診断する技術は進歩してきましたが、健康を評価する技術はありませんでした。今もって体重計と血圧計くらいしかありません。あるいは、自分の五感で判断する方法しかありません。それで我々はどうやって健康を計量的に評価するかという課題に取り組んできました。

血液の循環が良いことが健康であるというのは、誰も異論のないことですが、とくに重要なのが毛細血管の循環です。組織に酸素と栄養を供給し、炭酸ガスと老廃物を回収します。毛細血管の循環が良いかどうかで、全ての組織の代謝と活性が決まります。

毛細血管の血流を調べていくと、細い管の中を赤血球が変形して通っていることが判ります。白血球はさらに大きく変形して毛細血管を通っていきます。血小板は毛細血管より小さく、そこを通過していきますが、相互に凝集すると毛細血管をつめてしまいます。

毛細血管の血流の実態は我々のイメージとは違います。血液細胞の状況により非常に流れが変わります。白血球の粘着性の増加や血小板の凝集性の増加で毛細血管の血流が滞るといったことが起きます。こうしたことは、これまでもわかっていましたが、計量する方法がありませんでした。そのため、医学の中でも表立って取り上げることがありませんでした。

血液の流れやすさは非常に個人差がある

これは単に技術の問題なのですが、ガラス管などを非常に長く引き伸ばして、毛細血管のモデルを作っても、その径や長さを制御できないなど限界があって、計量が全く出来ませんでした。そのため食品の健康への影響を議論できるような状況ではありませんでした。食品の影響が人によってどう違うのか、病気の人と健康人とどう違うのか全く議論できませんでした。

それでこの課題に取り組み、ニュークリポアファーフィルターと呼ばれる特別なフィルターを使い、血液の流れを計測しました。しかし、フィルターというのは、ろ過目的で作られていて計測には精度が不足しています。そこで、半導体の微細加工技術を導入し、シリコンの単結晶基板に毛細血管と同じ中の微細な溝を加工し、その溝をガラス基板で覆って漏れの無い流路とし、毛細血管のモデルとするという方法を開発しました。

そこに血液を流し込むことで、血液の流れが測定できるようになり、初めて毛細血管レベルでの血液の流動性に非常に個人差があることがわかりました。これは世界でも初めての技術です。

------男性や女性、生活習慣などでも血液の性状は異なりますか

男性は女性と比べ、血液の流れの悪い人が多い

菊池:それで、血液の流れやすさに大きな個人差があることがわかり驚きましたが、これこそまさに健康の指標になると思いました。1500人以上の健常者からもらった血液を測定し、ますますそれを確信しました。

採血時に生活習慣に関するアンケートを行い、血液の流れやすさとの関係が判りました。男性と女性を比べると、男性のほうが血液の流れが悪い人が多い。季節では、冬に血液が流れにくくなることが多い。また食事に関しては、肉を多く食べる人は血液が流れにくくなることが多い。野菜、魚を多く食べている人は血液が流れやすい。

また飲酒についていうと、毎日少量飲む人は血液の流れがよく、飲まない人は流れが悪い。運動については、毎日30分以上1時間以内運動するという人が一番血液の流れがよく、運動しない人は血液の流れが悪い。喫煙については、吸わない人のほうが血液の流れがよく、吸う人は血液の流れが悪い。

こうしたことをみると、虚血性心疾患の疫学的研究で明らかになってきたリスクファクターというのが、そのまま血液の流動性の変化に出ているということです。これまでそうした生活習慣をすると虚血性心疾患が多いということはわかっていましたが、なぜそうなのかというメカニズムは何もわかっていませんでした。

従来の健康診断では「健康」を正確に評価できない

菊池:今回、おそらく世界で初めて血液の流動性という、疾患にそのまま関わる因子のことがより明らかになりました。これが我々の研究の成果です。これにより、いつも血液の流れの悪い人というのは、循環器系疾患になる確率が高いという確信を持ちました。我々は、将来この方法が健康診断に用いられることを目指して努力しています。

現在、健康診断で計れるのは、赤血球や白血球の数、血小板の数、血中コレステロール、中性脂肪などの数や成分の値だけです。そういうもので健康を評価しようとしてきたことに無理がでてきています。健康診断で正常値でも病気になったという人は大勢います。逆に、異常値でも健康だという人もたくさんいます。診断能力が全くありません。

今回、初めて血液の循環機能に直接関わる血液の流れというものを計量評価できるようになりましたが、血液細胞の赤血球 の変形のしやすさ、白血球の粘着のしやすさ、血小板の凝集のしやすさが計量評価できるようになり、はじめて本当の健康診断ができるようになったと確信しています。

これが多くの人に認識されるようになれば、間違いなくこの測定によるデータが一番重要で、あとは付随的なものとなり、はじめて健康の評価ができ、病気になる直前の人を見つけ出ことができるようになります。

参照:毛細血管モデル装置「MC-FAN」でみた血液の流れ

------実際に、東京女子医大ではこの装置を使っているそうですが?

女性が男性に比べて長生きなのは、血液が流れやすいから

菊池:まだ一部ですが、外来でこの装置を用いたり、人間ドッグでも健康診断をしたりしています。我々の主張に共鳴してくれる先生方がだんだん増えてきて実際使っている先生も増えています。

血液の流れの男女差をみると、女性のほうが男性より血液の流れがいいです。もともと女性の方が生活の管理がいいんですね。血液が流れやすいと血液は薄く、流れにくいと血液は濃くなります。多くの研究者は女性の血液は薄いから流れやい、男性の血液は濃いから流れにくいというふうに考えていますが、私は逆に考えています。血液が流れやすいから女性の血液は薄い、血液が流れにくいから男性の血液は濃いということです。

私の考えの方が正しいと思いますが、そういう見方をしている人はまだほとんどいません。女性が男性に比べて長生きなのは、血液が流れやすいからです。血液が1割流れやすいと心臓と血管が1割長持ちします。軽い血液は、流れにくく重い血液を押し出し、循環させるのに必要な力が1割少なくて済みます。そのため、1割長持ちするという非常に単純な原理です。

最近はコレステロールが高い方が長生きだという報告が相次いでいる

女性が男性より長生きであるというのは、女性ホルモンによって動脈硬化の進行が遅いためとか、活性酸素の防御能力が高いためだとかいろいろな議論がありますが、単に未解明にすぎないだけ。また、動脈硬化の進行に関しても、コレステロールが悪いといっていますが、血管壁を養う栄養血管の循環が悪くなると血管壁の細胞の新陳代謝が悪くなって、血管がもろくなります。それで動脈硬化が進行すると私は考えます。

そのようにもろくなるためコレステロールが入ってきて、結果的にコレステロールがたまって動脈硬化になるように見えるから 研究者はコレステロールが悪いといっていますが、違うと思います。その証拠に、最近はコレステロールが高い方が長生き しているという報告が相次いでいます。今までいわれてきたことと正反対になっています。これまで医学会、行政、業界全部が一生懸命、コレステロールを下げることに努力してきて、挙句の果てがコレステロールが高い方が良かったという。大問題です。

血液の流れは記述が難しく誰も研究を避けてきた

菊池:そもそも、コレステロールを悪玉、善玉と分けるようになったのが、混乱の始まりです。本来、そんなことはない。いろいろと矛盾がでてきています。例えば、適量の飲酒は虚血性心疾患を低下させます。お酒を飲むとコレステロール、中性脂肪が上がりますが、説明がつかないものだからお酒は善玉コレステロールを高めるからいいというふうに理論が変わってきています。

最近は悪玉もそのままでは悪玉でなくて、活性酸素に酸化されてはじめて悪玉になるというふに、また話が変わってきています。そういうふうに理解が進んだというか、混乱しています。矛盾も出てきています。

結局、血液の流れが見落とされていたためです。というか、みな血液の流れの研究を嫌がっている。非常に記述が難しく、いざ研究しようとなると記述ができないからです。研究する対象が一過性で、安定していないからどうしようもないということです。繰り返しの再現ができません。どうしようもなくて研究者はみな血液の流れの研究をギブアップしてしまいます。

経済でも、見通しがあたった人は誰もいないでしょう。ここ10年間、専門家と称する人でも、やはり経済の流れは読めなかった。単純でない。理工学の研究者も流れの研究を嫌がります。一番重要なものをみんな嫌がってやらないから、いつまでたってもわからない。

血液の流れの異常が議論されるべきなのに、研究ができないため、みな遺伝子に向かいます。遺伝子は非常に安定した世界なので、明確に記述できます。だから、遺伝子で病気が決まるという考えが出てくる。しかし、遺伝子の解明が進んでくると、今度は環境だったという。

流れというのは、身体においても社会でも重要で、それはみな知っていますが、研究のしようがないからみんな避けている。 そして、成分、物質の世界で議論する。物質に基づかない論文を書いても、審査員が評価できないから、受け入れてもらえない。血液の流れというのは、誰も評価できないから、誰も書かないし、評価すべき人も結局評価できない。

食品が健康にどう影響を及ぼしているかという議論をするときは、その中の有効成分が何かという議論をしないと全員気持ちが落ち着かないんですね。いろんな成分が相互作用しながら全体として流れを良くするという議論がなかなかできない。だから、いつも必ず単一成分を求める。それを見つけて、これこそ動脈硬化の原因です、高血圧の原因物質ですと、そういう議論ばかりをしてきた。それが学会の世界です。

------実際の血液の流れ方や性状については

サラサラ、ドロドロではなく、正確にはよく通るか詰まるかということ

菊池:話を戻します。血液の流れというのは、技術的な問題もありましたが、複雑なものを計量化するということで、我々が開発した毛細血管モデルで初めて可能になりました。一番重要な毛細血管で流れやすさを数値に置き換えます。太い血管だと、差はないはずです。あくまで毛細血管のレベルです。ここで差が出てきます。

みな、血液がベタベタ、ドロドロというイメージで議論していますが、イメージが間違っています。油がとけて、ドロドロになっているというようなイメージは間違いで、そういうことはありません。脂肪成分という水に溶けない成分は、たんぱく質に取り込まれて循環していますからベタベタになることはありません。毛細血管のような細いところを通ったときに、よく通るか詰まるかが、サラサラ、ドロドロの違いなんですね。採血管で採血して振ってみれば、全員がサラサラですよ。その辺のギャップがあります。

------食品と血液の流れの関係については

今は栄養過多で、血液の凝集度が強くて血栓による疾患が増えてきた

菊池: 私共のアンケートの結果、食品が血液細胞に影響するということは明らかになっています。実際に、食前と、食後で計ってみると、変わっているのがわかります。ある食品を食べると確かに血液が流れやすくなります。また、ある食品を食べると逆に流れにくくなるということもわかってきました。例えば、ビタミンCを摂ると、流れが良くなる人が多いです。

今は栄養過多という背景があって、どちらかというと白血球や血小板の凝集機能が高い人が多い。昔の栄養不足の時代は、血小板の凝集が弱くて、出血する人が多かった。白血球の粘着も弱くて、感染が多かった。今のように、栄養過多になると、凝集度が強くて血栓による疾患が増えてきました。白血球に関しても、感染症になりやすいという人よりは、過剰反応をしてアレルギーになりやすいという疾患が増えてきています。今は栄養過多により、自己免疫疾患というような、機能が亢進しすぎていろいろ病気が起きるような状態になっています。

そういうふうに、時代背景が変わってきたということです。それで、今は食品についても白血球の粘着能の亢進を抑える、血小板の凝集能の亢進を抑える作用というのがとくに注目されるようになってきています。ただ、みな誤解するのですが、白血球の粘着、血小板の凝集作用を賦活するのはとても重要なことです。食品の中には、そうした賦活する成分と抑制する成分の両方が必ず入っています。

------その時代、あるいは食習慣によって摂るべきものが変わってくるということですね

今、悪いとされる食品も時代背景が変わると良い食品になる

菊池:どちらが多すぎても良くないのですが、今は時代背景として賦活する成分が多いので抑える成分の方が注目されています。製薬業界もそうです。血小板凝集の抑制剤を一生懸命開発しています。今、血小板凝集の賦活剤を開発する製薬会社はどこにもありません。世界中が競っていかに凝集を抑えるかという薬ばかり開発しています。

それもまたおかしな話ですよね。本当は、バランスよく賦活したり抑制したりということをやらなければいけない。食品はそれをやっています。今は、時代背景的に抑える方の機能性食品が必要とされていますが、時代が変わったら、逆になります。 今、悪いとされる食品も時代背景が変わると良い食品になります。バランスの良い食事が重要ということが昔からいわれてきましたが、結局バランスだったんです。

例えば、昔から動物性油と植物性油とどちらがいいかという議論がされてきました。動物性油というのは融点が高く、室温で固体です。植物性油は融点が低く、液体です。それで植物性油がいいという議論ですが、必ずしもそういうことではないんです。

肉はアラキドン酸が豊富で、魚はEPAやDHAという不飽和脂肪酸が多い。研究では、アラキドン酸が体に取り込まれると、血小板の凝集能を高めますが、血管内皮の細胞に取り込まれると、逆に凝集能を抑えます。EPA、DHAはプロスタクランジンの3番目のシリーズの原料になり、血小板の凝集能を抑える傾向が強い。こうした脂肪酸に関してもバランスが重要ということになってきています。

野菜については、賦活、抑制の両方の成分が入っています。タマネギ類は血小板の凝集能を抑えます。特ににんにくは血小板の凝集性を抑えます。にんにくを食べると交感神経系が活発になりアドレナリンが出ますが、アドレナリンは血小板の凝集能を高めます。またイネ科の植物、大麦は血液の流動性を高めます。麦茶がいいとかビールがいいというのは、こうしたことからもわかります。豆では、大豆の中でも黒大豆が別格です。

------必要なものは個々人によって違ってくるということですね

この食品が良いからといっても、全ての人に良いというわけではない

菊池:こうしたことは理解しにくいですから、特定保健用食品でも取り上げられないですね。単一成分が決まってないとだめという。漢方とは逆です。

漢方はいろいろなものを調合して初めて効果があると考えます。さらに、その調合ができる人が重要になります。漢方のほうが、今の栄養学より、はるかに理解が進んでいます。今の栄養科学、西洋医学がそこに辿り着いていないのが現実です。単一成分しかみていない。

食品は明らかに血液の流れに影響をおよぼします。バランスの良い食事をしていると細胞の機能もよくなり、健康が維持されます。これまでは、そのものさしが無かっただけ。個々人で背景が違いますが、それぞれが血液の流れを見ながら食事を工夫していけるようになります。ある食品はある人には良いが、ある人に悪いといったことがわかってきます。全員に良いものもありますが、だいたい6割です。4割は効果がないか悪くなるものです。西洋薬でも6割で効果があれば良い薬として成りたちます。

勘違いしてはいけないのは、この食品が良いからといってもすべての人に良いというわけではなく、あくまでもそれぞれ食生活という背景があって、ある食品が良く効くということです。

個々人の健康管理に画期的な方法というのはありません。走ったりしても続かない。健康への効果もわからないので続かない。私は、健康管理というのは血液の流動性を管理することですよと、いつもいっています。工場のパイプラインの管理者は 中を流れるものの流動性を管理します。流れにくいとパイプラインは詰まる。まれに、車がぶつかりパイプラインが壊れることもありますが、長持ちさせるためには、流動性の管理を行うことが大切です。将来的に、患者の日常生活を知っている医者と薬局が地域の健康管理に責任を持ち、この食品を食べるようにと薦めることができるようになると予防医学が可能になるのではないかと思います。



◆プロフィール
菊池 佑二(きくち ゆうじ)

<略歴>
1946年、愛媛県に生誕。東京都立大学理学部物理学科卒。大阪大学大学院理学研究科修士過程を終了後、北海道大学応用電気研究所助手、筑波大学基礎医学系講師をつとめる。農林水産省食品総合研究所計測工学研究室長を経て、1996年より同食品工学部上席研究官。2001年4月の独立行政法人化に伴い、マイクロチャネルアレイ工学チーム長になる。1997年、「マイクロチャネルアレイ(単結晶シリコン基板に加工した微細な流路)の開発と応用に関する研究」(血液の測定に応用)で、科学技術庁長官賞を受賞。理学博士。主に、ヘモレオロジー、食品の品質計測法、細胞工学の研究に従事し、講演活動や執筆活動を行う。

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