"統合医療の実践「プラグマティックメディスン」の時代に向けて"
小池統合医療クリニック
院長 小池弘人 氏

90年代に入り、アメリカでは高騰する医療費の抑制で、代替医療の活用を政府が提唱し、そうした潮流は世界的に広がっていった。日本でも、代替医療、さらに現代医療との融合による統合医療が患者主体の医療として注目が集まるが、具体的に医療現場ではどのように実践されているのか。小池統合医療クリニックの小池院長に統合医療への取り組みについて伺った。

--- 統合医療への取り組みについてお聞かせください

小池:10代の頃から鍼灸師さんの勉強会に参加したり、漢方を学んだりしていました。だから、西洋医学をずっとやってきて、ある時から急に東洋医学に目覚めたというわけではありません。

つまり両者の長所及び短所を意識しながら勉強してきました。さまざまな療法を組み合わせたほうが医療としてはより良いのではないか、という素朴な感覚をずっと持っていました。

統合医療は現代医療と代替医療とを架橋する第三の概念です。しかし実際には正しく理解されず、代替医療やサプリの言い換えだったりというのが現状です。

アンドリュー・ワイル氏もいっていますが、現代医療でも代替医療でもない、その二つを架橋し、どう考えていくかというのが統合医療という概念です。それには、まずそれぞれを知らないといけない、ということです。

当院では何か特定のサプリのみを売っているのではなく、そもそもサプリは必要なのか、あるいは鍼や漢方など他のものと組み合わせでやったほうがいいのかという相談から入ります。これを私は相談型統合医療と呼んでいます。

その結果として、サプリの代わりに針や灸をやる方もいれば、ホメオパシーをやる、漢方をやる、あるいは何も必要としない人もいたりとそれぞれです。

このような現代医療と代替医療の両方の立場から医療相談を行うということを当院ではずっとやってきて、今年で9年目になります。

--- 具体的にどのような活動をされていますか

小池:このクリニックを始めてからずっと統合医療のカンファレンスをやっておりまして、かれこれ8年目になります。

統合医療というのは、マネージメントやコーディネイトの領域であり、CAMのどれかに肩入れをするということではありません。

カンファレンスでは鍼灸師さんや臨床心理士さん、自然療法の人達が集まって、一人の患者さんについて考えますが、分野が違うとそれぞれ意見が異なります。


例えば、針の人、ハーブの人はそれぞれ違うことをいいます。健康食品や栄養学に詳しい人、ホメオパシーをやっている人もまた見方が違っていて、それぞれの意見が多元的に並立しています。

その中で、意見のすり合わせが難しい面もありますが、参加者各人にとっても大変勉強になります。そこで、昨年から内輪のみで開催していたものをジャングルカンファレンスといった形で全国レベルで公開していくことにしました。

そして現在は、統合医療カンファレンス協会(IMCI)という一般社団にして、そこでこのジャングルカンファレンスを定期的に開催しております。

医療系の大学を出てないセラピストさんたちの中には、施術が効いているにも関わらず、その発表の方法がわからない、ということがあります。そういう方達に、研究デザインを組むなどして、統合医療学会で発表するためのサポートも行っています。

また、一般の人たちを対象にした、ふくらはぎの揉み方の講座などもやっています。これは一方向的なものではなく、双方向性を強めた集団療法的なセルフケア講座として今後さらに展開していく予定です。

それから、施術者同士あるいは施術者と医師を繋げるということもカンファレンスの重要な役目です。一人の先生が何々療法ができる、これでがんが治ったというようなエピソードで語られる時代から多職種連携へと時代が動いていると思います。

そのために、セラピストたちと実際に医師たちを繋げることで新しい医療システムを作る、連携して一つの医療運動を起こすといったことをやっていきたいと考えています。

統合医療とはかくあるべしといった時代はもう終わり、統合医療が実際の医療システムの中でどうあるべきかという実際的な問題が問われています。概念としてではなく、実際のシステムとしての統合医療の活動に力を入れていきたいと思っています。

--- 米国の統合医療の状況については

小池:統合医療という概念はアメリカ発というわけではなく、日本にも戦前からあったものです。今のようなイメージとは少し異なりますが、漢方の世界ではずいぶん前から統合医療という概念を考えていた人達はたくさんいました。

米国では、アンドリュー・ワイル氏がPIMという統合医療プログラムを作り、アリゾナの大学に講座ができて約20年になります。基本的にワイルは社会全体と繋がり、地域医療をベースとした医療をやっていこうということをいっています。

アリゾナでもこうしたカンファレンスは行われていて、それを参考に僕は始めたわけですが、日本的なものに作り直しています。アリゾナのコピーというわけではありません。

--- 日々患者さんをご覧になっていて、何か変化とかありますか

小池:現代医療がダメで、健康食品も漢方も一通りやったがそれでもダメで、というような人が当院では多いですね。

どんな時代でもいろいろな新しい疾患が出てきますが、それらのマニュアルを一つひとつ追うつもりはありません。対処療法的で近視眼的なことだけでは限界がある、ということを教育するほうが大事だと思っています。

現在CAMには選択肢がいっぱいあるだけに、数打てば当たる的にやった結果、どれも効かないという感じで、それは本人のやり方が悪いのかも知れませんが、そうした選択肢が広がった末に、やっぱりどこにいってもわからないという、医療の根本的な問題に行きつくこともしばしばです。

これをやったら全部治りますよという単純な構造ではなくなってきています。英知を集めて、複合的にやらないといけないと思っています。

--- 病気の原因も複合的なものが多いですから、療法も複合的にやっていかなければいけないということですね

小池:そうですね。現在の難しい病気は複合的な原因であることがほとんどで、単純な線形モデルで考えられるものではありません。外傷・感染といわれるような単純な疾患モデルではありませんから、単純な方法で解決できる問題も実際は少ないです。

病気の原因として、いろいろなケミカルな問題が増えたとしても、本人の内因性の問題もありますし、単純モデルでいえないのも今の病気の特徴です。そうした単純モデルでは割り切れない人たちが実はものすごく増えていて、医療の根本的なあり方が問われているのではないでしょうか。

--- 最近は遺伝子解析で将来的な疾患を予測したりということも進んでいますが

小池:遺伝子解析は一つの選択肢です。それをやりたい人はそれでいいと思います。ただそれこそが全て正しいというようなことはおかしい。そういう面も確かにあるかも知れませんが、そうじゃない面もあります。絶対化して考えないということも大切です。

つまり個々人の哲学が問われるということです。難しい議論をしなければならない段階に統合医療はきていますが、そのわりにはそういう議論はわからないとか、敬遠されます。遺伝子にしろ、客観的事実や疑似科学といわれているようなものも含め、これからどうやって考えていくかがすごく大きい問題だと思います。

--- それぞれ個人差がありますから、どれが効くというのもわからないですね

小池:ぼくが今一番興味を持っているのがそのことです。全ていろんな可能性がある、多元的に真理を認めた場合、それをどう結論付けるか、そういう議論は非常に抽象的になります。すごく哲学的に難しい問題に統合医療はぶつかってきていると思いますが、その辺の理論的な展開は実はものすごく大切なことであると思っています。

結論的な話をすると、これからの統合医療は正しい正しくないというような二分割思考ではなく、多元主義的なとらえ方が重要になってくると思います。多元的な価値観の中で自らが考え選びとっていく姿勢が求められるのではないでしょうか。

そうした真に実践的な医療のかたちを「プラグマティックメディスン」と呼びたいと考えています。これからの統合医療のあり方を象徴していくのではないでしょうか。



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