" 通常のガン検査で見つからないガン細胞を、ごく小さな段階で見つける超早期診断――ガン遺伝子検査 "

  西新宿山手クリニック院長
飯塚啓介 氏

国民の2人に1人がガンにかかる時代。3人に1人は、それで命を落としている。もはや国民病となったガンであるが、食を始めとする生活環境や生活習慣、社会環境、自然環境をみれば、将来この病気が増えていくことは十分予測できる。そこで重要なのは、予防と早期発見であるが、早期発見については、PETなどの最新技術をもってしても、完全とはいえない。しかし、最近ではガン超早期診断プログラムが開発されている。遺伝子検査といわれるそのプログラムを実践し、また、近著で「ガンは生活習慣が遺伝の10倍」と唱え、ガン予防の可能性を示唆する西新宿山手クリニック院長・飯塚啓介先生にガンの最新事情についてうかがった。
----ガンの超早期診断プログラム・ガン遺伝子検査についてお聞か
    せください

飯塚: ガンは、早期発見が第一ですが、検査については最先端といわれるPETでも5ミリ以上の大きさのものしか見つけることはできません。内視鏡検査でも、5ミリが限度です。ガンが5ミリから10ミリになると、ガン細胞は100億個にもなっています。通常の健診でガンが見つかった段階では、すでに10年以上経過していることになるのです。

私が行なっている遺伝子検査は、通常のガン検査では見つからないうちに、もっと前の段階、つまりガンがごく小さな段階で見つける方法で、わかりやすく言えば、「発ガンしないうちにガンにかかるリスクを発見し、未然に予防するチャンスを与えてくれる検査」ということになります。

ガンは、小さな遺伝子の傷、つまり一つの細胞に突然変異が重なって起こるものです。遺伝子検査では、ガン細胞が壊れて血液中に漏れたものを検査するのですが、精度が高く、数千万個のガン細胞が体内を巡っている段階で見つけることができるようになりました。

突然変異のパターンを調べれば、どこにガンがあるか絞り込むことができるわけで、これは画期的なことです。ガンはいくつかの遺伝子異常で起こりますから、たくさんの遺伝子を調べることでより確実なものになっていきます。ガン関連の遺伝子は、約200あると言われていますが、いま私のところでは81個の遺伝子を診ています。これは、世界トップレベルです。

----ガン遺伝子検査にはどんな特徴があるのですか

飯塚:遺伝子検査は、非常にかんたんな検査で、4つの大きな特徴があります。 まず、「超早期診断ができること」。5ミリ以下のガン細胞でも、ガン細胞から血液中に遊離される遺伝子を解析し、細胞レベルのごく小さなガンが存在するリスクを評価します。胃ガンでも大腸ガンでも、1つのガンに5個から10個の遺伝子が関係し、重複することも多いので、遺伝子検査だけからどの部位のガンかは特定できません。しかし、何種類かのガンに絞り込むことは可能です。

2番目の特徴は、「予防管理ができること」。ごく小さなガン細胞が存在しているリスク、あるいは遺伝子変異による発ガンリスクの評価などを継続的に行い、ひとりひとりの体質や生活習慣に合った、最適な予防管理指導ができることです。生活習慣を改善することによって、はじめはバラバラと出ていた遺伝子の異常発現も、減っていくことが考えられます。

3つ目は、「再発防止を管理すること」。ガンを治療した後、ガンが再発に向かって進行しているのか、あるいは、改善されつつあるのか、をリスク評価し、ひとりひとりの状態に合った再発防止指導が行なえます。 そして、4つ目の特徴は、「安全であること」。検査に必要なのは、約20ミリリットルの血液だけですので、体への悪影響を心配することはありません。

----「ガンは、生活習慣によるものが遺伝の10倍」と本に書いて
    おられますが

飯塚: ヒトゲノム計画が完成して、ガンに関する遺伝子が次々と発見されました。ガンに限らず遺伝子が解明されて、どういう遺伝子がどんな病気に関係しているか、わかってきています。遺伝子を調べてみると、あるガンはこの遺伝子が具合が悪い、このガンはこの遺伝子が悪いということがどんどんわかってきました。

遺伝子というと、生まれつき変わらないもので、遺伝すると思われていました。たとえば、高血圧とか糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞という病気は、だいたい10個から20個の遺伝子が関係していて、これを持っている人は、確かに他の人よりも引き起こす率(リスク)が高くなります。

ところが、ガンに関しては、生まれつきガンに関係するという遺伝子は10〜20%しかないということがわかった。それは、一卵性の双子の研究からわかったのです。全く遺伝子の同じ双子の場合、もし遺伝が100%であれば、片方がガンになれば、もう一方もガンになるわけですが、そういうことはないということがわかったのです。

ガンに関連する遺伝子は、細胞の増殖や成長に絶対必要なもので、どの細胞にもある必要不可欠なものです。その遺伝子に突然変異のような変化が生じたときに、ガンになります。ですから、ガンの遺伝子は誰もが共通にもっているということになります。

先天的な遺伝子の構成がガンを引き起こす確率はせいぜい10%、あとは生活習慣などの後天的な要因で決まる。このことは、先日出した本(「ガンは生活習慣が遺伝の10倍」)で詳しく解説しています。

30億も塩基がありますから、細胞分裂をするときにしょっちゅういろんな間違いが起こります。だまっていても、突然変異は起こりやすく、こういう自然に起きる突然変異の確率に対し、それをもっと増強する因子が、食べ物であったり、保存剤、添加物であったり、紫外線、タバコ、ストレス、肥満、放射線であったりすることが、次々とわかってきたのです。

----ガン細胞は、誰もが持っているのですか

飯塚: 一日に3000から5000個の突然変異が生まれていると言われています。一個の異常な遺伝子が原因ですべて病気になるとすれば、みんな病気になってしまいます。しかし、そういう異常細胞は、免疫力や修復する遺伝子の働きでほとんどが駆除されているのです。抑制遺伝子というものですが、ガン遺伝子に対して抑制的に働きます。暴走車にたとえれば、ガン遺伝子はアクセルで、抑制遺伝子はブレーキということになります。

ガンは、アクセルであるガン遺伝子が壊れて異常に増殖し始め、一方のブレーキである抑制遺伝子がうまく働かなくなったときに、ガンになるわけです。

----ガンは予防できるということでしょうか

飯塚: ガンを防ぐ方法としては、免疫力を高めたり、日々のストレスを少なくしたり、リンパ球が十分働くような食事をとったりすることが重要ですが、具体的には10の生活習慣の工夫が必要です。

  1. 適度な運動を継続する
  2. ストレスや過労を軽減する
  3. 禁煙をする
  4. 健康的な体重を維持する
  5. 偏食をしない
  6. 黄緑色野菜などを多く摂る
  7. 食塩をできるだけ少なくする
  8. 動物性脂質などを少なくする
  9. 添加物の少ない食品を選択する
  10. ガン免疫サプリメント
こうした努力によっても、自然現象で起こっている突然変異は防げませんが、後から人為的に加わってくる突然変異については、減らすことができるだけでなく、起こったときに対処する力も高まります。

実際、遺伝子を定期的につぶさに見ていくと、あるときにものすごく悪かった人が、食事などの生活スタイルを変えていくと変わってくる。その証拠が出てきました。遺伝子はしょっちゅう変わっている、ということは、ガンは予防できるということにつながります。

もっと統計的な話をすれば、これは有名な話ですが、アメリカに行った日本人の女性は、アメリカ人女性並みに乳ガン発症率が高くなります。なぜか。これは、食生活、つまり大豆に関係していることがわかってきました。エストロジェンという女性ホルモンに乳腺がさらされるのを、大豆に含まれる成分が防いでくれることがわかってきました。大豆の食べ方が少なくなると、乳ガン発症の増大につながると考えられます。

----ガンにも、流行というか傾向はあるのでしょうか

飯塚: 大腸ガンが増えていることは確かです。これは、日本人の食事の西欧化、ハムなど、保存剤が入った肉類などを食べることと、野菜を摂らなくなったことと関連していることが予想されます。アメリカ人の乳ガンが日本人の5倍であるということは、日本の食事に戻せば5分の1に減らせる可能性があります。

----部位によるガンの特徴については、どうでしょうか

飯塚: 葉巻を吸う人は舌ガン、辛いものを食べたり強い酒を飲む人は食道ガン、タバコを吸う人は喉頭ガン、化学物質を扱っている人は膀胱ガン、アスベストに関係している人は中皮腫、などといった関連性がわかっています。

女性の子宮頸ガンは、HPVというウィルスが起因していますし、前立腺ガンについてもあるウィルスが見つかっています。それぞれの部位によって、はっきりしているものとしていないものがあります。C型肝炎は肝硬変、肝ガンと進行していきますが、白血病を起こすウィルスも見つかっています。全ガンのうち、約20%がウィルスが関連すると言われています。

----ガンの進行度合いなどで、個人差はあるのでしょうか

飯塚: ガンの進行が早いとか、転移しやすいということは、どんな遺伝子に異常があってガンになっているかによって、ちがってくるのです。細胞と細胞をくっつける作用の遺伝子に異常があれば、早くバラバラになって早く転移します。血管を新しく作って栄養をとってくる遺伝子に異常があれば、血管新生が早まり、早く大きくなります。進行の遅いガン、早いガンはあります。前者は治しやすいですし、後者は治しにくいということになります。

因みに、5年生存率を見ると、乳ガン(85%)や前立腺ガン(60%)は高く、肺ガン、すい臓ガンはそれぞれ20%台と、低くなっています。

----ガンになったときの心構えを教えてください

飯塚: いまや、2人に1人がガンにかかる時代で、高齢化はますますこの傾向に拍車をかけています。国民病ともいえるこの病気、誰でもがかかる可能性があるのです。では、万一ガンになったらどうするか。

初めての経験で、気は動転して、ショックで何も手につかなくなるでしょう。ここで大事なのは、決して悲観しないこと。むやみに恐れないことです。一番いけないのは、あきらめることです。「負けてたまるか」と、前向きの気持ちで、何かに生きがいを求め、充実感をもつことです。一人で考え込まないで、家族や友人とよく話し、広く知識を得て、免疫を高める努力を実践することがいいでしょう。



◆プロフィール
飯塚啓介(めしつか・けいすけ)

< 略歴 >
西新宿山手クリニック院長。医学博士。
1949年、島根県生まれ。東京大学医学部卒業後、耳鼻咽喉科、頭頚部外科の臨床研究に従事し、東京女子医科大学講師、防衛医科大学助教授、日本赤十字社医療センター部長を歴任。東京都衛生局参事、特定医療法人徳州会グループ顧問などを経て、2008年3月より現職。遺伝子診断と遺伝子治療を専門に行なっている。主な著書:「ガンは「生活習慣」が「遺伝」の10倍」(講談社)など。

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