”これからは、患者が代替療法をよく理解し、医療を選ぶ時代"

  東京衛生病院健康医学科部長
EBM for Natural Products 推進協議会理事長
水上 治 氏

医療現場で長年にわたり代替医療の実践を行ってきた東京衛生病院健康医学科部長の水上 治氏に、実際の医療現場で抱える代替医療の問題点などを伺った。
---代替医療への関心はいつ頃からですか

水上:学生時代からですから、35年くらい前からです。大学の医学部の3年生の時に、臨床講義が始まり、その時の患者さんが60くらいの男性で、進行性の原発性肝がんでした。大学病院の最高医療を受けている人なのに治療法がありませんでした。もちろん本人には告知していません。本人は、淡々としていましたが、私にはショックでした。医学部に幻想を持って入ったわけではありませんでしたが、そうしたことで最初から西洋医学に限界を感じてしまいました。

それで、これから学ぶべき西洋医学というのは何なんだ、進行がん一つ治せないで医学かと、がっかりして、それから民間療法の情報を集めたり、自分で玄米食を試したりしました。その頃はたいしたサプリメントもありませんでしたが、なにか西洋医学とは違うシステムがあるんじゃないかと、暗中模索で、今日まで行脚してきたという感じです。

代替療法がほとんどまだ軽視されていた時代、実践の場で5年学ぶ

私は大学を卒業した後は、医局に残らないで、当時、東京で代替医療を行っている病院がありましたので、そこで5年ほど実践で学びました。

ほとんどまだ代替医療が軽視されていた時代でしたが、そこでは、内科の一部門で、日野厚という医者が、断食とかサプリメントとか漢方とか組み合わせた治療でがんや難病を治せないかと、代替療法を実践していました。日野先生からいろいろ学びました。

そこは、ベット数が500床以上ある総合病院で、第1内科が西洋医療で、第2内科が漢方で、日野先生は第3内科の部長で、全国からがんや難病の患者さんが大勢集まっていました。第3内科には西洋医学で見放されたようなあらゆる患者さんが常時40、50人くらい入院していて、日野先生も玄米菜食的な食事やサプリメントでがんが治せないかと悪戦苦闘していました。

ただ、私ががっかりしたのは、当時、がんの患者さんも結構いて、一生懸命やって、延命もしたし、QOLもいい状態でしたが、全員亡くなりました。患者さんにしても家族にしてもなんとか治らないかと入院しても結局亡くなるわけです。絶望して、悲しんで去っていく家族を見るにつけ、何かもっといい方法はないものかと心が痛みました。

陰陽論にこだわると、科学的に物を見る客観性が失われる

日野先生は陰陽論にこだわっていて、自分は陰性だからといって陽性のものばかり食べていて、水は陰性だといって一切飲みませんでした。しかし、水を飲まないと腎臓がんになりやすくなります。腎臓に老廃物が溜まりますから。先生は60代で腎臓がんで亡くなりました。

日野先生はもともと腸が弱い方で、死にかけたことがあって、断食で陰陽をやって陽性のものを食べたら元気になったという体験があったんでしょう。ただあまり陰陽にこだわると科学的に物を見る客観性というものが失われると考え、別の道を進むことにしました。

当時は、健康食品といっても紅茶キノコとかが話題になっている時代で、たいしたものもありませんでしたし、一時、サプリメントは棚上げすることにして、まず西洋医学の内科医としてまずジェネラルな医者になろうと思いました。

がんは進行がんになって入院するようになったら中々治りません。やはり、一次予防でがんにならないような体を作ったほうがいいわけです。それで1990年から4年間米国へ留学しました。予防医学、一次予防の大切さを学び、代替療法の洗礼を受けました。

---90年代に入ると、アメリカでは代替医療の利用者が3人にひとりの割合といわれるくらい増えていますね

膵臓がんになった父親に代替療法を試み、再び代替医療に深入りすることに

水上:アメリカではスーパーにビタミンやミネラル剤が3ドルとか、ハーブなんかも多量に売られていました。プロポリスやサメの軟骨も僕は向こうで知りました。

帰国する頃、父親が膵臓がんになっていることがわかって、それならば父親にということで、再び代替医療に深入りすることになりました。いろいろやって、結構うまくいき、がんの進行が止まったり、QOLもすごく良くなりました。サプリメント中心で、食餌もゲルソン療法でやりました。

ゲルソン療法は以前日野先生のもとでやっていた玄米菜食に似ていて、ジュース類をたくさん飲ませたりしますが、進行がんが止まったといった症例もありました。父親のがんは消えませんでしたが。

---西洋医療と併用しながらですか

水上:いえ、やらなかったです。大学病院の消化器科、外科といったあらゆるドクターと相談して、結局やりませんでした。その経験から、代替医療もある程度いけるかな、がんの進行を止めることは決して不可能じゃないなという自信に繋がって、そうしているうちに患者さんがいらっしゃるようになって、あくまで余技ですが、1週間のうち半日だけ代替医療の相談に応じるようになりました。

患者さんへの代替医療については、いろいろやっています。進行がんになると、食欲も落ちますので、食餌療法だけにこだわらず、健康食品を使ったり、注射製剤もよく使います。温熱療法とかよさそうなものも組み合わせています。

---がん患者に代替医療を施す際、抗がん剤も用いますか

水上:ケースバイケースです。ただ進行がんの場合、抗がん剤を与えることは死期を早めることになりかねません。あくまで体力がある時、手術をした直後に、抗がん剤を与えることはいいと思いますが、あと余命が1、2ケ月といった状態の時に抗がん剤を与えると早く亡くなることが多いです。進行がんを治す、止めるということに関しては、外来で通院できるくらいの間が勝負だと思います。

---患者さんに代替医療を施す際、家族の理解とかご苦労が多いと思いますが

水上:進行がんのケアは大変です。一時は私一人で15人くらい進行がんの人を入院でみていたこともあります。肉体的にも精神的にも大変でした。土日もない、休暇もとれない。やり方が違うわけですから、他の先生にもまかせられない。他の先生も、患者さんも僕が休むと不安ですし、そんなことで、疲れがたまり、バーンナウトしかけたこともあります。

私は外来で患者さんと相談する時、必ず治りますとは絶対に言いません。そういう先生もいます。俺に任せておけば治るよという先生もいますが、そんなことを言えるはずもありません。 厳しいですが、ただ希望を持って、代替医療でやりたいのならできるだけサポートします。延命も保証します。QOLも良くなる人も多いです。うまくいけば止まる可能性も充分ありますくらいは言います。事実ですから。ですが、あくまで可能性で、がんの進行が止まるという保証はできません。いろいろな家族の方がいて、そうした人達が全員私のやっていることを理解してくれているわけではありません。

これからは、患者が代替療法をよく理解し、医療を選ぶ時代

患者さんが、代替療法を選ぶということは主体的にそれに取り組むということですし、ある程度、免疫療法的なことについて理解する知性が必要です。これまでは、知性がなくても医者に任せれば最善を尽くしてくれるだろうという時代でした。これからは、患者さん自身が積極的に勉強して最小限の知識を身に付け、理解し、そして医療を選ぶという時代です。その辺が出来ない人は代替療法は向かないです。
ですから、外来でこの人は代替療法が全然わからないなという人はお断りしています。そうしないと、後で、トラブルになりますから。

それから、このサプリメントを飲めばがんが単純に消えると思っている人も困ります。向こうも騙されたということになってしまいますから。どんなにマスコミその他で代替療法のことがわかるようになってきても、中々理解していただけない人達も大勢いると思います。そうした方々に、じっくり話して分かってもらえるかどうかは、難しいところです。いつの時代にも誤解はあるだろうなとも思います。

アメリカでも、代替療法なんてインチキなものをやっているのは、かなり学歴の低い知性の乏しい人達だと思われていたら、逆だったわけです。ある程度インテリジェンスの高い人達が主体的に代替療法を選んでいるということがアイゼンバーグ博士などの調査でも分かってきています。

---代替医療のことを良く理解してもらわないと治癒効果もあがらないわけですね

免疫を支える3大柱は食事と運動とストレスコントロール

水上:そうです。免疫もあがりません。より健康を増進するようなヘルスプロモーションの医学というものが大事です。食事に気をつけ、運動もし、ストレスコントロールもして、リラックスしていれば、健康で生きられるということがデータ的にも相当出ています。

私はがんになった人に免疫を支える3大柱は、食事と運動とストレスコントロールですから、これをまず見直しましょうと言います。がんになったのもこの3つのうちのどれか、あるいは3つのどれもうまくいっていないためだと言います。それをそのまま放っておいてサプリメントさえ飲んでいれば治るというのは考えが甘いです。

毎日100本タバコを30、40年吸って、肺がんになって、慌てて手術をして悪いところを取ったからといって、その後また100本吸うような生活を送っていたのではダメですよね。それと同じです。

ストレスコントロールが下手で、例えば、夫との仲が悪くて、離婚しようと思っているところで、がんになって、そのまま同じ気持ちでいてもうまくいくと思いますか、職場でいじめられたり、ストレスの多い人が発がんした後、手術して前の職場に戻っても、うまくいくと思いますか。

がんの原点はライフスタイルにあります。その人がライフスタイルの中で不本意ながら作ってしまうのです。そこに秘密があるわけですから、それを是正補正していくというのが本来のがん治療ではないかと思います。ストレスが免疫を下げることも動物実験でもわかっています。がんとストレスとの関係も、相当わかってきています。

食事にしても、やはり西洋的な肉食過剰型にがんも多いです。イタリアのデータですが、胃がんの手術した後に再発を防ぐために、あるグループはなにもしない、あるグループは食事の指導をして、ビタミンなどをよく摂るような生活をしますと10年後の生存率が倍違います。再発する確率が半分くらいになりますね。

日本人は、肉をあまり食べないで、大豆を摂り、魚を摂ってきました。昔から、煮野菜も沢山食べたし、キノコも、海藻も、イモ類も実になんでも食べてきました。そうした食習慣が少し失われてきて、西洋型のがんのリスクが今の若い人達に高まってきています。

私は患者さんになぜがんになったのかできるだけ聞くことにしていますが、食事と運動とストレスコントロールの3つのうちどれかが相当やられています。

---今の人は安易にサプリメントに頼ろうとしますが

水上:私はそれには批判的です。安易すぎます。例えば血圧の高い方とか外来で診ていて、薬を出す前に、運動とかストレスコントロールをやったほうがより効果が出ますよと、できるだけ努力していただくよう指導します。そうしたこともしないで、このサプリメントを摂ればいいというのは安易すぎます。

---米国でハーブやサプリメントと薬剤との相互作用の問題など盛んに検証がなされるようになりましたが

水上:これまでいろんな患者さんに相当の例、使ってきて、もちろん抗がん剤を併用したり、他の薬を飲んだりしている人もいますがトラブルは一切ありません。むしろ、薬剤の化学物質による副作用のほうが問題で、アメリカでは1年間で、数万人が亡くなっているといいます。化学物質の相互作用のほうが何百倍も怖いです。

もし、サプリメントの副作用で死ぬとか大変なダメージをこうむるというのであれば注意しなければいけません。ですが逆に薬剤との併用でサプリメントの効果が減弱するくらいで、それによって大変なことが起きているといったことが一例でもあるんだろうかと思います。ただ、薬剤とサプリメントを併用する場合は、その辺に詳しいドクターのアドバイスは受けるというシステムは今後は必要だと思います。

昔からあった天然のハーブにしてみれば、化学物質と一緒に摂るというのは迷惑な話で、おそらく、一つの理由は活性酸素だと思います。化学物質が身体に入ると、生体防御反応として、細胞レベルで活性酸素が増えます。そうした活性酸素はサプリメントやハーブの効き目を悪くします。

---抗がん剤治療は活性酸素を発生させるのが狙いと聞きますが

水上:抗がん剤の主作用も副作用もかなりの部分、活性酸素が関わっています。もちろん遺伝子に作用して増殖を防ぐといったこともありますが、副作用のほうもかなり活性酸素のレベルでもたらされているようです。むしろ、ハーブのような天然のいいものは活性酸素を抑えて、副作用を半減させます。

---抗がん剤投与の際、活性酸素消去に役立つサプリメントを併用したほうがいいということですか

水上:使うほうがいいと思います。アンドルー・ワイル博士は使うなと言っていますが、私は間違っていると思います。理論的には抗がん剤の主作用も減弱する可能性もありますが、実際に併用して抗がん剤の主作用が減弱したという患者は全くいないです。ところが、副作用は明らかに減弱しています。

一回目の抗がん剤投与の時はものすごく苦しんだという相談を受けたら私はハーブやサプリメントを薦めますね。2回目からはこんなに楽だと、患者さんに感謝されます。ドクターも看護婦も楽だとびっくりしています。なぜ、抗がん剤の副作用が出ないのかと、そういうケースばかりです。

---日本もアメリカと同様、市民サイドで代替医療への関心が高まってきていますが

水上:アメリカでも医師会がどう妨害しようが代替医療への志向、うねりというのは抑えきれないですね。西洋医療の限界が見えていますから。西洋医療のいい所は伸ばしていくべきですが、悪いところは謙虚に反省しなければいけないと思います。化学物質一辺倒できて、結局医療ミスだとか、そうしたいろいろな事が起きています。漢方や代替療法は何千年の歴史です。西洋医療はたかだか200、300年です。

代替医療というのは、西洋医療サイドからの言い方で、私は代替とか補完という言葉は好きではありません。臨床データを出すのは難しい点も沢山ありますが、みんなが協力してやればそれなりにいいデータが出てくるはずです。

これからは良質な健康食品をきちんと選別できるようなシステムが必要だと思います。それで、健康食品についての正確な情報を提供するために、私達はEBM推進協議会という会を作ってやっています。例えば、アガリクスで肝障害が起きるということがいわれています。がんセンターで、アガリクスを飲んじゃだめだ、肝臓を悪くすると言いますが、何故なのか謎が解けなかったです。アガリクス自体、単なるキノコで、ブラジルでは食用に供されています。正確に言うと、アガリクス自体が肝障害を起こすというわけではなく、アガリクスに生えているカビをそのまま煎じて飲むために肝臓を悪くするということです。そうした誤った情報をきちんと選別して、整理していかなければいけないと思っています。

---EBM推進協議会の今後の活動は

水上:来年あたりからクリニカルトライアル、臨床的な治験をきちっとした形でやっていく予定です。ただこれもきりがありませんので、どういうレベルでやるか、厚労省の今の新薬の認可レベルや、ダブルブラインドというのは少し無理なので、まず市販の薬レベルのクリニカルトライアル、だいたい60症例をみるような形で、10施設くらいに分散して、きちっとしたデータを取ろうと思っています。

そうした、検証を行ったうえで、良質な健康食品については評価・認証を行いたいと思います。こうしたことが一つの起爆剤になって、消費者が良質な健康食品を選び、代替医療に役立てばいいかなと思います。



◆プロフィール
水上 治(みずかみ おさむ)

<略歴>
1948年北海道函館市生まれ。73年弘前大学医学部卒業・(財)河野臨床医学研究所附属北品川総合病院内科勤務。78年東京衛生病院内科勤務。85年東京医科歯科大学で疫学専攻。94年に米国ロマリンダ大学公衆衛生大学院を卒業。現在、東京衛生病院健康医学科部長・健康教育部長。医学博士。米国公衆衛生学博士。EBM for Natural Products 推進協議会理事長。著書に『健康を創る』(福音社)、『慢性病の食養生』(主婦と生活社)共著、『食をうばいかえす!』(有斐閣)共著等多数。<専攻>内科学、心身医学、東洋医学、公衆衛生学、臨床栄養学、食物アレルギー学、スポーツ医学、温泉医学。

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