“ 特定保健用食品誕生の経緯、今後の行方 ”

  機能性食品コンサルタント
中川 邦男 氏

平成3年に「健康表示」が許可された特定保健用食品(以下、トクホ)の制度がスタートし、現在171品目の商品が誕生している。食品でありながら生活習慣病への対応の他、疾病予防に役立つとして大きな期待が寄せられている。(財)日本健康・栄養食品協会の元特定保健用食品部長で、現在特保の開発・申請の相談業務を行う中川邦男氏にトクホ誕生までの経緯、問題点、今後の行方などうかがった。
---特定保健用食品誕生の経緯についてお聞かせください

10年間におよぶ文部省プロジェクトの研究成果がベースに

中川: トクホ誕生にあたっては、まず文部省のプロジェクトがスタートしました。'84年から'86年まで御茶ノ水大の学長をされていた藤巻正生先生が中心となって、農学、薬学の大学の研究者、日本中の機能性食品関係の研究をされている方々と共に組織的系統的に食品の有効性や機能性についての研究(「食品機能の系統的解析と展開」)を進めました。

その2年間で、食品には栄養機能(一次機能)の他に、味覚(グルメ)の二次機能、そして身体の調子を整える三次機能があるという概念付けが行われました。

その後も'88年から'90年まで「食品の生体調整機能の解析」(代表:千葉英雄先生)の特定研究を行い、さらに'92年から'94年まで「機能性食品の解析と分子設計」(代表:荒井綜一先生)が引き続き行われ、結果的には10年間プロジェクトは進められました。この間、'87年には厚生省で機能性食品を一つのカテゴリーとして法律の一ジャンルに位置付けようということも発表しています。

それをうけて、'87年頃に機能性食品ブームが起きます。しかし、そうした時に健康食品も自然食品でもなんでも機能性ということをいうようになりました。それで、消費者が混乱するようなことになってはいけないということで、'88年に機能性食品懇話会(座長:阿部達夫先生)が組織され、機能性食品でも優良なものだけは認めていこうということになりました。

これだけ生活習慣病が増えてきているのは薬に限界があるからであり、食品の機能性がこれだけはっきりしているのであれば、それをもっと活用すべきだ、その場合、一般の人が使いやすいように効能表示をはっきりさせないと混乱するため、なんらかの表示制度を作らなければいけないのではないかということになりました。

それで機能性食品懇話会では'89年に中間報告を行いますが、これが骨子になってトクホ制度へとつながっていきました。そして、'91年9月1日にトクホ制度がスタートしました。

しかし、この時、トクホは栄養改善法の中で特別用途食品という病人とか妊産婦とか乳幼児向けの食品に別枠で付け足された格好となりました。この時に機能性食品という名前が残ればよかったのですが、特定保健用食品という聞きなれない名前にされたため、それでは消費者にはわかりにくいということでメーカーの方はがっかりしました。

---「明らか食品」に絞られたことも企業の落胆を深めた要因と聞きますが

食品系という制約ができたことで、後々まで海外との整合性がとれない結果に

中川:それも確かにあります。食生活の改善を通して体の調子を整えるものだから食生活に使いやすいものでなければいけないという理由付けがされました。

ここで食品形でなければいけないという一つの制約ができたことで、後々まで海外の制度との整合性がとれないという結果を招くことになりました。

もう一つは、特定保健用食品というのは効用をはっきり消費者に知らせなければいけませんが、その時壁になるのは薬事法との問題、薬との差別化をどうするかという問題です。現在、トクホを申請しているメーカーはいかに健康強調表示の方向へ引っ張っていくかということが課題になっていますが、その時の壁になっているのが薬事法の46通知です。これに細かく例を挙げて、これは薬の表現ですよといったことが書いてありますが、それに抵触してしまいます。

トクホは健康に効能があるという学術的な答えが出ているわけですから、栄養表示ではなく健康表示を食品につけたいわけです。食品には栄養表示と健康表示があります。栄養表示は含量表示、多いか少ないかの比較表示と栄養の機能表示の3つがあります。栄養の機能表示は栄養表示基準の時に厚生省がぼかしていますが、今、逆にこの機能表示を栄養補助食品にあてはめる可能性も出てきています。

今まで一般の食品で栄養表示基準で許可されているのは含量表示と比較表示です。それ以外に食品で健康表示を許可していこうというのがトクホで、トクホだけが唯一健康表示(「保健の用途表示」)が許されています。ところが日本の健康表示というのは栄養機能表示が混ざっています。海外でいう健康表示とはまたは健康強調表示とは違いがあります。はっきり言えば生ぬるいというのが、今の健康表示です。

---ヨーグルトや飲料など特保商品は現在171品目あるといわれますが、どのような人達が摂るとよいですか

トクホは医薬と比べるとヒト試験の人数は少ないもののその試験結果からは比較的短期間に正常な状態に体調を調節するという試験結果が出ている

中川:今は成人の4人の内の3人が半健康であるといわれています。成人病から生活習慣病へと呼び名が変りましたが、栄養のバランスの崩れと病気の素因が重なって長年の習慣の上でいびつになって生じるのが生活習慣病です。トクホというのは、栄養のバランスの崩れを正す食品ということがいえるわけです。

例えば、栄養が過多になると、脂肪が過剰になって高脂血症になったり、あるいは塩分を摂りすぎて高血圧になったりします。逆に不足しますと、例えば鉄分が少ないと貧血になるとか、カルシウムが不足すると骨粗しょう症にかかったりします。こうしたことが生活習慣病へとつながっていきます。

栄養の偏りなどから生活習慣病にかかるというのは10年くらいの期間を要します。長年の生活習慣によって病気になるわけで、逆に栄養のバランスを今日正したからといって、明日から病状が良くなるわけではなくて、栄養を正したとしても5年とか10年かかって体調が正常に戻るわけです。

ところがトクホというのは試験の人数は少ないですが比較的短期間に正常な状態に戻るという試験結果が一応出ています。機能性食品の機能が働いているわけですから、即効性があるというのは言い過ぎかも知れませんが、効き目があるわです。トクホはヒトによる試験がされていますから、それが20、30人の試験であろうと、主として半健康人を対象に試験していますので、そういうことを科学的にあまりやっていない健康食品よりは客観性があるといえます。

トクホは医薬ほど多くの人数でヒト試験をやっていないのでどこまで機能・効果が信用できるかということがありますが、医薬は病人を対象に試験するのに対し、トクホは半健康人を対象に試験しています。他の健康食品と比べるとそれなりに科学的根拠があるといえます。こうした機能性食品の評価システムは世界で日本が一番きびしいです。生データも安全性のデータや安定性データも要求します。

最近は許可後もフォローアップの実験データを出しなさいといわれるようになってきています。 厚生省のお墨付きをもらうために開発するメーカーは500万円とか1000万円とかあるいはそれ以上研究開発費用を出して1年とか2年以上かかかって許可をとるわけですから、なぜ消費者はそれにもう少し目を向けて賢く利用しないのかなと思います。現在トクホ商品は生活習慣病への対応が出来るものが揃ってきています。

このトクホ制度は日本が一番最初にスタートして、イギリス、スエーデン、中国などが後に続いて制度化を進めています。平成7、8年頃は毎月のようにトクホの資料が欲しいと世界中から調査団が来日しました。現在食品に健康効能をうたう法律を作ろうとしている国は日本のトクホ制度を多かれ少なかれ下敷きにしています。

---トクホ商品の今後の展望について

問題なのは社会的な認知が低く、医者や栄養士の認識が浅いこと

中川: トクホ制度は平成3年にできましたが、認知率は今20%ほどです。実際にトクホを理解して利用している人は15%くらいで、健康表示に関心を持っている人は35%といわれます。制度発足から8年も経過しますが認知が低いといえます。マーケットサイズは年商2,000億円と推定されています。

トクホ制度は世界でも一番最初にスタートして、世界がモデルにしていますし、無くなることはない、むしろ日本がリードして発展させるべきと思います。今後高齢化が進んで医療行政の破綻が深刻化してきますが、代替医療に役立つような食品形態にしていく必要があるかも知れません。問題は社会的な認知が上がっていないのと、医療関係者とか栄養士の認知が低いということです。また学術的にも臨床栄養学などの基盤が整っていないということがあり、そのギャップをどう埋めるかということがあります。

トクホのあり方については日本独自の制度として進めるか、外国と整合させるかということで揺れていた時期がありましたが、一番問題なのは形態です。食品の形態でありながら医薬に近い健康効果があるわけで、錠剤・カプセル形態のいわゆる栄養補助食品や健康食品とどっちが効くんだということで消費者のほうが混乱しかねないといった問題があります。形態の融合も今後起こるかも知れません。


◆プロフィール
中川 邦男(なかがわ いくお)

<略歴>
1935年大阪府生まれ。大阪大学理学部化学科卒業農学博士(東京大学)。大手食品会社主任研究員、試薬部長、薬制情報部長を経て、(財)日本健康・栄養食品協会に出向、特定保健用食品部長として特定保健用食品の開発・申請の相談・指導(1997年10月に退職)。現在、機能性食品のコンサルタント(開発・申請の相談・指導および講演活動)等行う。

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