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 ナットウキナ−ゼの経口投与による血漿中の繊維素溶解活性の増強
須見洋行a,浜田博喜b,中西幸一郎c,平谷一c
a宮崎医科大学 生理学部 宮崎 日本
bオクラホマ州立大学 生物化学部 オクラホマ 米国
cJCR製薬 生物化学研究所 神戸 日本

キ−ワ−ド: ナットウキナ−ゼ・経口繊維素溶解療法(経口線溶療法)・血栓溶解・ 組織プラスミノ−ゲン活性化因子

【 要旨 】

以前われわれによって'納豆'という伝統的な発酵食品に強力な線溶酵素(ナットウ キナ−ゼ,NK)の存在が示された。線溶パラメ−タや,組織プラスミノ−ゲン活性 化因子の生成に示されるように,NK(あるいは納豆)の経口薬投与によって血漿中の 線溶活性が穏やかに増強されることが確認された。また,実験的に血栓を起こさせた 犬にNKカプセルを経口投与し,血栓が溶解されることを血管像影によって示した。 NKの安全性は実証済みであり,大量生産も可能であることから,これらの結果は, NKが塞栓症の治療ばかりでなく疾病の予防薬としても利用可能であることを示して いる。

【 緒言 】

経口投与による線溶療法は,10年前に須見とその協力者[1,2]により,ウロキナ −ゼ(UK)のカプセルを正常な犬と伏在静脈に血栓のある実験用の犬に投与するとい う動物実験によって研究された。以前われわれは静脈注射では明らかな血栓溶解の効 果が認められないことを示したが,経口投与では穏やかではあるが持続的な線溶活性 の増強が認められることを示した。

このような経口投与による線溶療法のメカニズムは,基礎的な研究によって,投与さ れたUKが腸管から吸収され,肝臓および/あるいは内皮細胞由来の2次的なプラス ミノ−ゲン活性化因子[3-6]の血液中への放出によるということが確かめられた。 大脳血栓[7,8]に対してもUKカプセル(7日間 60,000 単位/日)は有効であっ た。さらに,7日間 120,000 単位/日の投与という2重盲検査法でもより効果的な結果 が確認できた[9]。

それでもまだ経口投与による線溶療法に関してはいくつかの問題が残っていた.最 重要課題は血栓溶解酵素のコストと腸管内での安定性の低さであった。 そのため,経口投与用の線溶療法薬を検索して,UK以外に使えるような血栓溶解酵 素の評価が必要となった。 腸管出血が認められたため,ストレプトキナ−ゼ(SK)[10]やミミズのランブリカ ス ラベラス(LBP)[11]では好結果は得られなかった。

一連の実験で,われわれ は酒類を含む173品目以上の天然物食品についての循環系への影響を調査する過程 に,日本の伝統的な発酵食品である'納豆'に他の食品には見られない強力な酵素を 発見した。分離した血栓溶解酵素はプラスミンに似ていた。それは高い血栓溶解活性 を示し,ナットウキナ−ゼ(NK)[12]と命名された。

微生物であるバチルスナットウからNKは大量生産できる。それはきわめて安価で温 度や酸アルカリにも比較的安定である.純化が容易である。薬用の見地から最も重要 なことは納豆が日本で広く1000年以上も日常的に食されてきたという事実で,経口薬 としての安全性は充分に証明されている。 この研究で納豆とNKの経口投与によって長期間血漿中の線溶活性が高められるこ と,およびこの現象が生体内のプラスミノ−ゲン活性因子(TPA)の活性化と関係が あることを明らかにした。

【 素材と方法 】

ナットウキナ−ゼの製法
ナットウキナ−ゼは以下の方法によって抽出された[1,2]。 日本納豆組合連合会か ら入手した 5Kg の納豆に 4?の蒸留水を加え,室温で1時間攪拌する。25volume%の エタノ−ルで抽出する。上澄みの浮遊物を除去した後,ガ−ゼで濾過し,3000rpmで 10分間遠心分離する。次に上記の手続きによって得られた上澄み液を凍結乾燥する (この段階で人間の血漿プラスミンを標準にして約2.13cu/mgの活性を含む)。 分子量は約20,000ダルトンで,Ouchterlony法あるいは ELISA法では,UKあるいは TPA抗 体とは反応しなかった。 NKの被包カプセルは前報と同様の方法で製造した[2]。 250mgと650mgのNKを含有する2種類のカプセルを製造した.同時に有効成分を含ま ないブラシボカフセルも製造した。

犬の血栓実験モデル

前報[2,13]同様に雑種犬(♂,体重 10.1〜10.6Kg)を使って行った。実験的な血 栓は牛の繊維素と牛のトロンビンを犬の外部伏在静脈に注射することによって発生さ せた。4つのカプセル(1カプセル当たり250mgNK)とブラシボカフセルが犬に経口投与 され,十二指腸に達したところで血漿中の線溶活性が測定された。

血栓溶解は大腿動 脈にカテ−テルを挿入し,2秒間4m?の造影剤を注射して血管造影法[13]によって 評価した。血管造影の写真は血栓を起こす前と血栓症になってから,2.5,5,12, 18,24時間後に撮影された。

人への経口投与と血栓溶解活性の評価

12人の健康な日本人のボランティア(男6人女6人,年齢21才から55才まで)に 200gの納豆または大豆の煮物(コントロ−ルグル−プ)が朝食前に1回与えられるか, またはNKの入った2つのカプセル(1カプセル当たり650mgNK)を日に3回食後与 えられた。

抗凝結剤として1/10量の3.8%のクエン酸ナトリウムを加えて,定期的に 血液が採取された.NK投与グル−プの血液採取は常に朝10:00に行われた.血漿中 の酵素活性はChohanらの方法[14]を採用して全凝血の分解時間(WBCLT)から決定し た。

血漿は0.12Mの酢酸ナトリウムバッファを用いて10倍に希釈した.真性グロブリンの 分解時間(ELT)は,凝血の分解時間レコ−ダ(リコ−商事,日本)を使って Milstone法 [15]によって決定した。真性グロブリン線溶活性(EFA)は,Kluftらの方法[17]に よって真性グロブリンから得られた分画を用いて,AstrupとMullertz[16]の標準血 栓プレ−ト法によって決定した。活性度は0.03m?の真性グロブリン溶液で37℃18時間 処理して得られた分解面積で表した。

牛の繊維素はArmour社から購入し,牛のトロン ビンは持田製薬より購入した。血清中のfibrin/fiblinogen(FDP)の分解生成物は帝国 ラボラトリから購入したFDPLのキットを使ってラテックス凝集塊法[18]で検査し た.血漿中のTPA抗体は,スタンダ−ドとしてメラノ−マTPA(単鎖型)を含んだ BiopoolラボラトリのELISAキットを用いて,Bergsdrolfらの方法[19]によって評価し た。

【 結果 】

NKの効果の調査の前に予備実験を行った.日本で市販されている200gの納豆を12 人の健康なボランティアに与え,血漿中の線溶活性を定期的に計測した。コントロ− ルとしては,2週間後に同じ被験者に同量の煮豆大豆を与えた。

表1に示すように, コントロ−ルではデ−タ(P>0.1)の変化はわずかであったけれども,1回目の納豆投 与の後,明らかなELTの短縮とEFAの上昇が確認された。血漿中の線溶活性の増 強効果は長時間(P<0.005,2〜8時間)持続した。

1.3gのNKを含有するカプセルが毎日3回食後に投与された.血液は毎朝10時に 採取され,線溶パラメ−タが血清と血漿について計測された。 いくつかの血漿阻害因子を含んだ反応系(WBCLT)によって得られた結果は,NK (851±1,032min)投与前の数値と投与後8日目の数値との顕著な差は無かった。

注目すべき変化は2日目(623±766min)に観察されたが,顕著な差というほどのもの ではなかった。図1に示すように,EFAはNKを投与後1日目から8日目にかけて 徐々に増加した。また血清中のFDPのレベルは,NK投与後1日目の時点で予備投 与(図2)に比べて統計的に明らかに高(P<0.001)かった。長時間経過した後では,血 液中の線溶活性に関係する因子として知られているTPA抗体の量にも有意差 (P<0.05)が認められた(図3)。

犬のNKの効果は数匹の動物でしか認められなかったが,実験的な血栓の溶解は観 察できた。比較としてプラシボを与えられた6匹の犬のグル−プには,ELT値は投 与後2.5〜12時間に60±10min以上の差はなかったが,NKを経口投与された3匹の犬 のグル−プではELT値の短縮傾向(繊維素溶解能の増強)が観察された(30±18, 41±13,54±11,55±9min,それぞれ投与後30分,1,3,6時間後)。

血栓溶解に関して,血管造影法によって比較のコントロ−ルグル−プでは投与後18時 間経過しても溶解の証拠は確認できなかったが,納豆投与のグル−プでは投与後5時 間以内に完全な開通することが確認できた。血栓溶解に対するNKの効果が確認でき た。

【 討論 】

SKやUKよりも血栓に対する作用の強いTPAとpro−UKが塞栓症の治療薬 として開発され,これらが現在静脈注射で臨床的に用いられている。 また,遺伝子操作によって長い半減期を持った血栓溶解酵素,あるいはAPSAC (プラスミノ−ゲン・ストレプトキナ−ゼ活性複合体)のような化学的に改良した血栓 溶解酵素が開発されている[20,21]。

しかしながら,これらの酵素は期待した程度 の血栓溶解のレベルには達していない。これらの酵素で血栓溶解するためには大量に 長期間投与する必要がある.その理由の1つとして,これらの酵素の半減期が短く (20分以下),投与後すぐに肝臓と腎臓で分解されて消えてしまうという事実が上げら れる。もし酵素が化学的に改良されたり,遺伝子操作を受けていても,SKや他の分 子と同じく免疫学的には非自己タンパクとなってしまう。

また,UKが投与されたときには投与の終了後直ちにリバウンド現象が起こり,一時 的にELTが延長する[6]ことも知られている。このように体外から投与された酵 素には限界がある。

一方,体内由来の線溶酵素で血栓の溶解を促進するという方法がある。 経口投与されたNKは経口投与されたUKと同様に,人体は外来の酵素の補助効果よ りもプラスミノ−ゲン活性因子に対して有効に利用できるが,これは効果的な生物学 的治療法であると考えられる。さらにこれは病気の予防にも使用できる。

表1と図1-3のデ−タは納豆とNKともに比較的長時間繊維素溶解能を増強するこ とを示している。以前 Fearnleyら[22]は,血の固まりの溶解時間テストによって 繊維素溶解には日周期のリズムがあることを示した。われわれの場合には、血漿の線 溶活性は午後6時に最低になるけれども24時間毎の差はそれほど大きく(P>0.1)な かった。対照的に納豆とNKの活性はずっと高い値(P<0.005,2〜8時間で)を示し た。

図2のデ−タは血清FDPの一時的効果を示している。 健康人では,FDPの増加はプラスミノ−ゲン活性因子による血栓の溶解の減少を意 味しているように思われる。

血漿の線溶活性の増強は経口投与されたUKと同様に腸管からのNKの吸収によるも のと考えられる。われわれの研究では納豆にNK以外の別の線溶酵素は見つからな かったが,Ohkuroら[23]は納豆菌を与えられたマウスやラットはムコ多糖分解リゾ チ−ムが吸収され,血液中に運ばれることを報告している。

線溶酵素の経口投与の効果を測定するときには,血漿中のTPA抗体の量が非常に 重要である.図3に示すようにTPAのレベルも明らかに長時間にわたって増加し, 持続している.NKはTPA抗原性を示さないから,これらの結果はおそらく少量の NKが血漿あるいはリンパ液から吸収され,肝臓または血管の内皮細胞でTPA型の プラスミノ−ゲン活性因子を合成することを示している。

経口投与のUK,SK,LRPは10年間ほど用られているが,NKの歴史よりは遙 かに短いものである.なぜなら納豆は日本では1000年以上もの間,日々の食材の1部 となっており,その安全性は十分に確かめられている。伝統的に納豆の心臓と血管の 病気に対する効果も知られている[24]が,これらはNKの存在によるものと推測さ れる。

このようにNKはそれ自身線溶療法におけるもっとも優れた天然薬であること を示している。前報[25]で示したように,UKはミトマイシンCの活性を促進す る。また,最近の中国の研究グル−プ[26]によれば,繊維素溶解薬'912'を含んだL RPの研究で,ある種のガンの療法に非常によい結果が示されている. 抗ガン剤としてのNKの有効性に関する研究とその特性に関する研究は現在進行中で ある。

Table 1. Fibrinolytic activity in the plasma after ingestion of natto
納豆摂取後の血漿における腺溶活性
ELT,h
EFA,mu

Time after ingestion of natto
0h
31.5±6.2
0
2h
16.4±8.6
8.4±5.1
4h
16.7±6.6
15.2±3.0
8h
19.3±12.0
5.8±4.1
12h
27.4±10.3
1.9±5.2
24h
31.9±8.9
0.8±0.6
Time after ingestion of boiled soybeans
0h
32.2±6.3
0
2h
33.4±9.0
0
4h
35.2±4.8
0
8h
36.1±5.5
0
12h
34.6±7.3
0
24h
34.6±7.7
0.4±0.2

Healthy male volunteers were given 200 g each of natto or boiled
soybeans. Plasma was collected and the ELT and EFA were measured. Each value represents the mean±SD(n=12). p0.005:significantly different from the control.

健康な男性ボランティアに200gの納豆または大豆の煮豆を与えた。 血漿が採取されELTとEFAが測定された。測定値は平均±標準偏差(n=12) であった。* p<0.005;コントロ−ルから顕著な差。


図1)
真性グロプリンの線溶活性に及ぼす経口NKの影響.健康なボランティア(男 6名と女1名)が日に3回食後に1.3gのNK入りのカプセルを飲んだ。定期的 に採血し,EFAが標準フィブリンプレ−ト法によって計られた。活性度は 37℃18時間後の分解面積(mm2)で表現した。各値は平均±標準偏差(n=7)。

図2)
血清中のFDPの量に関するNKの影響
血清中のFDPの量はNKの経口投与後定期的に測定された。 各値は平均±標準偏差(n=7)。

図3)
血漿中のTPAの量に関するNKの影響
NKの経口投与後TPAの量は定期的に測定された。 各値は平均±標準偏差(n=7)。

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