”未病対策、穀物菜食で"

  元国立がんセンター中央病院栄養管理室長
元島村トータル・ケア・クリニック 穀物菜館館長
野口 節子 氏

日本人の食生活は、この40年ほどの間に、いちじるしく欧米化が進んだ。その一方で、がんや心臓疾患など生活習慣病による死亡率は急速に伸び続けている。これについて元国立がんセンター中央病院栄養管理室長の野口先生は、近年肉や脂質の摂取が増加し、穀類や野菜類の摂取が減っているためと語る。先生が勧めているのは、自然治癒力を高めるという“穀物菜食”。その内容とは---。
----様々な患者さんに対し、食養による治療のサポートをされているということですが

「身土不二」と「一物全体食」を心がける

野口:私が指導している「穀物菜食」とは、玄米などの穀物を中心に、季節の野菜、豆類や大豆 製品、ゴマ、海藻類を取り合わせ、動物性の食品は摂り過ぎないようにする食事です。また食品添加物や農薬を使用した食品はできるだけ控え、砂糖もほとんど使いません。

食材は「身土不二」と「一物全体食」を心がけます。「身土不二」とは身体(身)と環境(土)は分けることができないという意味です。つまり土地柄と季節に合った食べ物を食べるということ。

また「一物全体食」とは一つのものを丸ごと食べるということです。過食は厳禁、腹八分目を心がけ、よく噛んでゆっくりと楽しく食べます。そうした食生活を送ることで、体調は確実に良い方向へ向かいます。

私が基本に考えているのは、東洋医学でいわれる「陰性」と「陽性」のバランスです。人間の体質は一人一人違っていますが、大きくはこの二つのタイプに分けられます。食品もそうです。

すべてのものが陰あるいは陽の性質を持っています。この二つは相対するもので、どちらが良い、どちらが悪いというものではなく、両者の中間が良いのです。東洋医学の言い方を借りれば「中庸」の状態です。

健康を維持するには体を常に陰でも陽でもなく中庸に保つよう心がければいいのです。陰性体質の人は、体温は低く血液は薄い人が多い。

また肉体的疲労を感じやすく、体型は痩せ型。便は柔らかくなり下痢がちで、アルコールを飲むと青くなる傾向がみられます。性格は内向的な人が多いですね。

逆に、陽性体質の人は、体温が高めで血液は濃い。精神的な疲労を感じやすく、便は硬く便秘がちです。性格は外交的な人が多いといわれます。

もちろん、このように大別されてはいますが、男性と女性との生理的な違いなどもありますし、個人差もありますので一概には言えません。ただ、いずれの場合も陰陽のバランスがどちらにも大きく傾いていない状態こそが、健康的で病気に罹りにくいのです。

クリニックでは、穀物菜食を治療の一環として導入し指導しています。これまで薬を飲んでも治らなかった高血圧や高脂血症、また糖尿病の患者さんが改善されるケースが増えています。また穀物菜食を指導したことにより肥満の患者さんの体重コントロールがスムーズにできています。この栄養指導は飽食の時代だからこそ求められている食養生であり、あらゆる食習慣病の予防につながると思います。

------主食は玄米を薦められているようですが?

主食はできるだけ玄米を薦めていますが、玄米がどうしても食べにくいという人や玄米に抵抗のある人には、白米を7分づきや5分づき米にしたり、麦ご飯や胚芽米、雑穀を入れて炊いたりということを勧めています。

未精白米、ことに玄米は食物繊維が豊富なので便秘がちだった人では、まず便通がよくなることに気付きます。一般に便秘症の人では食欲不振や不眠、頭痛やめまいなどの神経症状を伴いがちですが、便秘が改善されれば、これらの症状も消失されていくことが少なくありません。玄米は、さらにビタミンやミネラルも豊富ですので、生理作用も円滑になり、からだ全体の機能も高まり、いろいろな症状も同時に軽快していくことが多いのです。

また、玄米を食べていると食べる量や嗜好が今までとは違ってくることが多く見受けられます。@食べる量が少なくなるがお腹はすかないA野菜類を多く食べるようになったB肉が欲しくなくなったC甘いものを食べなくなった。などといわれる患者さんが多いのです。

このうち食べる量については、玄米は白米より栄養バランスがいいので、比較的少量でも不足感がないのです。また、よく噛むことにより満腹感の得られることも少量化の一因となります。肉類については、身体が要求しなくなってきます。このような変化は穀物菜食が人間の食性に最も合っている食事だからだと思います。長い間、穀物菜食に頼ることが多かった日本人の食生活の側面を物語っているように思います。また、サプリメントはあくまでも補助食品です。健康のためには毎日きちんと食事をとることが、当然のことながら最も大切です。

------食事療法というと、どうしても我慢しなければならないこともあると思いますが。

食事は我慢して食べるものではありません。おいしければ消化液もたっぷり分泌され、咀嚼もよりリズミカルになります。まずければ嫌悪症状になり食欲はわかず、時にははいてしまうこともあります。身体が受け付けてくれないのです。患者さんの体質や体調、また季節に合わせた調理法で、心をこめて作ってあげたいものです。

島村トータル・ケア・クリニックでは、患者さんの状態を見ながら食事をお出ししています。ですから患者さんに喜ばれています。出している方も患者さんに喜ばれるとうれしいものです。料理も五法「煮る・焼く・蒸す・揚げる・生」、五味「辛・酸(酢)・苦・甘・塩」、五色「青・黄・赤・白・黒」という3つの基本を上手く組み合わせて、体にやさしい工夫をすることが大切です。また、患者さんが家庭でも自分で調理できるよう、鍋ひとつで簡単に作れる料理、調理のワンポイントアドバイスなども指導しています。

うれしいことに、患者さんの中には「穀物菜食に変えてからは、家族がみんな食卓に帰ってきました」とか「作る喜び、食べる喜びを知りました」など喜々として語ってくれる人、「上手くできた新メニュー」を披露してくれる人、「ここに来ると他の患者さんと情報交換できてうれしい」と喜ぶ人など、穀物菜食をクリニックに取り入れることで、クリニックには笑顔で明るい患者さんが増えました。食事は、作る人と食べる人とが互いに思いやり、おいしく、楽しく摂ることが大切です。未病対策という意味でも、穀物菜食がもっともっと広まっていけばと思っています。



◆プロフィール
野口 節子(のぐち せつこ)

<略歴>
千葉県立栄養専門学院(現千葉県立栄養短期大学)卒業。1964年より国立国府台病院に勤務。その後、計3箇所の国立病院勤務を経て、1988年に国立横浜東病院栄養管理室長に就任。以後、各施設の栄養管理室長を歴任し、2001年3月に国立がんセンターを定年退職。その後、島村医師と出会い現在に至る。国立がんセンター在職中は、栄養管理の理論と実践の一貫性を目指した指導を実施していた。現在は、自然環境と身体の調和を重視した、自然な食事「穀物菜食」を学び、自らも実践、また広く普及させるための推進活動も行っている。主な著書に『がん患者の食事と栄養』(医事出版)などがある。現在、青葉学園短期大学非常勤講師。島村トータル・ケア・クリニックにて栄養食事指導を担当(穀物菜館館長)を歴任。

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