われわれはフリーラジカルの捕捉作用に基づいてブラジル各地産のプロポリスの品質を評価した。さらにフリーラジカル捕捉活性を検討し、プロポリスから初めて単離した4つの活性成分の単離と構造解析およびLPS刺激によるマウスマクロファージのNO合成酵素阻害活性についても検討した。本章ではプロポリスから単離したmethyl 3,4-di-O-caffcoyl quinate(1), 3,4-di-O-caffeoyl quinic acid(2),methyl 4,5-di-O-caffcoyl quinate(3),および3,5-di-O-caffeoyl quinic acid(4)について、肝保護活性に関連すると思われるフリーラジカル捕捉作用およびNO合成酵素阻害を検討した。
4-1 実験材料および実験方法
実験材料および抽出方法
実験方法
DPPHラジカル捕捉活性の測定
奏野らは、ラジカルの捕捉効果はDPPHに捕捉される強さに反応するとしている。試料溶液500μlを同体積のDPPH溶液6×10-5Mと混ぜ室温に30分放置した。吸光度は520nmにおいて測定した。試料およびDPPHはエタノールに溶かした。捕捉率は試料を含んでいる溶液とコントロール溶液の吸光度の比によって測定した。結果は各サンプル4回の測定の平均値とした。caffeic acidをpositive controlとした。
スーパーオキシドアニオンラジカル捕捉活性の測定
スーパーオキシドアニオンラジカルの捕捉活性はXanthine-XOD系の中でスーパーオキシドのフリーラジカルを産生させる、今成らの方法によった。反応溶液は0.05MNa2CO3700ml(pH10.2),3mM Xanthine50μl,3mM EDTA 50μl,1.5mg/mlウシ血清アルブミン50μl,0.75mM NBT溶液、室温で10分間震盪させ完全に溶解した試料溶液50μlからなる。これに0.14mg/mlのXODを50μl加え、よく混和し25℃で20分間インキュベーションした。反応は6mM CuCl250μlを加えて停止させた。NBTと過酸化物との間の反応によって得られる色について560nmの波長における吸光度を測定した。この条件下においては、SODは8ng/mlの濃度において50%までスーパーオキシドアニオンの生成を阻害する。ラジカル揃捉作用の割合はそれぞれのブランク試料を作成しなくても、試料を含んでいる溶液とコントロール溶液の吸光度の比によって決定される。試料はエタノールもしくはPBSに溶解させ、最終的なエタノールの濃度は0.5%未満とした。結果は各サンプル4回の測定の平均値とした。また、caffeic acidをpositivecontrolとした。(IC50=6.4μM)
NO合成酵素阻害活性
マウスのmoncyte-macrophage cell line J774.1はJRCBから得た。細胞はSakaguchiらの方法に従い、RPMI-1640培地に10%の仔牛の血清を添加した。LPS誘発J774.1細胞(5×105cells/ml)によるNO産生量はNO形成によって測定され、LPSの量は10μg/mlであった。細胞は5×105cells/mlの濃度で24穴の培養プレートに播き、24時間前培養を行った。その後、培地をendotoxinとPWEを含む(あるいはendotoxinのみの)新鮮な培地に交換し、5%CO2下、37℃で48時問インキュベーションした。培地500μlはプラスチック製試験管にとり同体積のGriess試薬(1%Sulphanilamide,0.1% naphtyleyelendiamine dihydrochlorideおよび2.5%H3PO4)を混和させ、10分間室温に放置し、560nmの波長における吸光皮を測定した。また、細胞の生育もMTT法によって評価した。
統計処理:
全ての計測値は平均値±標準偏差にて表現した。コントロールと実験した試料との間のunpaired observationに対してStudent's t-検定を統計学的評価法として行った。統計学的な有意性としてp値は0.05あるいはそれ未満とした。
4-2 実験結果
4-2-1 DPPHフリーラジカル捕捉活性におけるプロポリスの効果
DPPHフリーラジカル系におけるPWE,PME,PCEのフリーラジカル捕捉作用を検討した結果をFig.laに示した。PWE,PME,PCEは用量依存性を示していた。PWE,PMB,PCEのフリーラジカル捕捉作用は10μg/mlの濃度においてそれぞれ62,51,43%であった。この結果からPWEが強いフリーラジカル捕捉活性を有することが示唆された。
4-2-2 Xanthine -XOD系におけるスーパーオキシドアニオン産生に対するプロポリスの効果
われわれは酵素的な方法によって産生されるスーパーオキシドアニオンラジカルの捕捉活性について検討した。その結果、Xanthine -XOD系において産生されるスーパーオキシジカルについてPWE,PME,PCEが有するフリーラジカル捕捉活性はFig.1bに示した。PWE,PME,PCEはDPPH系で見られたように、濃度依存した。この系においてPWE,PME,PCEは10μg/mlの濃度において、それぞれ59,43,6%のフリーラジカル捕捉活性を示した。
以上によりPWE中の成分が非常に強いフリーラジカル捕捉活性を有していることが明らかになった。このようなフリーラジカル捕捉活性を有する化学成分を探索するため、第3章で示したように、PWEをSephadex LH-20 カラムクロマトグラフィーに対し10のフラクションを得た。これらSephadex LH-20カラムクロマトグラフィーの結果得られた10番目のフクシンについてDPPHフリーラジカル捕捉活性を検討した結果は第4章Fig.4で示した。活性は1および10μg/mlの濃度で測定した。フラクション10はコントロールに比してDPPHフリーラジカルレベルを67.5%にまで減少させ、最も活性の強い画分であった。活性のあるフラクション(Fr-10)は再度カラムクロマトグラフィーに対し4つの画分を得た。データは示していないが、フラクションDが最も活性の強いフラクションであった。逆相preparativeTLC(RP-18)を用いたところフラクションDから4つのdicaffeoyl quinic acid誘導体を単離することができた。
4-2-3 Dicaffeoyl quinic acid誘導体のDPPHフリーラジカル捕捉活性
実験の結果、PWEはDPPHフリーラジカルおよびスーパーオキンドアニオンの捕捉活性が非常に強いことが示唆された。ゆえにDPPHフリーラジカル捕捉活性を基に成分解析を行った結果、1,2,3,4の単離につながった。これらの化合物によるDPPHフリーラジカル捕捉活性はTable1に示した。これら全ての化合物は極めて有意なフリーラジカル捕捉活性を呈した。また、dicaffeoyl quinic acid誘導体がフリーラジカル捕捉作用を有することを初めて明らかにした。4つの単離成分の内、化合物1はプロポリスの主要な成分であり、10μMの濃度でDPPHフリーラジカルの83%を捕捉するほど強い捕捉活性を有することを明らかにした。
4-2-4 構造活性相関について
構造活性相関を見いだすため、caffeic acid,quinic acid,chlorogenic acidのフリーラジカル捕捉活性についてDPPHおよびXanthine-XOD系により産生されたスーパーオキシドアニオンラジカルの2つの実験系において3,4-di-O-caffeoyl quinate(1)との比較を行った。両実験系ではcaffeic acid,chlorogenic acidcaおよびmethyl 3,4-di-O-caffeoyl quinate(1)のいずれも非常に強いフリーラジカル捕捉活性を呈した。しかしquinic acidの活性はコントロールとの有意な差は認められなかった。chlorogenic acidはcaffeic acidよりも活性が強く、また両実験系において3,4-di-O-caffeoyl quinate(1)が最も強い活性を有していたことから、chlorogenic acidとcaffeic acidが結合することにより活性が増強されることが示唆された。Fig.2
4-2-5 抗酸化物質の活性
次に抗酸化剤として繁用されるVitaminC,VitaminB,およびcaffeic acidのDPPHフリーラジカル捕捉作用を測定した。強い肝保護作用を有する物質ということでdexamethasoneおよびglycyrrhizinの2つの化合物についても比較検討を行った。Caffeic acid,VitaminC,VitaminEは非常に強いラジカル捕捉作用を示した。Caffeic acidは1ほどではなかったが、5種類の化合物中では最も強い捕捉能を有していた。肝保護物質であるdexamethasoneおよびglycyrrhizinはフリーラジカル捕捉作用をほとんど示さなかった。(Fig.3)
4-2-6 NO合成酵素阻害活性
LPSはマクロファージのNO合成酵素を活性化させL-arginineからL-citrunineへと転換するプロセスにおける反応でNOを産生する。NO合成解索の活性は産生されたNOの量により明らかになる。NOは非常に不安定なラジカルであるため、即座にNO2-やNO3-へと転換される。Griess試薬により測定されるNO2-の量はNO合成酵素活性と相関性を有する。われわれはプロポリス水エキス中の成分が有するLPS誘発マウスマクロファージJ774.1細胞におけるNO合成酵素阻害活性ついて検討を行った。NOの形成はNOの発生により色調の変化を起こす反応を利用して計測をおこなった。
NAME(L-NG-Nitroarginine methyl ester),caffeic acid,chlorogenic acidおよびmethyl 3,4-di-O-caffeoyl quinate(1)は濃度依存的に有意にLPS刺激マウスマクロファージJ774.1細胞のNO合成酵素の活性を減少させ、1がもっとも強い活性を有することを明らかにした。本アッセイではまた、quinic acidは何ら阻害活性を示さないことも明らかになった。MTT法により観察された細胞の生存率は試料の最大濃度において90%以上であった(Fig.4)。
4-3 考察
活性を有するエキスPWEをSephadex LH-20カラムクロマトグラフィーに付し10のフラクションを得た。このうち最終フラクションFr-10はDPPHラジカル捕捉活性系において最も強い活性を有していることが見出された(Fig.1)。
繰り返し行ったカラムクロマトグラフィーおよび分取TLCにより、活性を示す4つのdicaffeoyl quinic acid誘導体,1,2,3,4を単離するに至った(Chart1)。これらの化合物はGardeniae Fructusおよびコーヒー豆から単離された報告はあるが、プロポリスからは初めてである。
これら4化合物のDPPHフリーラジカル捕捉活性を検討したところ、全てに強い活性が認められた(Table 1)。このうち1および3はmethyl ester,2および4は遊離の酸の残基を有している。これらの化含物のうちquinic acidにおけるcaffeoyl基の位置は1および2を除き互いに異なっている。Methyl esterのほうが遊離の酸基を有するものよりもより捕捉能が高いことがわかったが、quinic acid中のcaffeoyl基の位置がフリーラジカル捕捉作用に特異性を与えている訳ではないようである。
構造活性相関を見いだすため、caffeic acid,quinic acid,chlorogenic acid、およびmethyl 3,4-di-O-caffeoyl quinate(1)のフリーラジカル捕捉活性について検討した。これらの化合物はDPPHおよびXanthine -XODスーパーオキシドラジカル産生系において同じ様なフリーラジカル捕捉能を有する傾向にあることが明らかになった(Fig.4)。Caffeic acid,chlorogenic acid,およびmethyl 3,4-di-O-caffeoyl quinate(1)は非常に強いフリーラジカル捕捉活性を示したが、quinic acidのみ両ラジカル産生系において何ら活性を示さなかった。この緒果よりquinic acid単体ではフリ一ラジカル捕捉活性を示さないものの、chlorogenic acidがcaffeic acidよりも強い活性を有することから、caffeic acidと結合することでラジカル捕捉作用が増強されることが見いだされた。2つのcaffeoyl基とquinic acidが結合して形成されるmethyl 3,4-di-O-caffeoyl quinate(1)は最も強い活性を有していた。また抗酸化剤として繁用されるVitaminC,VitaminEおよびcaffeic acidのラジカル捕捉活性についても検討した。
また、肝保護薬として知られているglycyrrhizinおよびdexamethasoneについても同様な検討を行った--その結果、VitaminC,VitaminE,caffeic acidは強いDPPHラジカル捕捉活性を有していたが、最も活性が強いのはcaffeic acidであった。glycyrrhizinおよびdexamethasoneは作用を示さなかった。GlycyrrhizinにみられるCCL4誘発肝
障害に肝臓防御作用は過酸化胴質(LPO)の産生における阻害効果に由来するとの報告があるが、今回の結果は明らかにcaffeic acidおよびViaminEの肝保護活性の機構がglycyrrhizinやdexamethasoneのものと異なるものであった。われわれの実験ではcaffeic acidは非常に強いラジカル捕捉活性を有するが、1よりも劣ることが見いだされている。
LPSによる肝臓障害とそれに関連した肝炎(免疫学的な機構の介在によっておこる肝炎)について多くの病理・生理学的な研究がなされてきたものの、その機構は明瞭ではない。免疫学的な肝障害モデル、特にLPSによる誘発モデルは、肝臓のマクロファージ(Kupffer cell)によって活性化される種々のIl-β,TNF-α,γ-INFおよびNOを含む幾つものサイトカインが肝臓の細胞群を死に導く。
そのため、このようなモデルでは免疫抑制活性が肝保護活性に帰因していると考えられる。活性化されたマクロファージによるNO産生は肝炎とともに見られる現象である。プロポリスから得られたdicaffeoyl quinic acid誘導体の免疫抑制活性における役割を明らかにするため、われわれはLPS誘発マウスマクロファージ、J774.1のNO合成酵素阻害活性を検討した。その結果methyl 3,4-di-O-caffeoyl quinate(1)は非常に強いNO合成酵素阻害活性を示した。本研究により肝保護活性においてはcaffeoyl基が重要な役割を果たし、quinic acidがその活性を高めることが示唆された。しかし、quinic acid自体は何ら有意な活性を持っていなかった。免疫調節機構においてdicaffeoyl quinic acid誘導体がcaffeic acidやchlorogenic acidよりもより高い能力を有している点には興味が特たれる。
フリーラジカルは種々の生物学的機能、例えば老化、発癌、糖尿病、肝炎、炎症、あるいは慢性疾患に介在する。また、フリーラジカル捕捉物質はこれらの疾患に対する治療薬として期待が高まっている。こういった状況を踏まえれば、肝炎や早期の糖尿病に対してプロポリス水エキスから得られた活性成分は臨床に応用しうるものではあるが、さらなる研究が必要であることも碓かである。
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