"個々人の体質に適った「食」を選ぶ時代に"

  千葉大学 園芸学部生物生産科学科食品栄養学研究室
教授 真田 宏夫 氏(医学博士)

高齢化社会の到来に伴い、健康志向の高まりから、マスメディアで健康情報が多く取り上げられるようになっている。 子供達の「食育」の重要性やTVの健康情報番組の正しい見方など、真田氏に伺った。
----最近テレビなどで食物と健康についての番組が非常に多いですが、こうした傾向をどうお考えでしょうか

真田: 高齢化社会が進む今日では過渡期としてやむを得ない現象と思われます。それだけ消費者が自分たちの健康を食品を通して守ろうとする意識が強くなっていることを感じます。

しかし、情報が正しく消費者に受取られなかったり、誇大に宣伝されていることなども多く、消費者が戸惑ったり、誤った理解のためにかえって健康を害する危険もあると思われます。

最近始まった「食育」のような地道な教育により食の基本を理解できる消費者を多く育てることが重要と思います。また、供給者側も常に科学的な証拠に基づいた正しい情報を提供するように心がけてほしいと思います。

健康や長寿のために何を食べたら良いか気軽に相談できるよう、地域の医師、薬剤師、管理栄養士さんたちが連携して、住民の健康を守るといった組織ができればいいかなと思います。

----いわゆる生物資源素材の食品化学的、栄養科学的特性や、ヒトなどの成長や、生体防御、生理代謝機能への影響について研究されているということですが、最近の特徴とか変わってきていることなどはありますか

真田:食品成分が健康に与える影響についての見方はこの10年ほどの間に大きく変化してきています。これには最近の分子生物学、生化学、医学などの著しい発展を背景にして、これまで評価できなかった種々の食品成分の効果が測定可能になったことが大きく寄与していると思います。

例えば、従来健康の維持にアミノ酸が必要なのはタンパク質の合成素材の供給が主な理由と考えられてきましたが、グルタミンが腸管粘膜細胞の機能維持に特別の働きをもっていることや、ロイシンが筋肉タンパク質の代謝を調節していることなど、個々のアミノ酸自体の機能が見直されてきています。

さらに、遺伝子多形や体質などによる個々人の病気のリスクの相違や代謝・生理の相違が知られるようになり、食のあり方もそのような個人の多様性に合わせた選択が必要な時代に入ってきています。

遺伝子は一人一人多少違いますから、個々人で病気のリスクが違うこともわかってきています。 これまで、この病気にはこういう処方、治療をと一律のことでよかったのですが、 最近はそうではなく、個々人に合わせたテーラーメイド医療が必要であるといわれています。 
「食」についても、個々人がどういう遺伝子、体質かを知り、自分に最も適切なものは何かを選ぶということが大切です。

1日の所要量が幾らだから、これだけ食べればいい、ということが見直され、個々人が自分に合った量、健康になる「食」はなにかということを考え、 健康診断の結果を見比べながら、何を食べたらいいかを選択するような時代に入っています。

----とくに肝臓の機能についての研究に注力されているそうですが、いろんな肝臓障害に対して有効な機能をする物質について、具体的な成果をお聞かせください

真田:私どもの研究室では十数年間ラットを用いて実験的肝障害の発症を予防する食品成分を検討してきました。現在ある種のオリゴ糖やアミノ酸にそのような作用を見出しています。しかし、その抑制機構については研究中であり、解明するに至っておりません。

----オリゴ糖が肝機能障害の発症を抑制するとか、食物繊維がコレステロール低下に効果があるといった研究結果も、発表されたと聞いていますが

真田: 癌、循環器疾患、糖尿病といった生活習慣病の予防は大変重要なので、場合によってはこれらの研究も行います。

----現在、メインで進められている研究と、先生にとって今後の課題はなんでしょうか

真田:この研究室で私に残された時間はあと2年しかありません。現在かかえている問題をどこまで解決できるか、ただ力を尽くすのみです。ただ、この分野が今後発展し、皆ができるだけ長く健康で長寿を享受できるよう多少とも役にたてれば幸いと思っています。

----成人病について、たとえば低年齢化とかいろいろ問題になっていますが、研究者としてのお立場からご意見とかご提案などはおありでしょうか

真田: 我が国では食資源が豊富に入手できるようになるとともに従来成人の病気とされていたU型糖尿病や循環器疾患が子供にもみられるようになってきました。エネルギーをはじめとする栄養素摂取のアンバランスがこれを助長しています。これを是正するために食育は大変重要と考えています。

また、病気に対して医師が助言を与えるように、病気の予防や健康の維持増進のために適切な助言が与えられる者が必要であり、この点では管理栄養士、栄養士の資格をもつ方々に期待をしている次第です。

----最後に、サプリメント(健康食品)に対して、どのようなお考えをお持ちでしょうか

真田: 多くのサプルメントが出回っていますが、その中には効果が期待できるものもあれば、そうでないものも含まれていて、消費者が戸惑うことも多いと思います。

保健機能食品のように科学的根拠が明確になっているものを、定められた用量で摂取する場合は安心して効果を期待することができると思いますが、消費者が自身に適したサプルメントを適切に選択できるかどうかも問題です。

しかし、科学的なデータに基づいて種々の確かな有効性をもったサプルメントが多種類開発されるのは、良いことと思います。



◆プロフィール
真田 宏夫(さなだ ひろお)

< 略歴 >
国立栄養研究所室長、千葉大学園芸学部助教授を経て現職に至る。 医学博士、農学博士
< 研究室 >
各種の生物資源素材の食品化学的、栄養化学的特性、ならびにそれらが人や動物の成長、生体防御、生理代謝機能に及ぼす影響について研究している。 江頭祐嘉合助教授と学生(学部生6名、大学院生12名)で研究活動を行なっている。
< 主な研究課題 >
1.アミノ酸・タンパク質の生理機能
  ・グルタミン、セリン等の実験的肝障害発症
   抑制効果
  ・トリプトファンの代謝とこれにより生成する
   生理活性物質
2.オリゴ糖、食物繊維の生理機能
  ・各種のオリゴ糖の実験的肝障害抑制効果
  ・食物繊維の血清コレステロール低下効果

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