”がん休眠療法で、がんと共存・継続治療をはかる"

  金沢大学がん研究所腫瘍外科 助教授
高橋 豊 氏

がん治療に関して、金沢大学がん研究所腫瘍外科の高橋豊助教授は、現在のような治療法ではなく、低容量の抗がん剤投与で、がんとの共存をはかり、継続治療を行うことがベストと説く。現在の抗がん剤治療の問題点について高橋氏にうかがった。
----先生のがん治療に対する理念について

無理にがんを消そうとするのではなく、がんをコントロールしていく

高橋: これまで、がん治療の世界はがんを消そうという発想しかありませんでした。しかし、消そうとしても消せませんので、小さくすることを目標にしてきました。ともかく、小さくしないと延命はしないということが大原則になってしまいました。しかし、ここに大きな間違いがありました。私が掲げているのは、もう一つの戦略、それが共存です。がんと共存し、がんの増殖をくい止め、延命をはかるということです。

これまで、がんを消滅させるには、小さくするしかないと思い込んできました。しかし、少しくらい小さくしてもあまり意味がありません。

がんをテロにたとえると、一部のテロを無くしても、この世からテロが消えるわけではありません。それと同じで、きりがありません。ですからそれと全く違う発想で、テロリストがいてもテロを起こさないようにすればいいという戦略で、がんを考えなくてはいけないということです。

例えば糖尿病とか、喘息とか肝炎とかいろいろな病気がありますが、全て治そうというのではなくて、コントロールしていこう、うまく共存していこうという発想です。

実は多くの病気がそうなんです。もともと、ヒポクラテスが言っていたのは「病気を悪くしないことが医者の役割」ということでした。18、9世紀に抗生物質が登場して、肺炎や細菌性の病気を治しましたので何でも治ると思い込んでしまいました。それで、がん治療も同じような感じでやろうとしたわけです。実際に白血病なんかも成功しましたからね。それと同じような発想できているわけですが、それが大きな間違いなのです。

---先生は96年頃から、休眠療法を提唱されていますが、反響は

今の抗がん剤治療は間違い。継続治療ができない。

高橋:私は抗癌剤治療を変えたいと思っています。今の抗がん剤治療は間違いだと思っています。抗がん剤治療を正しくするというのが、私の目標です。

これについて、多くの研究者や医者は理解してくださいましたが、抗がん剤の専門家はまだまだ難しいです。抗がん剤の専門家は抗がん剤の投与システムをこの50年くらいで確立し、そのシステムの中ですべてのことが行われています。私の治療戦略とその方法論は、そのシステムの中では異端と扱われることになるからです。

今の抗がん剤の治療法で問題点が二つあります。一つは継続できないことです。患者さんが苦しいとか危険ということで継続できないということ。もう一つは個人差を全く無視しているということです。

私が、がん患者さんの生存期間について理論的に解明してきたことは、これまではがんの縮小化しか延命が得られないといわれてきました。しかし、そうではなくて、どれだけ多くのがんを消すかということと、どれだけ長く治療を継続できるかという二つの因子から延命期間が決まるということです。

現在のがん治療はどれだけ多くのがんを消すかということしか考えていません。どれだけ治療を継続できるかということを全く考えていません。私はこの二つをバランスよく考える必要があるといっているわけです。

休眠療法の特徴は、一言でいうと「継続」です。治療が継続できなければ、十分な延命は得られません。決してがんを小さくしなくてもいいというわけではありません。小さくならなくてもいいから、治療を長く続けることが大切ということです。継続こそが目的なのです。ここが非常に重要なポイントです。

抗がん剤はがんに効く薬ではなく、がんにも効く薬

抗がん剤は抗がんという名前からがんに効くような気がしますね。ですが、正確にいうと、がんにも効く薬で、増殖する細胞は全て傷害させます。 副作用という表現がありますね。あれは正常細胞の障害であり、効果というのががん細胞に対する障害です。ですから抗がん剤もたくさん使えばがんを全部殺せます。ただ、その前に人間が死んじゃいます。

ですからがんを消すのに十分な量というわけではないのです。恐らく今の10倍くらいないとダメです。それは、はじめからわかっているのです。

はじめから消せないのがわかっているのに、無理やり人間の限界の量を与えて少しでも小さくしようとしているのが今の抗がん剤治療です。それに対して私は無理に小さくしなくていいから、継続を大事にしましょうといっているわけです。

今の抗がん剤治療は個人差を全く無視している

今の抗がん剤は副作用がグレード0から5までです。0はなしで5は死亡です。今、だいたい3から4を目指した抗がん剤治療が行われています。人の死なない限界です。これに対し私は1,2を目指すべきだといっています。

ただ、人によって1,2は違います。わかりやすい例でいうとアルコールです。アルコールは人によって飲める量が違います。なぜかというと、人によりアルコールの分解酵素の量が違うからです。分解酵素の多い人はたくさん飲めます。少ない人は多くは飲めません。

このアルコール分解酵素が多い少ないは遺伝子で決められます。抗がん剤もこれと同じようなことがわかっています。今の抗がん剤治療はこの個人差を全く無視しています。ですから、私は個々人の量で抗がん剤治療をしてはいかがですかということをいっているわけです。

抗がん剤は安全域の狭い薬。投与量をよく考えないといけない

私の抗がん剤治療の3つの基本方針は一つが継続ですが、二番目が指標を置くということです。それが副作用のグレード1,2ということです。抗生物質をのむ時、皆さんだいたい3錠くらいのみますね。しかしインシュリンを投与する時は、それぞれの血糖値を見ながらやりますよね。この違いは何かというと、安全域が狭いか広いかということです。

抗生物質は安全域が広いです。だいたい3錠飲めば効果も出ますし副作用も出ません。インシュリンは安全域が狭いですから血糖値をみて投与します。抗がん剤はどうかといいますと、これほど安全域の狭い薬はありません。ですから指標を置くと安全なのです。

3番目が個人差を考えるということです。よく抗がん剤はテーラーメイドとかオーダーメイドといいます。あれはだいたい抗がん剤の種類をいっています。しかし、種類も大事ですが、その前に量をよく考えないといけません。

抗がん剤そのものではなく、抗がん剤の投与量に問題

抗がん剤には苦しいとか恐いというイメージがあります。あれは抗がん剤のせいではなくて、投与量のせいなのです。たとえばウヲッカというお酒はアルコールが強いので恐いというイメージがありますね。それを、コップ一杯飲むと思うからそんな感じを受けるわけで、量さえ変えればなんでもないわけです。つまり、量を論じないのでは、やさしい抗がん剤、恐い抗がん剤といったものはないわけで、ここが大きなポイントです。

ビール1杯でちょうどいい人と、ビール5杯飲んでちょうどいい人といますね。そういっ た感じの治療をしましょうということです。

---機能性食品についてのお考えは。

高橋:機能性食品といっても幅広いですが、だいたい免疫関係ですね。ですから機能性食品を考える前に免疫とは一体何なのかということを考えなくてはいけないと思います。抗がん剤を低容量にして、そこに免疫製剤を加えると加えないよりいいというデータが出ています。これはかなりレベルの高い医学雑誌に紹介されています。

免疫製剤を用いると、抗がん剤で免疫を落とすことを防げます。ただ、私は免疫療法だけでいいとは全く思ってはいません。ですが、免疫が落ちることはやはりよくありません。ですから、抗がん剤を使う時に一緒に、そうした免疫製剤を使うことはそれなりにいいことではないかと思います。

がん予防やがん治療との併用に機能性食品の役割

抗がん剤を少しづつ使うとか、機能性食品を使うという話は全てがん治療を継続するということが前提にあるのです。抗がん剤の効果を100とすると、1ケ月かける100で100ですね。機能性食品の効果を1とすると100ケ月で100になります。そうすると効果は同じはずなんです。

抗がん剤の効き目が100としますと、私の投与方法ですと50,60にしかならないかも知れませんが、治療が継続出来る分、100より高くなる可能性があります。延命を目指すがん治療ということでは、このほうが、結果的にいいと思われます。

ですから、私の言っているがんの治療法に機能性食品を加えることは意味のあることではないかと思います。別の面から見れば、こういった免疫を上げることが、抗癌剤を継続させることに寄与する可能性もあると思われます。

よくタバコを吸っている人に肺がんになりやすいといいますが、それは、タバコを吸うことで、本当はもっと高齢になってから発生する予定だったのに、50歳で肺がんになるように早めているわけです。その50歳でできる肺がんを70,80歳に遅らせるものが、機能性食品と考えればいいわけです。悪いものを中和するとか、活性酸素を中和するとか、機能性食品にはそういう機能があるわけですから。

がんに勝とうとするより、負けないようにする

それから、日頃の食品でがんを予防するという研究も米国で盛んです。医食同源ですからね。例えば米国のある地方でがんが非常に少ないので調べたところ、土壌にカリウムが多かったという話があります。水にカリウムが多いからナトリウム(過剰摂取すると癌になりやすい)と中和していたというわけです。

それから、アフリカの人がものすごく大腸がんになりにくいという話がありますが、アフリカの人は繊維質をたくさん摂っているから便はものすごく多い。その辺から、大腸がんの頻度と肉を食べる量は相関し、それを繊維質が予防することもわかってきました。

がんを消すという発想ではなくて、それをずっと保つ、要するに微小なものというのはあっても全くかまわないわけです。ずっと置いて、それで死んでしまえば、再発しませんでしたということになるわけです。引き分けに持ち込めばいいわけです。勝とうとするのではなくて、負けないようにするということです。強い敵と当たった時の極意は、勝とうとするのではなく、負けないようにする戦略です。



◆プロフィール
高橋 豊(たかはし ゆたか)

<略歴>
昭和30年11月5日生まれ。金沢大学医学部卒。昭和60年に金沢大学がん研究所外科助手、昭和62年に国立がんセンター研修医(肺癌)となる。平成2年に金沢大学がん研究所外科講師に、平成5年に同、助教授となる。平成6年にテキサス大学M.D.アンダーソン癌研究所にて転移の研究を行う。平成8年にTumordormancytherapy、がん休眠療法を提唱、平成14年にテキサス大学M.D.アンダーソン癌研究所の客員準教授となる。現在、金沢大学がん研究所腫瘍外科助教授。

<著書>
癌の時間学(発育速度)、癌の生物学、癌の化学療法を3本柱として研究。癌休眠療法は、これらを統合して完成。
「血管新生とその治療戦略、TumorDomantTherapy」(日本アクセルシュプリンガー出版)
「腫瘍マーカー臨床マニュアル」(大倉久直、石井勝、高橋豊、有吉寛、加藤紘、長村義之、栗山学:医学書院)
「肝転移-基礎から臨床?」(麿伊正義、清木元治、高橋豊編:医学書院)
「TumorDormancyTherapy・癌治療の新たな戦略・Mustwekillcancer?」(医学書院)
「がん休眠療法」(講談社プラスアルファ新書)
訳書:「キャンサーセラピー」(金ヶ崎史郎監、西岡謙二、高橋豊訳:菜根出版)

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