”近代栄養学の根本的な見直しが必要"

  富山医科薬科大学 成人看護学科(外科系)
評議員・教授 田澤 賢次 氏

ここ数年、日頃の食管理による健康作りが国民の大きな関心事となっている。医療費の負担増が国民に重くのしかかる中、今後、さらに予防医学の重要性が増すこととなるが、その中核ともいえる近代栄養学ははたして国民の健康管理に寄与しているのか。富山医科薬科大学医学部の田澤 賢次教授は今、近代栄養学の抜本的な見直しが必要と説く。
----昨今、「自分の健康は自分で守る」ということで、「食」に対する関心がますます高まっています。そうした中、近代栄養学の欠点を指摘する声もありますが

近代栄養学は人間の進化のプロセスを全く無視している

田澤:近代栄養学というのは人間の進化のプロセスを全く無視するようなものになっています。炭水化物、タンパク質、脂肪といった栄養素を単にエネルギーとしての概念でしかとらえていません。

例えば、手術後の患者さんの栄養管理を行う際、流動食から3分、5分、7分、全粥というふうに与えていきます。基本的に何がそこに存在するかというと、消化の悪いものは身体に悪いという発想です。そのため、消化の良いもの、残渣の少ない高タンパク中心の食事を与えることが主になっています。しかし、癌治療ということでいうと危険きわまりないと私はここ10年ほど警告してきました。

今の栄養学は、消化のいいものはすぐに吸収されて体に利用されるという発想です。過去をさかのぼってみても、栄養学の本流というのは吸収=栄養という概念でした。そのため、難消化性物質あるいは消化されない物質は邪魔者扱いされてきました。

消化管で行われているのは生命誕生のプロセス

とくに術後や栄養管理が必要な人たちにとっては、食物繊維や難消化性物質は胃や腸管の負担になると考えられてきました。ですが、そうした考え方が逆に癌の再発を促し、肝臓の機能を阻害してきたと思います。消化管で行われている消化吸収という作業は、実は生命誕生と同じプロセスであるという発想を持つべきです。

消化管の中で何が行われているのか生理学的、生物進化論的にとらえていく発想のない栄養学は全くだめです。近代栄養学というのは、炭水化物を摂るとグルコースになり、それがエネルギーとして利用され、タンパク質を摂るとアミノ酸に分解され利用され、脂肪を摂ると脂肪酸に分解され利用されるといった、トータル何カロリー摂ると体にとっていいというような栄養学です。

それを否定するわけではありませんが、例えば、海から生物が誕生したといわれますね。アメーバができ、細胞の中にミトコンドリアが取り込まれ、ATPを作るようなメカニズムができ、細胞が融合し大きくなって生物に進化し、片方は海藻・藻類になり、陸に上がって植物に進化していきました。もう片方は魚類から両生類に進化して陸に上がっていきました。

その過程でどういうことが行われたかというと、炭水化物からたんぱく質ができました。炭水化物のCHOにチッ素がついてたんぱく質ができ、筋肉と骨格を作りました。そして魚になり、動物になりました。

軟体動物から魚になっていく時、カルシウムも必要になり骨ができました。そして陸に上がっていきました。エネルギーを蓄積するために窒素がはずれて脂肪が作られ、それによってエネルギー代謝がゆっくりできるようになりました。

人間の免疫を活性化する食べ物はほとんど炭水化物

ただ、この炭水化物からたんぱく質、脂肪という過程は酸化の過程です。還元ではなく、サビの過程で、2回サビています。ですから脂肪を燃やすということは大変な力を要します。2回還元しなければいけない。そういうふうに考えていくと炭水化物というのは人間にとって大事な物質だということがわかります。

例えば、癌を抑制するための免疫力を活性化する食べ物というのはみな炭水化物です。免疫賦活剤といわれている食べ物はたんぱくが付くと極端に力が落ちてしまいます。脂肪になると力はほとんどありません。免疫力を賦活する食べ物というのは多糖類です。アラビノキシラン、キノコのβ-グルカンがそう。みな炭水化物です。酸化する前の状態です。人間をサビから守ってくれる構造式が炭水化物にはあります。

人間というのは酸素を吸って、酸化していきます。そして、活性酸素を出さざるを得ない。そういうメカニズムがあります。機能性食品を勝手に定義すると、人間に欠けているものを補ってくれるもの、つまり、さびていないものという言い方ができるかと思います。

人間の進化のプロセスと栄養免疫学とは密接な関係がある

それから、これは栄養学的に大事なことですが、ヘモグロビンといった呼吸酵素がありますね。植物は呼吸酵素としてクロロフィルを使っています。魚もヘモグロビンを使っていますが、構造式は植物も動物も全く同じです。

進化発展の過程の中で生命を維持する呼吸酵素は全く一緒なんですね。ヘモグロビンと葉緑素の構造式はポルフェリン核が4つ付いています。クロロフィルは真ん中にマグネシウムが付いています。ヘモグロビンというのは鉄がついています。要するに、鉄を使うことによって陸上に上がってきたわけです。貝類は鉄ではなく銅とか亜鉛を使っています。環境によってそういうふうになっていったわけです。

ですが、海から陸に上がってきた藻はクロロフィルですからマグネシウムを使っています。これは光に反応するからです。光に反応してエネルギーが蓄えられます。そういうところをみると、生命というのは植物も人間も基本的なところではかなり似かよったものを使っているということです。そんなに差はありません。

それから、野菜を食べると、腸管に野菜の葉緑素が入ってきます。その葉緑素からマグネシウムがはずれます。そして粘膜のところにイオン化した鉄があれば肝臓でヘモグロビンにくっつきます。

それで、一般に内科医は貧血を治療する際、鉄剤を与えます。ですが、鉄剤だけを投与して終わる先生というのは根本的な治療をしていないといえます。鉄剤を与えることで貧血が治ると思っています。生命の誕生の際のポルフェリン核について完全に忘れています。人間にポルフェリン核は本来作れません。葉緑素から摂るしかありません。

ですから、ポルフェリン核を作るためには野菜を食べなければだめということです。特に色のついている構造の核は呼吸酵素を伴って、その中に金属を持っています。マグネシウムとか銅とかついている物質は、SODと同様、抗酸化作用の塊のようなものです。ですから、内科の先生でりっぱな先生というのはヘモグロビンと葉緑素の関係も知っていて、貧血を治すには野菜も食べなさいというはずです。

しかし、今の栄養学は全くそういうことをしません。最近になって、徳島大学医学部に栄養学講座が出来きました。これまで生化学講座が2つあるところがあっても栄養学講座があるところはありませんでした。病気だ、患者だといっても栄養学の指導は皆無に近かったといえます。

------食物繊維の役割や腸内環境を整えることの重要性もいわれていますが

食べ物の中には雑菌とか腐敗菌がたくさんいます。そうした菌は腸管の中でエサを探しますが、とくに体に一番悪い菌は、良質なタンパク質、つまり動物性たんぱく質を好みます。

これに対し、植物の食物繊維はビフィズス菌とか乳酸菌を増殖させます。こうした菌はいわゆる善玉菌です。腐敗ではなく、物を発酵させるメカニズムを持っています。善玉菌は腸管を弱酸性に変化させますから、中性で発育する腐敗菌はいられなくなります。今までの栄養学ですと食物繊維は何の役にも立たない、消化管の負担になる、胃の負担になるといって、体が弱っている時は消化に悪いからやめなさいといっていました。それは逆なんです。

肝臓が丈夫になれば癌細胞も受け付けない

また、人の口の中にはいろんなバイ菌が入ってきますが、白血球やマクロファージが腸管でそうした菌を食べようとします。食べて殺すときに何を使うかというと活性酸素を使います。それで、肉ばかり食べていますと、活性酸素がたくさん出ます。消化管でできた余分な活性酸素はどこへ行くかというと、みな門脈にいきます。門脈は肝臓につながっていて、汚い血液はみな肝臓にいきます。この門脈血をキレイな血液にしようと肝臓は最大に働きますから、次第に機能が衰えていきます。肝臓というのはものすごく丈夫な臓器で、90%以上やられても平気で、衰えているのがなかなかわかりません。

この門脈血をキレイにするとがんの再発が少なくなります。肝臓が丈夫になり、肝臓の免疫力が最高になりますから、がん細胞も受け付ません。肝臓としては、100%より50%くらいの能力で、血液をキレイにしたほうがいいわけです。門脈を浄化するということは、肝臓を丈夫にし、生体の免疫力を高めることになりますが、それには炭水化物しかないということです。 そういう実験を私たちはしています。西洋医学的な栄養学ですと、高品質のタンパク質とか低残渣食が人間の体にいいといっています。ですが、これは単純に物理化学の発想で、生体のメカニズムを全く無視しています。

現在の栄養学は、腸管を休ませることイコール食べさせないという考え方です。少しだけ食べさせるんであれば高タンパクのものを食べさせなさいといいます。しかし、これは悪玉菌のエサになるようなもので、大事な善玉菌が全く無視され、腸管の安静どころか、体にとってよくないのです。

特に消化管にとっては最悪です。食物繊維をしっかり摂り、腸管運動が正常である状態こそが腸管にとっては安静といえます。ですから腸管がなぜ出来たのかということを全く無視した考えは今の医学の反省すべき点です。外科の手術後の患者さんも食物繊維を含むものを食べればいい。そうすると血液がキレイになり、肝臓が丈夫になりますから当然がんの転移も少なくなるでしょうし、がんの自然治癒も高まるだろうというのが私の理論です。実験でもそれを証明しています。

------活性酸素の抑制にも炭水化物がいいといわれますが

抗酸化食品のほとんどが炭水化物

田澤:抗酸化食品というのは、ビタミンCとかEとかありますが、ほとんどが炭水化物です。本来自然界の中で生命が誕生してくるところから炭水化物にお世話になっています。炭水化物は物の始まりであると考えます。なぜかというと、赤血球も食物繊維と全く一緒です。赤血球の表面の膜もシアル酸みたいなもので包まれていますが、その表面にカルボキシル基がついていて、そこが常に電気的にマイナスになったりプラスになったりしています。

赤血球というのは常に膜表面がマイナスになっていて、強力な還元物質なわけです。ビタミンC以上に物を還元する力があります。相手を還元し、自らは酸化します。私達の体は赤血球がイキイキしていれば大丈夫なんです。赤血球をイキイキさせてくれるのは炭水化物なんです。

要するに抗酸化作用のある食べ物というのは、赤血球をイキイキさせるということです。抗酸化作用というのは、電気的に相手を還元してくれる物質です。マイナスの電気を持っていて、相手を良くして自らは悪くなります。相手はイキイキしますが、その代わり自らはサビるわけです。ですが、すぐまた他から電気をもらい、還元してしまいます。アラビノキシランがそう。みな多糖類です。カルボキシル基がちゃんと付いています。ペクチンもそう。キチンキトサンからとるグルコサミンもそう。

たんぱく質は一回炭水化物から酸化しています。確かに良質なたんぱく質は筋肉や骨格形成に必要で、たんぱく質そのものが悪いというわけではありませんが、それを食べる悪玉菌が活性酸素をたくさん発生させ、それをまた殺すためにもたくさんの活性酸素を必要とするということです。

------穀類にしても食物繊維の多い外皮を削いできたりとか、そうしたことも病気を呼び込む原因になっているわけですね

カロリー栄養学ではなく、免疫学を重視した栄養学でないとだめ

田澤:そうした部分にミネラルとか抗酸化物質がいっぱいあったわけです。それを全部捨ててきました。それが、慢性病が増えた元凶だと思います。米国はアジア的な食事をするようになってから病気が少なくなってきています。日本は玄米をもう少し食べるべきです。自然のミネラルを含んだ塩にしてもそう。ただ、野菜は煮たほうがいい。生で食べるためにはよく噛まないとだめ。細胞単位で破砕しないとだめです。そうしないと葉緑素が出てきません。煮ると葉緑素が出てきます。細胞膜を消化する酵素は人間には退化してありません。

果物が食べ頃になるとなぜ熟して甘くなるのか、おいしいのか、体にいいのか。熟してないものは多量体で分子量が大きすぎて、全く吸収されません。ですから動物が食べても人間が食べてもお腹を壊します。熟したものは、酵素で切れて甘味が出て、オリゴ糖とかいろんな糖に変わっています。その頃に食べると栄養になります。動物はそうしたことをちゃんと知っています。

りんご1個食べればみな栄養になるのではなく、青いリンゴではだめなわけです。赤みが出てきて、自己融解して食べ頃になったものを食べて初めてリンゴ1個の栄養価値が出てくるわけです。そういうふうに考えてみますと、栄養学の根本から考え治さないとだめということです。これまでそういう考え方をしてきませんでした。

人間はなぜがんになるのか。大事なのは食べ物と水と空気。それしかありません。病気の元を正す医学が必要です。今の医学は対処療法です。これからは、医学部できちんとした栄養学の講義をしないとだめです。それも、カロリー栄養学ではなく、機能を重視し、免疫学を重視した栄養学です。そして、外科の患者さんの栄養学を変えなければだめです。

これまで西洋医学はあまりに科学一辺倒できて1プラス1は2でしかないんだという発想でした。ですが、これを食べるとその中に入っている酵素がどれくらいでということまできちんと分析すべきです。1プラス1に酵素がプラスすると100にも1000にも100万にもなるという発想がないとだめです。そうした栄養学でなければだめ。それが本来の近代栄養学であるべきです。



◆プロフィール
田澤 賢次(たざわ けんじ)

<略歴>
1940年、青森県に生誕。新潟大学医学部医学科卒。新潟大学大学院医学研究科を修了後、新潟大学医学部付属病院第一外科学講座助手、新潟大学医学付属病院看護学校講師を務める。1986年、富山医科薬科大学医学部外科学第二講座助教授。1989年米国へ文部省在外研究員として留学(クリーブランドクリニック財団病院大腸科)。1995年、富山医科薬科大学医学部成人看護学科(外科系)教授で現在に至る。2000年4月、富山医科薬科大学評議員。日本癌学会評議員、日本消化器外科学会評議員、日本ヒト細胞学会理事、日本バイオテラピイ学会理事、アメリカ癌学会会員、日本体育協会公認スポーツドクター、日本オリンピック協会強化スタッフトレーニングドクター、など。主な研究領域は、皮膚保護剤における薬理作用と皮膚との関連、大腸癌発生予防のメカニズム、大腸癌手術後の肝転換発生と予防の研究、活性酸素とその役割、ストーマリハビリテーションなど。著書に、バイオメディカルシリーズ「胃癌」、がんを治す知恵、ストーマ・ケアー---基礎と臨床---、創傷治療メカニズムと自然治療、癌転移の診断と治療、その他多数。

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