「食」関連トピックス
「今、なぜ食育研究か」〜これからの食育のあり方を探る
お茶の水大学大学院「SHOKUIKUプログラム」開設記念シンポジウム

2011年2月7日(月)、ホテルメトロポリタンエドモンドで、お茶の水大学大学院「SHOKUIKUプログラム」開設記念シンポジウムが開催された。「今、なぜ食育研究か」をテーマに、多様化する食の分野からこれからの食育のあり方を考える講演が行なわれた。


食文化と教育 国立民俗学博物館名誉教授 石毛 直道 

人の食文化の出発点、「料理」「共食」

食文化という言葉が使われるようになったのは1980年頃で比較的最近のこと。90年代、日本はグルメブームで、その頃に食文化という言葉が一般的に定着するようになった。

食文化を学問として考察するようになったのは、1981年にオックスフォード大学で開催された食のシンポジウムがはじまりではないかと石毛氏。それまでは民俗学分野で食の調査・研究はあったが、食を文化として多角的・総合的に捉えようとする試みは新しい学問であったという。

食文化研究の第一人者である石毛氏は、人の食文化の出発点に「料理」「共食」という2点が挙げられるという。

動物の食事は個体単位だが、人は家族単位で一緒に食べる

動物の食は環境と生理機能が直結しているが、人の場合は環境と生理機能の間に「料理をする」という文化が介在する。また動物は個体単位だが、人は家族単位で一緒に食べるということが原則となっている。

料理を「食品加工」と定義し、共食にまつわる食に対する価値観や行動・振る舞いを「食事行動」と定義することができる。つまり「食品加工と食事行動」という「台所と食卓」を中心に食生活を捉える方法が食文化を考える上での基本と石毛氏はいう。

「料理」は人間の独特の行動である。芋を洗って食す猿や木の実を割ってから食べるチンパンジーなどの報告もあるが、いわゆる下ごしらえの段階であり、火を使い調理するのは今のところ人間だけである。

「共食」文化、人が二足歩行から狩人になった進化の過程が関与

「共食」については、世界中のあらゆる民族をみても、原則として一人で食べることを常としている民族は存在しない。どんな民族も家族を単位に「共食」をしている。

「共食」の文化は人が二足歩行から狩人になった進化の過程が関与していると考えられている。男女の役割分担、人間特有の長い妊娠期間や子育て期間などが、男性が獲得した食物をパートナーや家族とシェアするという行動様式に繋がっていったのではないかと石毛氏は解説する。

「共食」を見直し、人間らしさの基本を取り戻すべき

食を通して地理、流通、経済、社会、理科などさまざまな学問を習得することができる、それが食育というものではないかと石毛氏。例えば、日本人は魚をよく摂取するため、かつては誰でも魚を20種類くらいは見分けて名前をいうことができた。しかし近年は魚の名前もいえない若者が増加しているという。

江戸時代くらいまでは自給自足がベースで、食の消費と生産が家庭のなかで完結していた。しかし今は農家ですら食卓に並ぶ食べ物のほとんどが外で買ってきたものであることが多い。食を学ぶことで、農業従事者を増やしたり、世界との繋がりなども期待できる。

外食や調理された食事が増え、食卓も台所も必要ないという家庭が増加傾向にある。社会の利便性は家族や家庭の代わりまでおよばない。「共食」を見直すことで人間らしさの基本を取り戻すべきだと石毛氏はまとめた。

"食と健康"の研究〜その最先端科学への歩を眺め、食育への応用の
途を探る
 東京大学名誉教授・特任教授 阿部 啓子

年代ごとに「食のバランス」の内容が異なる

「バランスよく食べましょう」という言葉がよく聞かれるが、近年になってそのバランスが世代ごとに異なることが明らかになっている。

20代くらいまでは成長のために必要な栄養素を摂る食が、30代以降は喜びや明日への活力として、50代以降ではアンチエイジングや生活習慣病予防として求められるようになる。食の「欠乏」がなくなった、いわゆる飽食の時代だからこそであるが、一方で、過食・偏食・個食など新たな問題も生まれている。今こそが、食と食生活を再び考え直すタイミングであると阿部氏は指摘する。

機能性食品開発の活性化の発祥は日本

食の科学は20世紀前半にスタートした。最初は栄養素の研究が主要テーマだったが、20世紀後半になるとおいしさの研究、解析、おいしい食品の開発へと研究テーマががらりと変わった。21世紀直前には、生活習慣病が社会問題化し、「食と健康」という学術的関心が浮上、食品の機能性成分の解析や応用となる機能性食品の開発が活性化するが、その発祥が日本であったことは素晴らしいこと、と阿部氏はいう。

機能性食品のなかでも日本の食品科学から誕生した特定保健用食品はすでに1000品目になろうとしている。日本が食と医の境界線に踏み込んだ功績ともいえる。今後も世界に先駆けて食のサイエンスを発展させることが食育のひとつのあり方ではないか、と阿部氏。

トクホ商品は、私たちの健康を支え、生活習慣病のリスクを低減する成分が含まれ、美味しく、副作用もないため日常的・恒久的に摂取することができる。「医食同源」という中国の思想が日本でも古くから根付いているが、経験則ではなく、科学として食の機能性を利用できるようになった今、さまざまな食品機能成分が注目を浴びている。これはここ10年のことであり、今後さらなる研究が期待されると阿部氏。

伝統食品の見直しも重要なテーマに

また、食の機能性の研究と同時に伝統食品の見直しも重要なテーマになっている。醗酵食品などの機能性も注目されるが、「三つ子の魂、百まで」という言葉があるように、納豆や魚、大豆製品などの伝統食品も小さい頃から食べ慣れておかないと大人になってから美味しさを判別できない可能性が高くなることが最近の研究で明らかとなっている。

食をサイエンスし、健康や寿命に生かす、全ての食材を美味しく食べるために楽しい食の場を大切にする、そうしたことが食育として大切なことであると阿部氏はまとめた。

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