「食」関連トピックス
おいしく焼き肉を食べるための食中毒講座
東京大学 食の安全研究センター・サイエンスカフェ

2013年8月2日(金)、東京大学農学部 食の安全研究センターで「第5回サイエンスカフェ」が開催された。今回は、おいしく焼き肉を食べるための食中毒講座(東京大学食の安全研究センターセンター長 関崎 勉)より、私たちの生命の安全を脅かす最も身近な「食中毒」についての対処法を紹介する。


食中毒を引き起こす細菌は2種類

細菌(バクテリア)にはいろいろな種類があるが、食中毒を引き起こす細菌には2種類あると関崎氏。
まずは「腐敗菌」。枯草菌や緑膿菌、ウエルシ菌などがよく知られ、これらの細菌は食品を「腐らせる」働きがある。

「腐敗菌」により食品が腐敗すると、食品は色や匂い、粘りなどに変化が生じる。

もう一種類が「食中毒菌」。これは非常に厄介である。というのも食中毒菌は微量でも体内に侵入すると、時に死に至るような重篤な症状を引き起こすことがある。我々は常に、無意識にそれを取り込んでしまう可能性がある。

「腐敗」も「醗酵」も本来は同じ

そもそも細菌とはいったい何か。細菌とは目に見えない0.5μ程度の生物で(1μ=1/1000mm)、単細胞で細胞分裂によって増殖する。ウイルスは生きている細胞内でしか生息も増殖もできない。

例えば鳥インフルエンザが流行った時に、食用の鶏肉は問題ないと報道されたが、それは食用の鶏肉が生きていないためで、インフルエンザウイルスも失活する。

それに対し細菌は、適度な温度や湿気さえあればどこにでも生息し増殖する。ちなみに乳酸菌やナットウ菌も同じ細菌だが、人体に有益な「醗酵」を引き起こすため恐れられてはいない。しかし「腐敗」も「醗酵」も本来は同じで、それが人間や食品にとって有効な変化であれば「醗酵」と定義されるにすぎないという。

1つの細菌が1万個になるにはおよそ5時間半程度

細菌のすごいところはその分裂、つまり増殖のスピードであるという。最速20分程度で1回分裂するが、それが倍々になっていく。

1つの細菌が1万個になるにはおよそ5時間半程度。食品の保存状態が悪ければ、1日で食品が完全に腐敗することは十分に考えられるという。腐敗菌の場合1万個程度で食品を腐敗させるが、人はその変化に気づき腐敗した食品を口にすることはない。

しかしO-157などの食中毒菌はわずか100個程度の増殖、つまり食品の形状にほとんど変化が起きない状態でも、体内に入れば食中毒を引き起こす。100個程度の増殖にかかる時間はわずか2時間半程度。細菌が最も増殖のスピードを上げる温度は37℃前後であるため、夏であれば買ったばかりの食材やお弁当でさえ食中毒の原因になることは十分考えられるという。

毎年10名前後の方が食中毒により命を落としている

日本の食品の衛生状態は非常に良く、食の安全についても全てのレベルで最新の注意が払われているため食中毒で命を落とすことはめったにない。それでも食中毒による死者がゼロであった年はここ15年の間に2年しかなく(平成21年と22年のみ)、毎年10名前後の方が食中毒により命を落としているという。

平成23年には某焼き肉チェーン店で集団食中毒が発生し、数名の死者が出て「腸管出血性大腸菌O-157」が話題となった。この事件の後、24年にはユッケやレバ刺しの飲食店での提供が禁止される事態となった。

牛肉や豚肉の平均20%がO-157を保有

「腸管出血性大腸菌O-157」が体内に侵入した際、一般的には腹痛や頭痛、酷い場合で大量の鮮血便が出るなどの症状がおきる。免疫力や抵抗力の低い乳幼児や高齢者であれば、脳症や溶血性尿毒症症候群(腎臓のトラブル)が生じ、死に至ることもある。

感染経路は食肉が主だが、牛肉や豚肉の検便検査をすると平均して20%がこの菌を保有しているという。また、羊になると67%、イヌや猫からも5〜15%はこの菌が検出されるそうだ。

つまり人間以外の動物はこの菌を保有していても健康上まったく問題がない。そのため、一般的に多くの動物はこの菌を保有していると考えた方がよいと関崎氏(生息場所は主に腸管内と糞便)。

ただ「腸管出血性大腸菌O-157」は熱に非常に弱い。従って、「どんな食肉でも基本的に菌が付着しており、焼いてから食べなければ危険」ということを理解すべきと関崎氏。

豚肉の生レバーも加熱が必要

ユッケやレバ刺しが禁止された反動で、豚肉の生レバーを提供している店が昨今急増している。厚生労働省もその危険性を早速評価しており、今のところ規制はないが「加熱して」提供するように飲食店に呼びかけはじめている。

関崎氏らのチームの研究によると、豚の生レバーにはカンピロバクター、サルモネラ、E型肝炎、トキソプラズマなど多種類の危険な菌が付着しやすいことが確認されており、法規制が発令される前に自主的に食べることを控えるべきという。

サルモネラによる食中毒、O-157より罹患者が多い

「腸管出血性大腸菌O-157」の他にも、一般的な食肉に付着している細菌として「カンピロバクター」と「サルモネラ」がある。カンピロバクターは小売りされている鶏肉に30〜96%の高い確率で検出されるという。

原因食として、焼き鳥、白レバー、鳥たたきなどが上げられるが、いずれも十分に過熱されていない鶏肉が原因となる。症状としては頭痛や吐き気、腹痛、下痢、血便だけでなく死に至る脳症や、ギランバレー症候群の原因にもなるという。

「サルモネラ」は牛や鶏肉、卵からよく見つかる。日本はこのサルモネラによる患者数が少なくない。厚労省や農水省が対策を講じているため、サルモネラによる食中毒の患者数は毎年確実に減少しているが「腸管出血性大腸菌O-157」やカンピロバクターよりも罹患者数は多い傾向にあるそうだ。 しかし腹痛や下痢、嘔吐などの軽症で済むことが多いため、病院に行かない人や、行っても検査をしないケースも多く、正確な数字が把握されていないという。

ほとんどの細菌は熱に弱い

いずれにせよすべての食肉を含む生肉には目に見えない細菌がついていると思ったほうが確実だと関崎氏。そのため生肉を調理したまな板や包丁は使い回さない。同じものを使用するのであれば、きちんと熱湯消毒する。

生肉を掴んだお箸やトングなどは口にいれない。生肉を触ったら速やかに手を洗う。これらの基本的な対策が重要だとした。ほとんどの細菌は熱に弱いため、加熱して食べることはもちろん最大の予防になる。ちなみに冷蔵保存は細菌を増やさないことには役立つが、殺菌効果はない。

軽度の下痢や腹痛の多くも実は「軽い食中毒」

  日本人は欧米人と比較して、下痢や腹痛などの症状を起こしやすいことが近年わかってきているという。もともと下痢や腹痛などの経験が多いため、多少の下痢や腹痛が起こっても、「食べ過ぎ」「お腹の冷え」「ストレス」を原因と考え、「食中毒」を疑うことがほとんどない。しかし一日、あるいは数時間で治ってしまう軽度の下痢や腹痛の多くも実は「軽い食中毒」であることのほうが多く、たまたま大事には至っていないと考えた方がよいと関崎氏。

もちろん、すべての菌を殺菌することはできない。人は細菌に守られて生きているという側面もある。あまり過剰に殺菌すると必要な免疫機能が低下したり、食品でいえば、野菜などもよく洗うことは必要であるが行き過ぎると瑞々しさが失われたり、栄養価が低下したりする。細菌の特徴や食材のそれぞれに当たり前に付着している細菌の特徴をきちんと理解し、適切な調理で食を安全に楽しんでほしいとした。

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