”ギャバロン茶、血圧抑制機能で注目"

  独立行政法人食品総合研究所 企画調整部 研究企画科長
農学博士:津志田 藤二郎 氏

近年、生活習慣病が増加しているが、予防策として緑茶やウーロン茶などお茶の機能性が注目されている。とくに、血圧については、降下作用が期待できるお茶としてギャバロン茶に関心が集まっている。独立行政法人食品総合研究所の津志田研究企画科長にギャバロン茶の開発経緯などうかがった。
----ギャバロン茶の開発の経緯をお聞かせください

津志田:ギャバロン茶の開発は昭和59年頃から始まっています。農林水産省に茶業試験場という研究所があり、そこが昭和61年12月に農林水産省野菜試験場と合併して野菜・茶業試験場になりました。現在、独立行政法人野菜茶業研究所になっていますが、当時はお茶の研究が単独で独立した研究機関として成り立つかどうか、かなり議論がされ、結局合併・統合となった訳です。

私は昭和49年に農林水産省茶業試験場に採用されましたが、一貫してお茶の旨味成分のテアニン、渋味成分のカテキン、あるいはカフェインといった成分の代謝と茶の品質との関係の研究を行ってきました。

嫌気的環境下で生葉のグルタミン酸がほぼ100%近くγ-アミノ酪酸に変化

津志田:茶業試験場に対する見直しが行われていた当時、基礎的な研究が本当に役に立っているのかについての見直しが始まりました。私は、当時テアニンの生合成や分解について研究をしており、葉での含量を高めるために分解を抑制方法について、分解代謝系を解明することによって、見つけようとしていました。その研究の中で、テアニンが葉でグルタミン酸とエチルアミンに分解され、さらにグルタミン酸は、特異な環境下では異常な代謝が行われることを見いだしました。

酸素がない状態、あるいは窒素ガス中に封入しても良いのですが、つまり嫌気的な環境下に茶の生葉をおくと、グルタミン酸がほぼ100%近くγ-アミノ酪酸に変わるということがわかったのです。

1番茶、2番茶とも、血圧が非常によく下がるというデータが得られた

津志田:それで、γ-アミノ酪酸が何かに役立てればということで医学辞典とかいろいろなもので調べていくうちに、薬学の柴田承二先生が編集された本に、γ-アミノ酪酸が血圧上昇を抑制するという記述を目にしました。そこでグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変えたお茶を製造したら、血圧上昇を抑制するお茶ができるのではないかと考えました。

その後、γ-アミノ酪酸の血圧上昇抑制作用は、1963年頃にスタントン氏が研究論文を発表していることが分かり、それを武田薬品の図書館から入手することができました。それには、ネコやモルモット、犬などさまざまな動物に、γ-アミノ酢酸を静脈注射をした際に血圧が20%下がるギャバの濃度が書かれてありましたが、モルモットや犬、ウサギでは低濃度で血圧が下がるものの、ネコではその100倍以上の値でないと下がらないということでした。

ヒトでの実験は難しいため、データはありませんでしたが、ネコのように鈍感であれば造ってもムダかもしれないが、ヒトが犬やウサギのようにもし敏感であれば、血圧が下がるかもしれないということで、モデル実験を行ってみようということになり、大妻女子大学の大森先生に研究をお願いしました。

実験は昭和60年に始まり、1番茶、2番茶と続けて実験したところ、血圧が非常によく下がるというデータが2回とも得られました。それで、この成果を発表して皆さんに飲んでもらうようにしたらどうかということになり、摘採した生葉を窒素素ガスに封入し、γ-アミノ酪酸濃度を高めたお茶の製造方法を検討しました。

その結果、外見上は全く変わらないのですが、6時間から10時間の窒素ガス処理で、グルタミン酸がほとんど全てγ-アミノ酪酸に変わった新しいタイプのお茶を製造することができるようになりました。その他の成分を調べると、カテキンやカフェインといった成分の含量変動はなく、アミノ酸組成だけが変化したお茶ができた訳で、これを茶業技術協会の大会で発表しました。

異臭を改善し、昭和62年頃に販売を開始

津志田:結論をいいますと、グルタミン酸がγ-アミノ酪酸に変化するということと、アスパラギン酸がグルタミン酸と同様ほとんどゼロになってアラニンができるということがこの新しいお茶の特徴です。科学的組成としてはγ-アミノ酪酸とアラニンが非常に増えて、後はあまり変わりません。

ただ嫌気的処理を行いますので、お茶ではあまり嗅いだことのないような臭いを生じる欠点がありました。そのため、その点を工夫して商品化したらどうかという提案もしました。そうした発表を昭和60年に行ったところ、静岡のお茶の生産業者が興味を持ち、製造したいということで来られました。製造自体はお茶の生葉を窒素ガスに封じ込めればいいわけですから、すぐに製品化に取りかかりました。

臭いの点については、それぞれのメーカーが工夫をして改善しました。ただ、当時かなり新しい方向のお茶だということで注目を浴びたものの、消費者側にまだ受け入れる体制が整っていなかったため、生産は数十トンレベルであったかと思います。

------今では特定保健用食品とか食品の機能成分が広く世の中に知られるようになりましたが、少し早過ぎたのかも知れませんね

津志田:特定保健用食品は平成3年に当時の厚生省が許可しましたが、その前提となった文部省の食品機能に関する研究は昭和59年に始まっています。その研究成果の発表が昭和61年に出ましたから、そのことが有名になるちょっと前にギャバロン茶が世に出たわけです。

お茶には、健康茶や、お茶の葉を使わないお茶といったさまざまなタイプがありますが、それらは、昔から緑茶を製造している人達から見るとまがいものであり、受け入れられないものであったと思います。お茶の試験場でも、いいお茶を作るというか、おいしいお茶を作るということに情熱を注いでいましたので、意図するものと違うお茶はなかなか受け入れないようなところがありました。

昭和61年当時も、まだそのような雰囲気はあって、人の健康に役立つとか、そういうことを面と向かって言うことが中々できにくい状況でした。そうした難しい面もありましたが、業界は注目していました。少し早すぎたのかも知れません。あまり量的には出ませんでしたが、しかし、幸いなことに大森先生とか(株)葉桐の社長やお茶の青年団の方々など、いろいろな方々が自信を持って積極的に続けてこられましたので、消滅するというようなことにはなりませんでした。

特許は取らず、誰もが製造や名前の使用が可能

津志田:ヒトに対しての実験ですが、大森先生が病院のお医者さんと共同で通院患者に対し日常のお茶を飲むような形で行いました。日常の生活と同じようなレベルで13人くらいの患者にギャバロン茶を飲ませた実験で、半数の患者の血圧が改善されたというデータが出ています。それで、食生活の中で普通に緑茶と同じように飲んでいただければ血圧が改善できるかなという期待を持っています。

お茶の名前については、ギャバ茶にしようかギャバロン茶にしようかといろいろ考えましたが、その頃ウーロン茶が流行っていてギャバ茶では簡単すぎるということで、ギャバロン茶にしました。

実は第一製薬が脳の手術の際、点滴で使う医薬品でガンマロンという薬を販売していますが、ガンマロンの副作用で血圧が下がることもあるということを文献でみていました。それで、第一製薬のほうからはクレームまではいかないんですが、名前が似すぎているのではという指摘もありました。

その後、武田食品と開発を進め、特許も考えましたが、お茶の農家は自製のお茶も造りますし、農家や農協に特許料を払えとは言いずらいこともあり、またお茶が10万トンの生産を切って9万トンに落ちてきている時代でしたので、特許をとらずにこのお茶をきっかけに若い人達が農家を継ぐとか、夢を持ってやれるようになったほうがいいんじゃないかという判断から特許は取りませんでした。ですから、ギャバロン茶は誰が作ってもいいし、誰が名前を使ってもいいということでずっときました。

------γ-アミノ酪酸を食品で摂ってなにか副作用とか考えられないでしょうか

医療現場では多量に使われているが、後遺症があったということはない

津志田:今、食品の健康機能ということで、これまでたくさん食べていなかった成分にスポットが当たって、サプリメントもできたりして、摂りすぎについてもいわれるようになりました。

γ-アミノ酪酸については、医療の現場ではかなり多く使われており、例えば静脈注射ではグラム単位で使われています。それで後遺症があったというようなことはありませんでしたから、最初からギャバロン茶による摂りすぎの問題ないだろうと思っていました。少し問題なのは、γ-アミノ酪酸が血液脳関門を通るかどうかということです。脳の中枢に行って血圧を下げるのかという問題ですが、血液脳関門については通らないというのが今の見解です。

ただ、大森先生のところでアイソトープを使ってのマウス実験では、脳のほうに分布していくことがわかりました。しかし、脳にγ-アミノ酪酸が入って行き、いろいろ悪影響を及ぼすということはあまりないと考えています。

人間の感情というのがドーパミンとかセロトニンとかアミン系の精神伝達物質で支配されているということもいわれていますが、γ-アミノ酪酸はむしろ抑制系で高揚した神経を抑えるということになり、そういうものが食品として摂られた時、直接神経のシナプスに行って働くかどうかというのは分かりません。

------他の食材の中にγ-アミノ酪酸は含まれていないのですか

γ-アミノ酪酸は嫌気処理で10倍から20倍に増加

津志田:γ-アミノ酪酸自体は天然に存在するアミノ酸です。ただ、タンパク質を構成するアミノ酸ではなくて、非タンパク性のアミノ酸です。非タンパク性のアミノ酸の中では最もポピュラーなもので、ヒトにおいては神経伝達物質になっています。

また植物にも乾物100g当たり10数ミリグラムですが存在しており、嫌気処理をすると10倍から20倍に増えます。嫌気的な条件でできますので洪水になって水に漬かった場合とかにも自然にできます。また、大豆の葉ですと、擦るとそこにγ-アミノ酪酸ができ、強く刺激する程含量が高まります。こうしたストレスを与えた部位にγ-アミノ酪酸ができるとされていますが、これがどのような役割を持つのか、因果関係はわかっていません。

------特定保健用食品の機能性成分として申請するということについては

昨年、医薬品の指定からはずれ、食品成分として扱えるようになった

津志田:γ-アミノ酪酸については、昨年、医薬品指定からはずされ、食品成分として扱えることになりました。現在、いろいろなγ-アミノ酪酸を含む食品が出ており、血圧を下げるというデータも出揃っていますから、できれば特定保健用食品にトライしてみて欲しいというのが私の本音です。

実はγ-アミノ酪酸を生理的食塩水に溶かしたものと、ギャバロン茶とを比較すると、ギャバロン茶のほうが血圧を下げる効果がはるかに強いです。γ-アミノ酪酸と相乗作用あるいは相加作用をするものが天然の食品の中にあって、食品の形態のほうがよく効くといわれています。

ただ、この未知の成分についての情報はまだあまりありません。そこをクリアーしないと特定保健用食品として認可しないという話になると中々難しいかとは思います。しかし、これまでに許可された特定保健用食品の関与する成分を見ると、商品としてかなりいいという印象から許可されているものが多いので、ある程度期待はできるかなと思っています。

------ギャバを付加したような食品が現在開発されてきていますが

津志田:私達が昭和60年に開発に携わった際の考え方というのはどちらかというと、農産物からの発想でした。お茶にグルタミン酸をまぶして嫌気的処理をすればもっと増えるわけですが、お茶というものはナチュラルが売りですので、なるべくそうしたことはしないようにということで進めてきました。

お茶などの農産物については、グルタミン酸などを添加するということはやめましょうという志向できました。ですが、サプリメントが許可されたり、機能を高めることに焦点を当てたさまざまなものが出てきますと、いっそ究極的に機能を高めたような食材、加工品があってもいいかもしれないとも思うようになりました。いろいろ効能を持つ食品があっていいんじゃないかと考えています。

------食品の付加価値を高めていくことが重要だということで機能性食品が注目されていますが、今後の機能性食品に期待されること、どういう方向に進むことが望ましいかということについて

世の中が発展した時に見落としたものを補完し、健康を維持できるような方向で考えていきたい

津志田:難しい問題ですが、食品業界、食品素材の生産者、消費者の3つにわけてみたいと思います。まず食品業界については、その成分が新しい商品の素材として使えるものかどうかという視点で、きちっとした科学的根拠のあるデータを出し、その応用範囲を明確にすることが重要であると思います。それが分かればどんどん使われ、かなり業界に貢献していくものと思います。

業界のほうは商品の回転が速く方向転換も容易な訳ですが、生産者はそうはいきません。例えばγ-アミノ酪酸含量の高い品種が作られたとしても、それがずっと販売されていくかどうか不安であり、リスクがあります。そういう意味で難しい面がありますが、私達の食総研では食品機能ということだけでなく、オーソドックスな品質に関する研究や人に長い間受け入れられるものかどうかということも含めてトータル的にやっていますので、農家が生産するものについては、比較的長期間市場価値を持つようなものを進めていきたいと考えています。

消費者のほうは安全性です。今まで食べていたものと違う形態になり、食が変わっていくことになっていった時、ほんとうに人にとって正しいものかどうかということを考えていかなければいけません。

世の中が変わっていき、食がどんどん変わっていって、風土に合わないような食べ方をしてさまざまな生活習慣病が多くなったりするわけです。昔に戻れというのではなく、現在ある食生活の中で何が足りないか、何が間違っているのかということをきちっと認識してそれを補っていければと思います。世の中が発展した時に見落としたものをきちっと補完し、健康が維持できるような方向で考えていけばいいと思います。



◆プロフィール
津志田 藤二郎(つしだ とうじろう)

<略歴>
1950年、岩手県に生誕。岩手大学大学院 修士課程終了後、農林水産省茶業試験場 製茶第一研究室に入所。1983年、農学博士(名古屋大学)。1984年、農林水産省食品総合研究所 生理機能研究室異動。1986年、農林水産技術会議事務局 研究調査官に、後に研究開発課 課長補佐を務める。1992年、農林水産省食品総合研究所 分析研究室 室長。1993年、同研究所機能成分研究室 室長。1999年、同研究所企画連絡室 企画科長。2001年、独立行政法人食品総合研究所 企画調整部 研究企画科長を務め、現在に至る。茶業試験場でギャバロン茶を開発したことが、食品機能の研究に進むきっかけになる。これまでは、食品に存在するポリフェノールの役割について主に研究してきたが、最近は、ペプチドの機能についても興味をもつ。

<専門分野>
食品化学、食品機能学、植物生理学。 <所属学会>日本農芸化学会、日本培養動物細胞工学会、日本食品科学工学会、日本フードファクター学会(JSoFF)、日本園芸学会、日本茶業技術協会。

<主な著書>
「機能性成分、食品流通製造データー集、(分担執筆)資源調査会出版(1998)」、「フラボノイドの医学、(分担執筆)講談社(サイエンテイフィック)第1版 (1998)」、「食品機能研究法、(分担執筆)、光琳出版(2000)」、「アントシアン、(分担執筆)建白社、(2000)」、「地域農産物の品質・機能性成分総覧、編集委員長(分担執筆)、(株)サイエンスフォーラム(2000)」、「食品の光劣化防止技術、編集委員(分担執筆)(株)サイエンスフォーラム(2001)」、「老化抑制食品、編集委員(分担執筆)(株)アイピーシー(2002)」など。

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