" 手術が成功しても再発するガンがある。外科治療の限界を食事による栄養・代謝療法で打ち破る "

  トワーム小江戸病院院長/西台クリニック院長
済陽高穂 氏

もはや国民病となったガン。ガン対策基本法の施行などで国も対策に力を入れているが、成果は早急には出ない。人間誰しも、ガンにはかかりたくないし、もしかかったら早く確実に治したい。そこで、外科医として消化器ガンを中心に4000余例を執刀し、「現代のブラックジャック」の異名を持つ済陽高穂先生に、究極のガン治療法をうかがった。済陽先生は、外科医の経験から、玄米菜食を中心とした栄養・代謝療法(食事療法)を取り入れて、とくに晩期ガンを中心としたガンの治療、再発予防などを行っている。

----外科治療がご専門の先生が食事療法に目を向けられたきっかけは、何でしょうか

済陽:私が入局した1970年当時は、ガンは非常に治りにくくて、ガン宣告は死亡宣告を受けるような時代背景がありました。何とかガンを治す医者になりたいと思って、まずガンの教室(消化器病センター)に入局しました。

当時は、手術した外科の根治はできないといわれている時代でした。10年、20年と打ち込んでやってきて、手術で治せるようになったのですが、ガンは再発してしまうのです。再発率は非常に高くて、当時で恐らく5割か6割はありました。

2002年から都立荏原病院に勤務して、1400例の消化器ガンの手術をやりましたが、その成績をまとめてみると、驚いたことに52%は5年生存しているのですが、再発して亡くなった人は48%でした。再発しても存命の人も、生存例の中におりますから、再発率としては5割を超えていることになります。これを何とかしないと、医療不信が高まったり医師への信頼がなくなったりするのではと思い、模索していました。

あるとき、余命数ヵ月と判断した患者さんをやむなく自宅療養にしました。この人は肺ガンと肝臓ガンで、肝臓に取り残しが4ヵ所あったのですが、自宅療養しているうちにみるみる良くなって、半年で大体腫瘍マーカーが正常になり、1年半で完全に病巣が消えたのです。

もう一人の患者さんは、ガン性胸膜炎で、半年ももたないだろうという状態でしたが、自宅療養をするうちにガンが全部消えてしまって、いま16年になりますがお元気なんです。 このどちらにも共通しているのは、玄米菜食の食事です。

そのころ、アメリカのNIH(厚生省)が、リチャード・ドール博士の統計を発表しました。ガンの発生について、50%が食物関連、30%がタバコで、食べ物の消化吸収・代謝異常が大きな要因であるというものです。当時としては画期的なもので括目されましたが、まだ半信半疑でした。その後、食事や生活パターンを変えることでガンを改善できることがわかってきて、現在に至っているのです。

----食事療法で恩師を救ったとお聞きしていますが

済陽:外科の医師が食事に目を向けるようになったのは、玄米菜食の指導を手探りで初めて、確かに手ごたえを感じたからです。 恩師の例をお話しましょう。

私が留学した時の恩師であるアメリカ・テキサス大学のジェームズ・トンプソン教授からメールが来て、教授が進行した前立腺がんの侵され、ヒューストンのM.D.アンダーソンガン病院で「ステージW、切除不能、余命半年」と宣告を受けたと記されていました。病巣が局所に留まらず、4センチ大のリンパ節転移が大動脈周囲にも広がっているため、切除不能ということでした。

そこで、私は「食事療法はどうだろう」と思い、以前からの知り合いで甲田療法で知られる大阪・八尾市の甲田光雄先生(2008年8月没)に電話しました。先生は「難病は治る。ガンは玄米食で6〜7割は治る。リューマチ、自己免疫疾患は8割以上は改善する」と常々唱えておられますが、「前立腺ガンは7割は治る」とした上で、食事指導の処方箋を送ってくれました。同時に、大学病院から見放された2人の前立腺ガン患者の食事療法による治癒例の送ってくれました。

一人は、腫瘍マーカーであるPSAが83(正常値は5以下)あったものが、半年で1.8になり完治。もう一人は、33から1年で4に改善したというものです。翻訳して、マックス・ゲルソンの書いた「ガン食事療法全書」と一緒にトンプソン教授に送ったのですが、そのメニューは、玄米、青汁などの和食のレシピで、青野菜の絞り汁、大根・人参・山芋おろし、豆腐といったものです。
半年後、教授からメールが来て、「PSAが3になり、正常化した。医者は、転移リンパ節のサイズが4分の1になり、治った、と言っている」というものでした。

トンプソン教授は、「医者は患者のためにある」「医療の本質は洋の東西を問わない」という言葉をよく口にしておりましたが、これは、大学の恩師中山恒明先生の「医者が病気を治すんだという大それたことを考えてはいけない。患者さんの治癒力を引き出してあげるのが医者なんだ。君はその手助けをしてあげなくてはいけないんだ」という言葉とも相通ずるところがあり、こうした恩師の影響で、外科医でありながら食事療法の研究に打ち込むきっかけになりました。

----ライフワークでしょうか

済陽: 早期の消化器ガンは、内視鏡手術などでほとんどは治りますが、晩期ガンになると処置ができず、半年以内の寿命になるといわれています。こうした根治術が不可能な晩期ガンの患者さんを助けることを、私はライフワークにしています。

手術と、化学療法、栄養・代謝療法によるものですが、その成果は「第41回日本成人病学会」で発表しています。「晩期ガンに対する栄養・代謝指導」と題したものですが、これは、一人でも多くの医師に、外科的治療だけではなく、食事指導をもとに治療面で栄養や代謝の重要性も認識して欲しいからです。

この学会での発表論文は、10年間に診察した晩期ガン患者さん70の症例で、次のような栄養・代謝療法を指導しました。まず、塩分と動物性たんぱく質および脂肪の摂取をなくし、胚芽成分、大量の野菜・果物、乳酸菌、海藻、キノコ(βグルカン)の摂取を半年以上続ける。
その結果、生存は42例で60%、死亡は29例で40%、完全寛解は8例、有効は29例、不変は2例、進行は3例で、奏効率は52.9%でした。免疫能を示す末梢血リンパ球数は、36例中18例が極めて顕著な改善が見られました。

栄養・代謝療法は、奏効率がまだ50%強ですが、完全治癒する人も10%程度あり、晩期ガンでも、食べ物を変えれば復活してもう一度新たな人生を歩むことができることになります。普段の食生活が、非常に大切です。

----食事療法を予防の面から見ればどうでしょうか

済陽: 21世紀は予防の時代と言われています。病気にかからないようにする。もしかかっても、軽いうちに治療を受ける。という時代です。いま、世界で食事が見直されています。今までどおりの食事をしていたら、病気になってしまう。こした知識をみんなで持って、考えようというものです。

動物性脂肪・タンパク質(とくにアニマル)は、人間の体には代謝しにくく、滓が残り、これにより、メタボといわれる症状や、ガン、アルツハイマーの原因になります。これに、塩分の摂り過ぎが加わると、もっと酷くなります。動物性の脂肪・タンパク質を植物性に変えると、病気が少なくなり、長生きにつながるということが証明されています。

----アメリカではガンが減っていると聞いていますが

済陽: アメリカでは、1990年から1995年を境に、ガンにかかる人と死亡率が減少し始め、いまでも減少しています。これは、1977年に発表された「マクガバンレポート」に端を発しています。当時、アメリカは、心臓病、ガン、脳梗塞などの病気が増え続けていて、医療費が増大し、国家財政を圧迫するほどになっていました。

そこで、フォード大統領が、「栄養問題特別委員会」を設置して、ジョージ・マクガバン氏に委員長を命じて作らせたのが、5000ページにも及ぶ「アメリカ合衆国上院栄養問題特別委員会報告書」(通称「マクガバンレポート」)です。その内容は、

  ・ 肉食中心の食生活が、ガン、心臓病、糖尿病を生んでいる
  ・ ビタミン・ミネラル不足
  ・ 医学界は病気と栄養の問題を無視してきた

というものです。ガン、心臓病、糖尿病、脳卒中などは、間違った食生活が原因でおこるもので、人間の自然治癒力を高めるには食べ物の栄養価が大切である、と報告したのです。

このレポートを受けて、FDA(アメリカ食品医薬品局)は、「ヘルシーピープル」という健康づくりの数値目標をつくり、これが「ヘルシーピープル2010」に引き継がれています。さらに1990年には、国立ガン研究所が「デザイナーフーズプロジェクト」を立ち上げ、野菜の積極的な摂取を呼びかけました。こうした国家プロジェクトが功を奏して、アメリカではガンが減っているのです。

----「マクガバンレポート」は、日本でも必要ですね

済陽: まず、メタボの原因はナチスの戦闘食(コンバットミール)である、という話をしましょう。ヒトラーは、強い軍隊をつくるために、兵士に1日4200キロカロリーの食事を取らせました。間食やアルコールを入れると5000キロカロリーのもなります。

因みに、現代の日本人の平均摂取カロリーは、1500〜2000キロカロリーです。このナチスの戦闘食がアメリカ陸軍に引き継がれ、朝鮮戦争やベトナム戦争で威力を発揮しました。そして、帰国兵は、ハンバーガーやフライドチキンなどを求めて、ジャンクフードの氾濫を呼んだのです。

いまの日本人は、まさに戦闘食をむさぼるように、ハンバーガー、フライドチキン、豚カツ、牛丼、アイスクリームなどをたくさん摂取しています。これでは、ガンや心臓病、糖尿病、脳卒中をはじめ、生活習慣病まで、自ら病気になるための食事をしていることになります。

日本でも、いまこそ「マクガバンレポート」が必要で、食事の変革が求められます。それと、医師がもっと栄養学に目を向けるべきです。栄養学については、大学でももっと時間を増やすべきだと思います。

----サプリメントについては、どうお考えでしょうか

済陽: サプリメントについては、基本的には自然栽培による作物のエキスだったら、問題はないと思います。合成したり、添加したりしているサプリメントは、バランスがとれないし、生体内で代謝がうまくいかなくなったりするので、危険です。シイタケとか梅のエキスなど、自然の形を抽出したものはいいと思います。

白血球とかリンパ球は、もともと増えにくいものですので、ニラやネギに含まれるアリシンなどを摂取すればいいです。ガンなどの治療についても、免疫機能が上がるような素材を摂って治療をすれば、より改善がはかれると思います。

サプリメントについては、いまたくさんの種類が出回っていますが、たとえば、ある物質を摂取すれば免疫がどのくらい上がったとか、生体のどの辺が改善されたとか、基礎的なデータを蓄積していく必要があります。アメリカでは既にやっていることですが、検証をしてデータを出すことが不可欠ではないでしょうか。

----ガン対策などについて大切なことは

済陽: いままで述べてきたように、国を挙げて食生活の改善を急がなければいけません。今のままの食生活を続けていれば、治らない病気が増えて医療不信を招き、医療費の増大を招来します。

国をはじめ、自治体や医師会などの医薬学界、栄養士界、ガンなどの民間業界など、官民を問わずさまざまな団体・個人が、こぞってガンなどの疾病対策を急ぐ必要があります。それと、さきに述べましたが、医療関係者がもっと栄養学について関心と知識をもつこと、医科大学で栄養学の時間をもっと増やすべきだと思います。



◆プロフィール
済陽高穂(わたよう・たかほ)

< 略歴 >
三愛病院医学研究所所長、トワーム小江戸病院院長、西台クリニック院長、医学博士。1970年千葉大学医学部卒業。東京女子医科大学消化器センター(中山恒明教授主宰)に入局。1983年国際外科学会の推薦によりアメリカ・テキサス大学外科教室(J.C.トンプソン教授)に留学。消化器ホルモンについて研究。帰国後、東京女子医科大学助教授に就任。1994年都立荏原病院外科部長。2003年都立大塚病院副院長。2007年都立北療育医療センター副院長。2008年より現職。千葉大学医学部臨床教授も兼ねる。日本外科学会指導医。消化吸収学会、大腸検査学会、マイクロウェーブ外科学会各評議員。先祖は、明朝末期に中国から渡来し、九州・都城の島津氏に仕えた薬師。主な著書:「そのがん治療、ちょっと待った!」(宝島社)、「病院で受ける検査がわかる本」(法研)、「病院で受ける検査」(ナツメ社)、「日本人だけなぜ、がんで命を落とす人が増え続けるのか」(主婦と生活社)、「今あるガンが消えていく食事」(マキノ出版)他。

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