“ 青魚に含まれるEPA、DHAが痴呆、アレルギーに作用 ”

  湘南予防医科学研究所所長
矢澤 一良 氏

本格的な高齢化時代の到来に伴い、痴呆症人口の急増が懸念されるが、そうした中、魚油に含まれるEPAやDHAによる疾病改善が期待されている。また近年、国民病ともいわれるほどの広がりをみせるアレルギー疾患にもEPAやDHAが有効とのデータも報告されつつある。湘南予防医科学研究所の矢澤 一良所長に青魚に含まれるEPA、DHAの機能性についてうかがった。
----魚油成分のEPAやDHAの研究のきっかけは。食品の三次機能(体調調節)について、お聞かせください

矢澤: 20年ほど前から日本の食生活はヘルシーだといわれてきました。何がそうなのか、おそらく魚がいいんじゃないかと考えたのが研究のきっかけです。そして、その中に含まれるEPAやDHAに行き着いたというわけです。
私はもともと微生物の研究者で、海洋微生物に興味があり、その有効利用や新しい資源を見つける研究を行っていました。微細藻類だとか、海草類がEPA、DHAを造るということは知られていましたが、私の研究範囲であるバクテリア、海洋細菌にもそういったことがあるかも知れないと思い、12年前から研究を始めました。

これまでにEPAを生合成する酵素系の遺伝子をクローニングして、大腸菌でEPAを作ることにも成功しましたが、大腸菌ではなくて、いろんな微生物、最終的には植物、野菜とか果物とか穀物とかに遺伝子を導入して作れば新しい食品開発につながっていくのではと思います。魚を食べなくても、あるいは魚を食べない地域でも、野菜や穀物を食べればEPAを摂取できるという時代が来るかもしれません。

------DHAはここ数年ハムや飲料など一般食品にも多く添加され、痴呆症の改善などで注目を浴びていますが

矢澤:EPA、DHAの生理機能、薬理的作用についてもこれまで研究を続けてきましたが、6年前に魚の頭の部分にDHAが大変多いことに気付いて、学会に発表しました。そうしたところ、いくつかの製薬会社、健康食品を作っている会社から問い合わせがあり、すぐにDHAの知名度が上がり、健康食品ができ、現在では粉ミルクに添加するまでに至っています。

また、DHAの高純度原料が安く得られるようになり、いろいろな研究を行っていますが、群馬大の精神科および千葉大の第二内科との協同研究で純度を50%くらいあげたDHAを痴呆症の患者さんにカプセルを投与したところ、痴呆症の改善あるいは発症を遅らせることが確認できました。もちろん副作用はありません。

――EPADHAはそれぞれ機能的にどのように違いますか

矢澤:EPAの研究は20年くらい前から行われ、その後10年ほど遅れて、DHAの研究が行われるようになりました。DHAは中枢神経系に働くことが分かっています。 血液脳関門という脳細胞にいたるバリアーがありますが、EPAは通過できません。ところが、DHAは通過できます。 現に脳の中の脂肪酸組成でEPAはほとんど検出されないにかかわらず、DHAは20〜25%検出されます。また目の視神経の網膜細胞でもEPAはほとんど0に対し、DHAは60%と神経系に多くみられます。

DHAは特に胎児、母乳栄養児にとって知能および視神経の発育に必須な成分で欠乏すると、いろいろな障害が出てくるということがよく知られています。ですから、DHA入りの粉ミルクなどで胎児を持っている母親にはDHAを沢山摂取してもらうことが必要です。癌の予防についていうと、EPAもそこそこありますが、DHAのほうがはるかに前癌症状をかなりはっきり抑制し、癌の発症の時期を遅らせます。また前癌状態ではなく、癌の状態になったとしてもかなりDHAで押さえることが期待できます。脂質関係でみると、EPAは中性脂肪を平均して25%くらい下げますが、コレステロールは数パーセントしか下げません。

ところがDHAのほうはコレステロールを10%くらい軽く下げます。しかし中性脂肪にはあまり影響を与えません。EPAとDHAは中性脂肪、コレステロールの低下に関してはそれぞれ違った作用を持つものと思われます。またEPAを食べれば体の中でDHAになっていくということで、EPAの作用は場合によってはDHAの作用かも知れないともいわれています。まだ研究の途中ですが、主な違いはそのあたりです。

――DHAのほうが、EPAを上回る薬理作用があるようですが

矢澤:DHAの薬理作用というのは大きく分けると2つ。一つはDHAの化学構造から由来する物理化学的な作用、もう一つは酵素阻害的な生物化学的な作用です。

物理化学的な作用というのは、DHAは細胞膜のリン脂質の中に入り込んで細胞膜の流動性を高めます。それにより血管壁細胞が柔らかくなって、血圧の上昇が抑制されます。あるいは赤血球膜に入り、赤血球の変形能を高めて血栓を予防、あるいは血流が改善され、酸素供給量が増加します。 また脳細胞のシナプスのリン脂質膜にDHAが入ってくると、そこでのアセチルコリンの合成能が高まったり、アセチルコリンのレセプターの数は変わらないけれど、レセプターの動きが活発になるために、見かけ上の活性が高まるというようなことがあります。こうした物理化学的な細胞膜の性状の改善ということがDHAにはあると思われます。

また肝臓にはLDLコレステロールレセプターというのがあって、血液中の悪玉コレステロールを代謝して肝臓細胞の中に取り込み、コレステロールを胆汁酸に変えて胆嚢から排泄し、最終的には糞便にして出していくという機能があります。DHAはLDLのレセプターの数を変えるわけではないのですが、見かけ上、25%活性化するという報告もあります。従いまして、コレステロール低下のメカニズムはおそらくDHAの物理化学的な性状による細胞膜リン脂質への取り込みということが関係しているものと思われます。

もう一つはアトピー、抗炎症、癌の予防ということにも関わっていると思いますが、これは一般的なサイクロオキシゲネースの抑制、あるいはリポオキシゲネースの抑制、細胞性ホスホリパーゼA2Aなどの酵素阻害的な作用、これは生物化学的な作用ですが、非ステロイド型抗炎症剤と同じような酵素阻害による炎症を抑え、癌を抑えるというようなメカニズムがある程度考えられています。

――DHAの摂取で最も期待できる効果は

矢澤:臨床データが一番多く蓄積されているのが、老人性痴呆症の改善、痴呆症の発症時期の遅延など一連の中枢神経系の作用です。2番目に癌の予防。これは動物実験でははっきりしていて、ヒトの臨床もそろそろ始まると思います。癌の発症の予防というのは長期間の臨床が必要ですが、疫学的な調査からも確実にそうしたことがでています。

3番目に抗炎症。これは癌の予防とほぼ同じメカニズムですが、抗炎症、抗アレルギーといった一連の炎症性疾患を抑えるということがかなりはっきりしてきています。それで、DHAによる副作用のないマイルドな形の抗炎症剤の登場も期待できます。特にこの3つです。さらに付け加えるとすると、コレステロール低下、血圧降下ということも血液の循環機能および各レセプターの活性化ということから期待できます。

――DHAの推奨摂取量については

矢澤:疾病が進んでいて改善したいという場合は1日あたり2g前後は摂ったほうがよいかと思います。そろそろなりそうだとかいう場合は1gくらい。また毎日の健康を維持していくというような場合は、0.5gというような摂り方がいいかと思います。 都会での平均的な日本人の魚の食べ方というのは、週7日、各3回食事を取るとして21回ですが、そのうち、おそらく5回から6回といわれています。これでDHAの摂取量はだいたい400mg程度といわれています。さらにそれに上乗せでDHAを500mg摂ると、1g前後になりますから、健康維持についていうと、ある程度期待できる量かと思います。

さらに疫学的な観点からいうと、昔、日本人が魚を多食していた時代は1日にDHAの量としては2gをはるかに超える量を摂っていました。それで老人性痴呆症は少ない、癌は少ない、炎症とか花粉症が少ないといったことがありました。ですから、今後、高齢者が増加という時代にあって、予防医学という観点からDHAはさらに社会に貢献していくものと思われます。



 湘南予防医科学研究所所長

  矢澤 一良 氏
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