似て非なるもの 塩と砂糖の不思議Q&A
〜平成22年度公開講演会SALT&SEAWATER SCIENCE SEMINAR 2010

2010年12月2日(木)、コクヨホールで、平成22年度公開講演会「SALT&SEAWATER SCIENCE SEMINAR 2010 似て非なるもの 塩と砂糖の不思議Q&A」が開催された。パネルディスカッション形式で講演が行なわれ、塩と砂糖の類似点や相違点が多角的に論じられた。

塩と砂糖の歴史
財団法人塩事業センター 研究調査部 主事 清水徹
三井製糖株式会社 財務アセットマネジメント 部長 佐藤公昭

7-8世紀に塩作りが始まる

塩は生命活動に必須の物質であり、古代からさまざまな方法で塩作りが行なわれているが、安価に大量生産されるようになるまでには苦難の歴史があった。

また、砂糖は体にとって効率的なエネルギー源であり、食品の味付けに欠かせないもので、古くは薬として輸入され、庶民には手の届かない効果な貴重品であった。塩も砂糖も戦後ようやく庶民でも気軽に手に入れることができるようになるというのが共通点。

そもそも塩は、海水を直接利用するなどして摂られていた。塩がいつから食されていたかは明確ではないが、縄文時代の遺跡から海水を煮詰めるために使ったと思われる土器が発掘されている。

万葉集には「藻塩焼き」に関する記述が残っており、遅くとも7-8世紀には塩作りが本格的に始まっていたことが考えられる。

塩製造の苦難の歴史、塩が清浄で神聖なものへ

日本には岩塩のような塩資源がなく、高温多雨という気候のため天日塩田での塩作りができない。そのため今も昔も、いかに濃い塩水をつくり煮詰めるか、ということから塩が作られてきた。

海水から濃い塩水(かん水)を作る方法は揚浜式、入浜式、流下式と変遷を辿るが、いずれも重労働で、また塩を煮詰める作業も夜を徹して行なわれる厳しい作業であった。

こうした苦労の歴史が、塩が清浄で、神聖なものとして扱われた所以だと考えられる。一例として各地に塩に関係する神事があり、また神事とは関係ないが、香の物祭りといって漬け物を祭る祭りもよく知られている。

1972年、イオン交換膜法で塩作りが本格化

1905年、国内塩産業の保護・育成・基盤整備や日露戦争の戦費調達のために専売制が施行されるも、急激な価格上昇が社会の反発を買う。1918年には国内や塩産業のさらなる育成と塩の価格をできるだけ低廉にし、安定して国民に供給することを目的に公益専売制へと変わる。

1972年、イオン交換膜法による塩作りが本格稼動し、全国にあった塩田はほとんど廃止。国内で海水から作られる塩のほとんどがこの方式になったことで、大幅なコスト低減が可能となり、現在に至る。日本の食文化は漬け物や醤油をはじめとする醤(ひしお)の文化から成り立っている。

砂糖、中国から遣唐使によってもたらされる

一方、砂糖の歴史はどのようなものであろうか。世界的には、蜂蜜が人間が最初に口にした甘味料だと考えられている。日本における砂糖は、近年までは輸入の歴史と言っても過言ではなく、塩とは大きな違いがある。

塩は代替できないミネラル成分であるのに対し、砂糖は他の食品から容易に摂取できるため、嗜好品という違いがある。

砂糖についての記述は奈良時代や平安時代の文献にあるが、いずれも薬としての用途であった。国内には中国から遣唐使によってもたらされたと考えられている。

江戸時代初期、砂糖の輸入量が増加

9世紀末に遣唐使の派遣が中止されると、砂糖は、官による輸入から民による輸入へと移行する。唐から宋の時代になると、中国商人や日本僧などによって輸入され、日本との関係が悪化した元の時代にも継続的に行なわれていた。

その後、南蛮貿易が始まり砂糖の輸入量が飛躍的に増加し、砂糖はそれまでの貴族や大名だけに留まらず、地方の豪族や有力者などにも広まり、消費を拡大していった。

消費と輸入の拡大は鎖国時代にも続き、江戸時代初期には砂糖の輸入量の増加により、通貨としての金や銀が大量に国外に流出したことから、ようやく輸入制限と砂糖の国産化を施行しはじめた。

幕府の支援のものと、サトウキビの生産を振興し、日本の精糖業が東海地方よりも西のエリアに広がる。これが和三盆糖である。

しかし、明治に入ると欧米や中国から安価で質のよい白糖が大量に輸入され、手工業だった日本の精糖業は軒並み廃業に追い込まれた。

国内の精糖業はその後も危機的状況に陥り、特に太平洋戦争後の日本の精糖業は悲惨だったが、1963年に原料糖の自由化によって再び復活を果たした。現在の主な原料糖輸入先はタイ、オーストラリア、南アフリカの3カ国で、全輸入の95%を占めている。

上白糖が一般的に使用されるのは日本の他に韓国など少国のみで、欧米ではお菓子などのみに使用されている。日本では砂糖を調味料として料理にまで使用する独自の食文化が発展したことが特徴的。

塩と砂糖の機能
財団法人塩事業センター 海水総合研究所 主任研究員 谷井潤朗
精糖工業会 技術研究所 所長 斉藤祥治

塩は砂糖より分子量が小さく、脱水・拡散作用強い

塩や砂糖には食品中の水分を引き出す脱水作用がある。これは食品と塩や砂糖溶液との浸透圧の差によって引き起こされる現象である。

塩は砂糖よりも分子量が小さいため、同じ添加量では塩のほうが食品からより多くの水を引き出すことができる。

また、塩や砂糖は食品中へ染み込む拡散作用を持つが、野菜と塩水との濃度差が大きいほど強くなる。これも塩の方が砂糖よりも分子量が小さいため、より早く強く浸透するという違いがある。

塩や砂糖の防腐効果

調理の際、調味料を「さしすせそ」の順番に加えると良いとされているのも、砂糖と塩の脱水作用、拡散作用に関係している。砂糖を先に、塩を後に入れることで、砂糖が脱水作用、拡散作用を起こすまでのタイムラグを調整する役割をしている。

塩や砂糖は防腐効果を発揮するが、砂糖が塩と同じ防腐効果を保つには、塩よりもより多くの添加を必要とする。漬け物や調味料では、塩分が通常13%〜22%だが、砂糖を用いたジャムや羊羹などは30%〜70%程度で、砂糖は塩よりも含有量が多くなる。

塩は腐敗細菌の増殖を抑制

人は塩漬けにした食品を塩分の少ない食材とともに調理したり、ご飯とともに食べたりすることで、おいしいと感じる塩分濃度の0,9%程度に調整して食べることになる。

砂糖漬けの食品の場合はそのまま調理したり、食べたりすることが多く、人の味覚において、砂糖は塩に比べて許容度が大きいことが分かっている。

塩はミネラルであるため、摂取が不可欠だが、摂取し過ぎは防がなければいけない。砂糖は摂取が不可欠ではないが、炭水化物のため、栄養分としてなるべく多く摂ろうと認識されるという違いがある。

また、塩には腐敗細菌の増殖を抑制しつつ、醗酵に有益な酵母や麹の生育を促進させるという働き(=醗酵調整作用)がある。

海外に比べ、日本は塩や砂糖の種類・銘柄が多い

一方、砂糖には、微生物が増殖するための栄養源として利用(=醗酵促進作用)され、例えばパンは小麦粉とともに酵母や砂糖を添加しなければ醗酵が促進されないという重要な機能がある。

塩にも砂糖にも他の味を強めたり弱めたりする相互作用があり対比効果、抑制効果、変調効果、相乗効果、順応効果などがよく知られている。

これらを活かした日本食の歴史も非常に独特かつ繊細なものがあり、料理の「かくし味」といった文化も日本が誇れるもといえる。

塩も砂糖も海外では数種類しか陳列販売されていないが、日本では種類や銘柄が非常に多く、独自の食文化として捉えられている。


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