『放射性物質の食品健康影響評価』と暫定基準の見直しについて
〜第5回 食の安全・安心財団 意見交換会

2011年11月21日(月)、ベルサール汐留で、「第5回食の安全・安心財団意見交換『放射性物質の食品健康影響評価』と暫定基準の見直しについて」が開催された。10月27日に内閣府食品安全委員会が「放射性物質の食品健康影響評価」を取りまとめ厚生労働省に通知。これを受け厚生労働省は、これまでの暫定的規制値の改訂を行うことになるが、意見交換会では各担当者がこれまでの経緯と今後の課題について報告した。

食品中に含まれる放射性物質の食品健康影響評価について
内閣府 食品安全委員会事務局 リスクコミュニケーション官 新本 英二

3月17日、食品衛生法に基づく食品の暫定規制値を設定

食のリスク評価を管轄している食品安全委員会と、実際のリスクを管理する厚生労働省は、3月11日の東日本大震災及び福島第一原発事故後、食の安全を守るために迅速に対応を重ねたが、いずれも緊急を要するものであり、通常のリスク評価や管理を行うことができなかったと新本はいう。

厚生労働省は原発事故が発生した直後の3月17日には食品衛生法に基づく食品の暫定規制値を設定したが、緊急を要したため、通常であれば行う食品安全委員会のリスク評価を受けずに設定がされた。

3月20日に厚生労働省は食品安全委員会に、リスク評価を要請している。しかし、食品安全委員会も緊急のとりまとめしか行えず、厚生労働省が設定した規制値に対して不適切と言える根拠は見い出せないとし、4月4日の段階では暫定規制値の維持を決定したという。

その一方で放射性物質に係る食品健康影響評価を継続して実施し、その評価結果がようやく10月27日に厚生労働省へ通知されるという流れとなった。

国際的文献3300本を参考にリスク評価

放射性物質に係る食品健康影響評価の実施では、まず、緊急時、平時といった状況で評価の基準が変わるようなものではないと新本氏。

また、内部被ばくのみを検討することは困難なため、外部被ばくは著しく増大していない、つまり原発事故以前から私たちは自然被ばくしており、外部被ばくは著しくは増大していないことを前提に検討が行われた。

リスク評価にあたり、国際的文献は3300本を越え、また食品摂取による放射性物質の健康影響に関する文献は非常に限られていることから、食品摂取による内部被ばくの報告に限らず、化学物質としての毒性に関する報告も集め、広く知見を収集したと新本氏はいう。

動物実験ではなく、ヒトにおける疫学データを優先

核種の評価は難しく、放射性ヨウ素、放射性セシウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、放射性ストロンチウムについては十分な情報が得られず、個別の評価結果は示せないと判断したという。しかしウランだけは放射線による影響よりも化学物質としての毒性が鋭敏に出ると判断され、耐容1日摂取量(TDI)が設定された。

また核種による個別結果が難しいという判断から、低線量放射線の健康への悪影響に関する検討に絞られ、動物実験ではなくヒトにおける知見を優先、また低線量における発がんの影響などで疫学データを重視したという。

内部被ばくのみの健康影響に関する知見は極めて少ない

参照文献では、放射線による健康影響が見い出されるのは、生涯における追加の累積線量がおおよそ100mSv以上(一般生活で受ける放射線量を除く)、小児は感受性が成人より高い可能性(甲状腺がんや白血病)、100mSv未満の健康影響について言及することは困難である、と新本氏。

基本的には通常のリスク評価の手法や食品分析と同じ手法で今回の結果をまとめたが、食品の摂取にともなう内部被ばくのみの健康影響に関する知見は極めて少なかったことから、客観的に評価をするためにも外部被ばくを含んだ疫学データを用いて評価せざるを得なかったという。

食品中の放射性物質に関する暫定規制値の見直しの方向について
厚生労働省 食品安全部 基準審査課 課長補佐 鈴木 貴士

現在、5つの食品分類でそれぞれ1mSv配分

食品衛生法に基づく放射性物質に関する現行の暫定規制値の設定は、次のような考え方で実施されているという。まずは食品からの被ばくに対する年間の許容線量(mSv)を設定し、食品カテゴリー(飲料水/牛乳・乳製品/野菜類/穀類/肉・卵・魚・その他)ごとに割当を行う。

例えば放射性セシウムの許容線量は年間5mSvで、5つの食品カテゴリーをそれぞれ1mSvで割り当てている。汚染された食品を食べ続けた場合、さらに年代別摂取量や感受性等の前提条件を置いた上で、設定した線量を超えないよう、食品カテゴリーごとの摂取量をもとに、規制値を算出している。この暫定規制値に基づき、各都道府県は検査を行い、規制値を超えるものが発見された場合は食品衛生法に基づき、流通しないように対応がなされると鈴木氏はいう。

来年4月を目途に、食品の許容線量を1mSv

現在の暫定規制値は放射性セシウムでは年間5mSvと設定されており、この規制値に適合している食品は健康への影響はないと安全は確保されているが、厚生労働省としてはより一層の安全と安心を確保するために、来年4月を目途に、許容線量を1mSvに引き下げることを基本として、薬事・食品衛生審議会において規制値設定のための検討を進めていくという。

1mSvを目標とするのは食品の国際規格であるコーデックス委員会の現在の指標が年間1mSvを超えないように設定されていることも受けている。また国民の意見などもふまえ、より安全・安心を目指す上での判断であるという。


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