食品中の有害元素分析と精度管理
〜食総研・産総研ジョイントシンポジウム2013

2013年7月11日(木)、産業技術総合研究所 臨海副都心センターで、「食総研・産総研ジョイントシンポジウム2013」が開催された。自然界にさまざまな形で存在する有害元素は食品中にも微量に混入している。それらをどう分析し、規制し、基準値を設ければよいのか。当日の講演「Codexにおける有害元素の基準値に関する最近の動向」(農林水産省消費・安全局農産安全管理課)より世界の取り組みを紹介する。


有害物質の基準、「SPS協定」と「Codex規格」

有害物質の基準値については、各国による独自規制の他に、世界的なものとして「SPS協定」と「Codex規格」の2つがある。

SPS協定とは「衛生植物検疫措置の適用に関する協定」の略で、世界貿易機関(WTO)加盟国が国際貿易への障壁にならないことを条件に、「人の生命と健康」「動物の生命と健康」「植物の生命と健康」「食品の安全性」を確保するために掲げている原則である。

ここではWTO加盟国が食品の安全性に関わる措置を、「科学的な原則に基づく」「科学的根拠なしに維持しない」ことと定めている。

また、SPS協定では、有害物質についてのCodex規格がある場合、WTO加盟国はこれに基づいて行動しなければならないと定めている。ただ、科学的に正当な理由があり、Codex規格よりも高いレベルの基準値の設定であれば、そちらの措置を採択することも可能としている。

つまり加盟国として、Codex規格の最近の動向に適合していれば、SPS協定の要求も満たしているとされるという認識で、独自に基準値を策定しているというのが現状である。

Codexの有害物質の基準値、6つの指標

このようにCodex規格は各国にとって非常に重要な基準値の目安になっている。Codexとは、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が1962年に設立した機関で、現在は185カ国と一政府間組織(EU)が加盟している世界的組織である。

世界中の消費者の健康保護と食品の公正な貿易の確保を目的とし、国際食品規格(Codex規格)により、世界の人々の食の安全や健康に貢献している。

Codexが有害物質の基準値を検討するために必要な情報源には6つの指標がある。「毒性学情報(毒性と耐容摂取量)」、「含有実態データ」と「公正な貿易に関する情報」、さらに「食品の摂取量のデータと汚染工程」、「汚染の管理のための経済的な事項に関する情報」、「リスク評価に関する情報」である。これらの6つの指標から公正かつ科学的な情報収集を行い、Codex規格を策定していく。

各国の経済状態や衛生状態などの差異を考慮した国際基準

基準値を設定する原則として、「重要な健康リスクと貿易問題があるもののみ設定」や「汚染物質等の摂取寄与が大きな食品に対してのみ設定」を重視している。むやみに基準を設定することで生産や取引の不必要な中断がないよう十分な配慮をしているという。

また収集された情報は、複数の地域から得たものでなければいけないこと、第三者による分析機関からのものであること、分析方法についても日常的に各国で使用されている分析法でなければならないこと、などを原則として定め、その上でCodex規格を策定しているという。

つまり各国の経済状態や衛生状態などの差異を十分に考慮してあくまで国際基準を作成するというスタンスだ。

現在Codex規格として基準値が決められている有害物質として、アルミニウム、カドミウム、鉛、水銀、メチル水銀、スズがある。しかしこれらの基準値はもちろん永久的なものではない。常に新しい知見が報告されるため、それぞれ物質ごとに検討が常に行われ、その都度基準値の見直しも行われている。

来年以降、再びその基準値について検討が予定されている有害物質は「鉛」「メチル水銀」「ヒ素」の3つ。

農水省、今後リスク管理を強化すべき有害物質のリストを独自に策定

例えば鉛については、環境中の鉛の残留が減少傾向にあるため、2001年に採択された基準値を引き下げることが検討されている。メチル水銀については、途上国における分析が難しいため、途上国にも容易に導入できる分析方法を検討している。また、メチル水銀の含有量の多い対象魚類を明確に分類するなどの検討が予定されている。

ヒ素については、特に無機ヒ素化合物に対する規制が現在のところなく、無機ヒ素化合物に関する規制を検討することや、米にふくまれる無機ヒ素化合物に関する規制が検討されている。また、主要な米生産国のデータの再収集などについても検討されている。

日本政府(農水省)も、Codex基準に則ることやCodexに情報を共有することを前提に、「今後リスク管理を強化すべき有害物質のリスト」を独自に策定しているという。

優先度の高いものとしては、ヒ素、カドミウム、アフラトキシン等で、これらの含有量実態調査やリスク低減技術の開発等を行う必要があるとしている。また鉛や水銀、ダイオキシン類、残留性有機汚染物質についても情報収集の必要があるとしてリスクに掲載しており、今後5年以内に実態調査を実施することやモニタリングする計画などもあるという。

民間企業との協力が重要

日本政府(農水省)としては、国際ルール及び科学的なデータに基づくCodex規格の設定や更新に向けて、国内の食品に含まれる「含有実態調査」や「摂取量推定調査」を常に行い、CodexやWHOに情報を更新するかたちで貢献することが重要だと考えている。そのためにも、妥当性が確認された分析方法が必須で、民間企業との協力が重要であるという。

Codexでは、食品汚染の防止、低減を実施すること、実態調査に基づき対策の効果を評価すること、また必要があれば基準値を設定し、規制措置を取ることで世界の食の安全を守ることを使命としている。

日本政府(農水省)としてもCodexに協力すべく、継続的なモニタリングを行うことや、リスク管理措置の効果を報告すること、また必要に応じて適宜見直し報告することも重要であるとした。

<文責:浜野夏企>


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