トランス脂肪酸の疾患リスクとは
〜国立健康・栄養研「第17回一般公開セミナー」


2016年1月24日(日)、よみうりホールで、国立健康・栄養研主催の第17回「一般公開セミナー〜食品の栄養・機能性表示を考える」が開催された。この中から、山添 康氏(内閣府食品安全委員会委員長代理)らの講演を取り上げる


食品の安全性について評価

食品安全委員会は食品のリスクやリスクコミュニケーションを担当、7人の専門委員と12の専門調査会(現在218名の専門家が所属)から成る。

人は、食事からさまざまな物質を体内に取り込む。しかし、食品を構成するすべての物質が安全とは限らない。

食品安全委員会では、食品添加物の問題や遺伝子組み換え食品など、食品の安全性について評価を行っている。

例えば、今注目を集めているのが「トランス脂肪酸」「アクリルアミド」「食肉加工品(ハムやソーセージ)」などの安全性。これらについてどのように考えればいいのか山添氏が解説した。

食品に含まれる不要成分

人は「栄養摂取」を目的に食品を摂っている。しかしこれらの食品の中には栄養素だけでなく、不要成分も含まれる。

例えば、食物繊維は栄養素とはいえず、とくに不溶性食物繊維は体内に吸収されず排泄されてしまう。一方、脂溶性成分(例えばアルカロイドや精油成分など)は不要成分であるにも関わらず一旦吸収されてしまう。

栄養素は主に消化管から吸収され、炭酸ガスと水に分類され、エネルギーだけ抽出されて不要なガスや水は排泄される。しかし不要成分は消化(細かく分解)されず、直接排泄経路を通過して体外に排出される。

あるいは、肝臓など解毒の役割を担う臓器で処理され排出されるかのいずれかの経路を辿る。こうした不要成分の中にはアルコールや医薬品、環境中の汚染物質などもある。

体内で複数の酵素が異物を処理

しかしこれらの不要成分を人間はなぜうまく処理できるのか。それは人類の進化の過程と密接に関係している。食物に含まれる毒素や不要物質を解毒できる動物こそが生存に有利である。

人間は進化の過程で「処理系」を獲得、それは主に肝臓の「異物(薬物)代謝酵素系」として進化した。体内では複数の酵素が働き異物の処理を行っている。

脂溶性の不要成分は直接排泄経路を辿り体外に排出されるのではなく、薬物代謝系で難吸収性の代謝物質に変換される。

さらに肝臓や胆管でいくつかの処理(代謝)が行われ最終的に便から排出されるか、あるいは血液循環系に流入した異物は腎臓で漉しとられ尿から排出されるという複雑なメカニズムにより処理される。

トランス脂肪酸の問題とは

人間の体は不要成分でもうまく処理し排出する機能「異物代謝系」を備えている。では、今話題になっているトランス脂肪酸については体内でどのように処理されるのか。

そもそも3大栄養素(タンパク質、糖類、脂質)の中でも、脂質は消化管で「モノアシルグリセロール」と「脂肪酸」に分解され、リンパ系などを経由して体組織に貯蔵される。

コレステロールも体組織に貯蔵された後、LDL(いわゆる悪玉)/HDL(いわゆる善玉)の形に変わり肝臓に運ばれる。アミノ酸や糖質と比較しても、脂質は体内に多くの貯蔵場所を持っているため、運動量が低下すると体組織に蓄積/定着し肥満の原因となる。

トランス脂肪酸の心臓リスク

しかも脂肪の中でも不飽和脂肪酸>飽和脂肪酸の順で分解・代謝され、さらにトランス脂肪酸はその後に回されるため、体内に蓄積しやすいのは間違いないと山添氏は解説。

脂肪はそもそも体内のあらゆる部位に蓄積しやすい。また、分解される順番も決まっているが、トランス脂肪酸は体内に非常に残りやすい。

総エネルギーの5%をトランス脂肪酸が占めるような食事を持続的に摂っている人は、特に心臓に脂肪酸が溜まりやすくなり、心疾患リスクが上がると食品安全委員会でも考えているという。


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