食品の高付加価値と安全・信頼の確保を
〜JASIS2016 ライフサイエンスイノベーション


2009年9月7日〜9月9日まで幕張メッセで分析機器、科学機器の総合展示会であるJASIS2016が開催された。同展示会セミナーより大谷 敏朗氏(国立研究開発法人農研研究機構理事)の講演「国立研究開発法人農研研究機構における今後の食品研究」を取り上げる。


4つの大きな柱で研究開発

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は、我が国における農業と食品研究の中核研究組織機関として、2016年4月に農業生物資源研究所、農業環境技術研究所、種苗管理センターと統合された。

この統合によって、2016年〜2020年に強化すべき課題を「第4期中長期計画」として推進していくことが決まっており、すでに取り組みがなされているという。この中長期計画には4つの大きな柱があり、それに従って研究開発を進めることになっているという。

その4つとは、(1)生産現場の強化・経営力の強化、(2)強い農業の五限と新産業の創出、(3)農産物、食品の高付加価値と安全・信頼の確保、(4)環境問題の解決・地域資源の活用、である。

健康維持増進や疾病予防をゴールに

このうち(3)の、農作物や食品の付加価値を高める研究の一環として、果樹、茶、野菜、花、食品に関する研究が求められているという。

というのも、国民が健康志向になっていることや、また時代や消費者の変化に応じて変動する「食べやすいもの、より好まれるもの」に農作物や食品も適応する必要があるからだ。しかもそれを農作物や食品単体で考えるのではなく、フードチェーンとして捉える必要があるという。

フードチェーンとはゴールを「健康維持増進、健康機能性、疾病予防」と考えた場合、そのための種や苗の育種からスタートし、栽培や収穫だけでなく、食した後の体内での消化吸収の状態、そして廃棄処理まで、一連の流れで考えて取り組む、というもの。

機能性表示食品の普及にも貢献

日本の食の安全は厚労省、農水省、消費者庁、食品安全委員会、そして消費者によるリスク評価やリスクコミュニケーションによって守られている。

農研の行う取り組みもこのリスクコミュニケーションに役立つような「科学的」取り組みである必要があり、同時にその情報やイノベーションを発信する農研そのものが信頼される機関として成長する必要がある、と大谷氏。

そのような流れを汲んで取り組まれてきたこれまでの研究成果の産物として「梨の甘太」「みかんのみはや」「柿の太豊」などがあると紹介。

他にも昨年から始まった機能性表示食品のエビデンスに使用可能な研究レビューとして使用してもらえるよう、緑茶のメチル化カテキン、温州みかんのβクリプトキサンチン、大麦のβグルカン、緑茶のエピガロカテキンガレート、大豆のβコングリシニン、ほうれん草のルテイン、りんごのポリフェノール、こんにゃくのグルコマンナン、魚のEPA/DHAなどがある。

これらは、一般企業に自由に利用できるものとしてすでに公開されており、機能性表示食品の普及にも貢献できるような取り組みをしているという。

現在開発しているものとしては、カットフルーツなどの加工に適した果樹の開発、地球温暖化に対応できるような低温要求性の低い桃、海外に輸出するための機能性緑茶、カフェインレスのお茶などであると紹介。

また野菜も加工や業務用途に適したものの開発が求められており、切り花も品質保持期間が2倍になるようなものを開発する研究が進められているという。

栄養機能性の解明が主要な課題に

特にこれからの5年は、栄養機能性の解明とその付加価値を食品開発に力を入れることが農研にとっても主要な課題になってくる、と大谷氏。

健康寿命延伸といっても、世代別、あるいは個々人で必要なことは変わってくるため、その多種多様なニーズに応じた所農作物や食品開発が必要であろう。

栄養機能性が高いだけのサプリメントのようなのもではなく、食べやすく、美味しく、全体の栄養バランスに優れている「食品」や「食物」であることがますます大事になってくるであろう。

また日本の機能性食品は世界的に見てもレベルが高いため、海外に輸出しても勝負できるようなものが多いが、それを長期貯蔵するシステムなどもますます重要となる、と大谷氏。

カドミウムをほとんど吸収しない稲の開発に成功

他に、日本の米は和食と共に世界的に人気だが、デメリットとしてヒ素とカドミウムの含有量が多いことが指摘されている。これは日本の土壌の特徴によるものだが、農研機構によってカドミウムをほとんど吸収しない稲の開発に成功しているという。

さらにその周辺の研究開発として家畜の疾病予防技術の開発や家畜のウエアラブルデバイスによる健康管理などもあることを解説。

また米は糖質と分類されるため、糖質制限に取り組んでいる人には避けたい食材となっているが、血糖値が上がりにくい米が開発されているという。

そして最後はそれをどう調理し、どう食べるか、といった食育まで考えることによってフードチェーンとして完結する。課題はたくさんあるが食品研究の方向性やトレンドとしては、「機能性とその付加価値によるフードサイエンス」とまとめられる、とした。


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