ポリフェノールのロスマリン酸に脳機能改善作用〜東京大学食の安全研究センターシンポジウム

2017年2月22日、東京大学にて「東京大学食の安全研究センター 創立10周年記念シンポジウム〜食科学の現在と近未来」が開催された。この中から、小林 彰子氏(食の安全センター准教授)の講演「ポリフェノールの脳機能改善効果および安全性の検証」を取り上げる。


日本人の65歳以上の4人に1人、認知症と予備軍

2012年の厚生労働省の調査によると、日本人の65歳以上の4人に1人は認知症とその予備軍と報告されている。

早急な対策が求められるが、認知症の約55%を占めるアルツハイマー型認知症がポリフェノールで遅延できるのではないか、という疫学的知見が多数報告されている。

例えば、ワインをよく飲んだりカレーを食べたり、緑茶などよく飲む人は日頃からポリフェノールを多く摂っている。

金沢大学の研究の一環で行われた「石川県の中島町プロジェクト」で、1日1杯の緑茶を飲んでいるグループは飲んでいないグループと比べ、アルツハイマー型認知症の発症リスクが1/3も低いことが5年間の追跡調査の結果で明らかになっている。

しかしながらポリフェノール類は体内に吸収されにくく、それがどのようなメカニズムでアルツハイマー型認知症を遅延させるのか、そのメカニズムについては不明な点が多い。

ポリフェノールのロスマリン酸、認知症遅延作用

ポリフェノール類の認知症遅延効果については世界各国で研究が進められている。

小林氏らのグループは2009年にモデルマウス試験によるシソ類ハーブに含まれるポリフェノールの一種「ロスマリン酸」に高いアルツハイマー型認知症遅延作用があることから、これをヒトへ応用できないか、軽症度認知症患者の臨床試験を現在行っているという。

しかし臨床試験を行う前に、ロスマリン酸の安全性の検証を行うことが重要で、どのようなプロセスを経て安全性評価を行ったか、また現在実施中の臨床試験の研究の中間報告を行った。

まず、食経験が長く安全性が高いハーブ「レモンバーム」よりロスマリン酸製剤を臨床試験用に開発し、健常人のボランティアを対象にロスマリン酸の体内動態試験を行った。

その時に用いるロスマリン酸の摂取量は、マウスの実験から人の生涯に渡って毎日摂取したとしても影響が出ないと考えられるADI値を概算し150mg/日とした。

その結果、ロスマリン酸は経口摂取後、1時間後に最高血中濃度に達するが、24時間で血中から消失し、ロスマリン酸の安全性が非常に高いことが示唆されたという。

またアルツハイマー型認知症への作用を確認するために、脳全体の神経伝達物質の増減について確認したところ、ロスマリン酸摂取後は神経伝達物質の顕著な増加が見られたという。

しかし脳のどの部分でより顕著に増加があるか、あるいは変化が起こらないかなども合わせて検討する必要があるという。

アミロイドβの沈着を抑制(マウス実験)

同じく試験管による試験でもロスマリン酸摂取後の作用メカニズムは不明であったため、マウスの脳のトランスクリプトーム解析を行い脳内の遺伝子発現変化を解析した。

その結果、ロスマリン酸摂取後に脳内のアミロイドβの沈着が抑制されることが分かった。

軽度の認知症モデルマウスを用いた試験では、12ヶ月連続でロスマリン酸を摂取した群はコントロール群と比べ、行動試験においても有意に認知機能低下が抑制されたことを示したという。

発症の20年ほど前からアミロイドβが蓄積

アルツハイマー型認知症は発症する20年ほど前から脳内にアミロイドβが蓄積を開始することがわかっている。現在は治療薬がなく治療薬も治療法も満足のいくものではない。

そのため世界中で、「日頃の食事で発症を抑えたい」というニーズがある。

ロスマリン酸がアルツハイマー型認知症の遅延やアミロイドβの蓄積の予防に役立つことは概ね明らかになりつつあるが、人への安全性の担保や治療反応性マーカーの課題などが残されている。

最終的に臨床で有用性を示すまでにはまだまだ研究が必要で、引き続き調査を続けたいとした。


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