漢方でアクティブエイジングという生き方
〜NHKエデュケーショナル「健康応援フェスタ2017」


2017年7月9日(日)、東京国際フォーラムで、NHKエデュケーショナル 健康応援フェスタ2017「すこやかな体と漢方」が開催された。この中から、 木村容子氏(東京女子医科大学 東洋医学研究所 副所長)の漢方入門講座「漢方の知恵でポジティブエイジング」を取り上げる。


「ポジティブエイジング」という概念

メタボロームとは動物や植物、食品などに含まれる分子化合物の総体のこと。

「ポジティブエイジング」。この言葉は、木村氏を中心に提言している新しいエイジングケアの概念であり、それを象徴する造語であるという。

加齢(エイジング)は誰にも止めることができないし、誰にも平等に訪れる。

それに抗うのがアンチエイジングの概念だが、そうではなく、この加齢を止められないという事実を受け入れる。

そして、「老化」の速度をポジティブにコントロールするというのが、アクティブエイジングである、と木村氏はいう。

自分に合った養生で健康寿命を伸ばす

漢方の世界では2000年以上前から男性は8年、女性は7年ごとに体に大きな節目が訪れると考えられている。

男性は32歳、女性は28歳で体の機能がピークに到達し、そのあとは緩やかに下降し、それは止めることはできないとされている。

しかし日頃の「養生」で下降の速度を遅くすることも、程度を軽くすることもできる、と木村氏。

漢方の知恵を生かし、自分にあった養生を見つければ、アクティブエイジングと同時に、健康寿命そのものも延ばすことができるという。

生薬の約90%は植物由来

そもそも漢方薬とはどのようなものなのか。

中国では動物性の原材料も使用されているが、日本で用いられている生薬の約90%は植物由来である。

例えば胃腸の弱い人の風邪の初期に用いられる「桂枝湯(けいしとう)」はシナモンとしても知られる「桂枝」、芍薬、生姜、大棗(ナツメ)、甘草の5つの生薬で構成されている。

これらの5つの成分は単独で効果を発揮するのではなく、調合されることで相乗効果が生まれ、生姜は桂枝の効果を、大棗は芍薬の効果を補佐し、さらに甘草が全体の調和を図る役割を果たしている。

また漢方の古典には、風邪をひいた際は、「桂枝湯を服用し、少量のお粥をとり、布団をかけて少し汗をかかせ、冷たいもの、辛いもの、お酒、肉などを控える」と食事と養生のポイントが記されている。

この養生と有効成分が濃縮されている生薬、そしてこれらの相乗効果で予想できない効能が期待できるのが漢方の魅力だ、と木村氏。

心身全体の調和を図る

もちろん漢方にも副作用はあり、成分が濃縮されている分、副作用も起こり得る。特に西洋薬の併用とは考慮が必要で、また自分の体質との調和も何よりも大事だと話す。

また漢方では症状だけでなく全体を診る。例えば頭痛がある場合、頭痛を鎮める生薬だけでなく、それがストレス由来であればストレスを緩和させる生薬も処方し、「心身一如」の考え方を実践する。

心身全体の調和を図られなければ、問題は十分には解決しないという考え方だ。

未病というグレーゾーンに対処

また、漢方を知るにあたり「未病」の概念も知っておく必要があるという。

「未病」とは健康と病気の間の「グレーゾーン」であり、未病を治療することが最大の予防医学になるという考え方だ。このグレーゾーンの対処に漢方をどう用いれば良いか。

薬物学の祖として知られる「神農本草経」において、掲載されている365種類の生薬は、上薬120種類、中薬120種類、下薬125種類に分類されているという。

上薬とは無毒で長期間服用が可能なもの、これが「不老長寿の紅葉を持つ生薬」として知られ、具体的には人参や甘草があげられている。

中薬は「体質改善」を目的としていて、体質を変えることで発病を抑える葛根や麻黄などがあげられている。

そして下薬は効力が強い反面、副作用が生じやすいため、長期間の服用には適していない場合もあるとされる大王や附子があるという。

つまりグレーゾーンの未病を健康方向に近づけるためには、中薬・上薬の漢方で、自分の体質に合ったものを正しい飲み方で摂取する必要があると木村氏。

後天的な「気」、消化器で作られる

一般的に漢方医学では「気」「血」「水」が身体の中を滞りなく巡っている状態を「健康」と捉えている。

中でも「気」は、これがなければ「血」も「水」も動かすことができない最も重要なものと考えているという。

しかもこの「気」は加齢とともに減少すると考えられており、それによって老化現象が現れるという。

「気」は親から受け継いだ先天的なものと、日々の食事などから作られる後天的なものがあるという。

先天的なものはある程度総量が決まっているが、後天的な「気」は消化器によって作られ、毎日の食事と養生で蓄えられるため、これを蓄える努力が必要であると木村氏はいう。

つまり適切な食事、そして運動と睡眠のバランスである。気の働きを高めるには「食事・運動・睡眠」だけでなく感情のコントロールも重要で、感情を整えることが気を整えることにつながるという。

健康寿命を延ばすためにも漢方では「気」を高めることが重要だと考えており、また気を保つにあたっても自分に合った「中庸」を保つことが大切だ、と木村氏。

自分に合った漢方と養生を取り入れながら後天的な気を蓄え、健康寿命を実現して欲しいとまとめた。


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