トマトに含まれるトマチジンに筋萎縮抑制効果〜内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 公開シンポジウム

2017年11月30日(木)、有楽町朝日ホールにて「内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 公開シンポジウム」が開催された。この中から、三浦 進司氏(静岡県立大学食品栄養科学部 教授)の講演「トマトに含まれるトマチジンの筋萎縮抑制効果」を取り上げる。


トマチジンが筋力や持久力を向上

超高齢社会の健康問題で、骨格筋機能の低下に伴う「ロコモティブシンドローム」「サルコペニア」「フレイル」といった症状に注目が集まっている。

同時に、骨格筋機能を向上させる食品素材やトクホ商品、機能性表示食品へのニーズが高まっている。

中でも、イソフラボン系の成分やブラックジンンジャー、アミノ酸ではロイシンなどが筋肉強化に有効とされている。

こうした一方で、例えばロイシンは高齢者にはあまり効果が見られないのではないかといった報告もある。

コネクティブマップというデータベースを利用して、何か骨格筋を向上させる成分がないかを幅広くスクリーニングした。

その結果、未成熟の青いトマトに含まれる「トマチジン」に筋力や持久力を向上させる働きがあることが分かったと三浦氏。

トマト生産で、50%が廃棄処理

これまでの研究で、トマチジンの筋萎縮抑制作用が報告されており、加齢に伴う筋肉の合成と分解のバランスの崩れが抑制できる可能性が推測されている。

ちなみに、日本のトマト生産で、全体の50%が廃棄処理されている。うち30%は葉で、残りの20%が青トマト。

こうした破棄されるものにどれくらいのトマチジンが含まれているか試算すると、565トンのトマチジンが抽出できる計算になると三浦氏。

しかし、このトマチジンについては未利用資源中では配糖体の「トマチン」として存在しているため、トマチンの有効性や安全性の検討が必要となる。

また、トマトからトマチジン含有エキスを抽出するための方法や効果の検討も行わなければならない。

そこで三浦氏らはトマチン、トマチジン、トマト未使用資源由来トマチジン含有エキスの3種類の有効性について比較検討した。

トマチンやトマチジン、筋たんぱく質合成促進作用

ヒトの場合、2週間の寝たきりは7年分の骨格筋が失われることに相当するといわれている。

マウスを24時間絶食させることで似たような状態にし、そのモデルマウスらにトマチン、トマチジン、トマチジン含有エキスをそれぞれ経口投与。

「筋肉中のそれぞれの濃度」「筋たんぱく質合成速度」「血中3-メチルヒスチジン濃度」「筋繊維横断面積」を比較した。

その結果、トマチンとトマチジンには筋たんぱく質合成促進と筋たんぱく質分解抑制作用が示され、絶食することで減少するはずの筋繊維の減少が抑制されることが確認できたという。

トマチン、高容量投与で致死毒性

しかしながら、トマチンの高容量投与では致死毒性が観察され、トマチンがジャガイモの芽のソラニンと似た構造を持ち、同様の毒性を持つこともわかったという。

安全性を考慮するとトマチジンの方が適していることになる。しかし、未使用トマトから抽出したトマチジンエキスに精製したトマチジンと同様の作用があるかを調べたところ、トマチジンとほぼ同レベルで筋萎縮抑制作用が見られた。

まだマウス試験レベルのため、今後は不活動モデルマウスや、加齢モデルマウスなどいろいろなマウスでの試験を重ね、ヒト試験へ進む必要があるよいう。

トマトにもいろいろな種類がある。そのため、どのトマトからいつ頃採れるトマチジン抽出物が良いのか、原料をどう確保するのか、など課題はたくさんある。

しかし、従来にはなかった植物性由来の筋萎縮抑制素材として打ち出すことができれば、トマチジンには国内だけでも140億円以上のマーケットが見込まれると三浦氏。今後の研究と商品化などのへの期待が高まる、とした。


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