食品における乳酸菌の利用の現状
〜東京工科大学先端食品セミナー


2018年8月21日(火)、東京工科大学 蒲田キャンパスにて第5回「東京工科大学先端食品セミナー」が開催された。この中から、木元 広美氏(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構畜産研究部門)の講演「機能性乳酸菌ライブラリーの紹介〜機能性乳酸菌の活用」を取りあげる。


2400を超える乳酸菌をゲノム解析

国の研究機関である農研機構では、1950年代から乳加工用に有用な乳酸菌の菌株の探索を開始している。

乳製品、漬物、サイレージなどから2000種類以上の菌株を収集、現在は2400種を超えており、それをライブラリー化し、今もその数を増やし続けているという。

乳酸菌にはそれぞれに特性や機能性が認められるが、これは「菌株」に由来する。

今では菌株のゲノム解析を行うことで、豊富な乳酸菌から有用な乳酸菌をよりスピーディーに選抜する方法も確立している。

これにより2400を超える乳酸菌が約44のグループに分類され、安全性の高いものとそうでないもの、胆汁酸耐性(酸に強い)の高いものとそうでないもの、ヒト由来でなくても腸に付着するものとそうでないもの、といった分類がより簡単にできるようになっているという。

「ラクトコッカス属」に属する乳酸菌株が注目

食品メーカーにおいては、優れた機能性と特徴を持ち合わせた乳酸菌を見つけ出し、それを商品化したいと考えるはず。が、安全性と新規性があるものであれば「ラクトコッカス属」に属する乳酸菌株から見つけやすいのではないか、と木元氏。

ラクトコッカス属の乳酸菌は胆汁酸耐性が高いものが多く、生きて腸に達しやすいだけでなく、加熱処理したものでも消化管組織への付着性が高いという特徴がある。

生菌でなくても優れた生理活性を示すものが多いからで、中でも農研で注目しているものがラクトコッカス属に属するH61株という乳酸菌であるという。

H61株、骨密度の減少を抑える

高齢化社会を迎え、食品で老化予防というニーズは高い。また、もともとヨーグルトは「不老長寿説」が発表されるなど、乳酸菌=老化予防の親和性が高い。

老化予防についてはマウスの研究はあるものの、人での研究はこれまでほとんどされてきていないという。

しかし、H61株という乳酸菌に高い抗炎症作用が認められたことから、老化抑制効果もあるのではないか、と幾つかの試験を行った。

H61株は半世紀前にチーズ製造用たね菌より分離された乳酸菌で、ミルクでの生育が良く、免疫賦活作用を持ち、胆汁酸耐性が弱いという特徴を持つ。

老化促進マウスを2つのグループに分け、一つは飼料のみの自由摂取、もう一つはH61株(死菌)を飼料に0.05%混ぜたものを自由摂取させ、5ヶ月間飼育した。

その結果、H61株を食べているマウスの骨密度の低下が著しく抑制され、H61株に骨密度の減少を抑える効果が見られたという。

肌の水分量など老化を抑制

他にも、H61株の摂取で「毛艶」「脱毛」「海洋」「目の周りの腫れ」などにおける老化スコアが低下し、見た目の老化抑制効果も見られたという。

面白い点として、骨量が増える成長期のマウスに投与しても、骨密度への影響はほとんど見られず、骨密度が減少する老齢期に摂取した方が効果的であったという。

これらの試験結果を用いてヒト試験も行った。ヒトにおける老化の指標を決定することは難しいため、「肌の水分量」で測定した。

2010年2月、4週間、20〜60代の女性33名に対を2グループに分け、プラセボ群とH61株に分けて試験期間中毎日摂取してもらった。

その結果、50〜60代の女性においてはH61株を摂取していたグループは肌の水分量を有意に維持することができたという。

「脱毛・骨密度・加齢性難聴」など老化現象を抑制

さらにこれを製品化したヨーグルトでも同様の試験を行った。その結果、H61株の入ったヨーグルトを摂取した人は、肌のハリ・キメ・くすみに対し、有意に改善したことを報告したという。

つまり、「実感できる」というのがこのH61株の優れた点で、商品にするとリピートにつながりやすい。

またH61株には「加齢性難聴」の予防効果の研究報告もあり、まさに「アンチエイジング」に最適な菌株の一つといえるのではないか、という。

まとめとして、乳酸菌H61株は製品化されたものはまだ多くはないが「脱毛・骨密度・加齢性難聴」といった老化現象を抑制する作用がマウスで報告されている。また、ヒト試験でも「肌の水分量の維持増加」が報告されている。

さらに生菌・死菌にかかわらずいずれの効果が確認されており、老化が始まってからの摂取の方が効果を体感できる、「間に合う」乳酸菌であるというのをPRポイントにできるという。

農研ではH61株以外にも乳酸菌ライブラリを活用してもらうことで、産官学が連携し、新たな機能性の解明や商品開発などにつながることを期待しているとした。


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