口腔からのアンチエイジング〜第9回慶應義塾生命科学シンポジウム

2018年12月12日(水)、慶應義塾大学三田キャンパスにて「第9回慶應義塾生命科学シンポジウム 食と医科学フォーラム」が開催された。この中から、斎藤 一郎氏(鶴見大学 歯学部病理学講座教授)の講演「口腔からのアンチエイジング」を取り上げる。


口腔機能の多くが全身の機能と一致

今や人生100年時代といわれるが、私たちが最後まで健康に維持したい機能は「口」なのではないか、と斎藤氏はいう。

「口腔機能」といえば「食べる」ばかり注目されるが、口は「食べる」以外に「味わう」「噛み砕く」「消化する」「笑う」「話す」「表情を作る」「歌う」といった機能も兼ね備えており、消化器や感覚器としての働きの多くを担っている。

近年では口腔環境と免疫機能の関係にも注目が集まっており、口の中のアンチエイジングを行うことが全身のアンチエイジングや疾病予防につながることが解明されてきている。

さらに口腔機能の多くが、全身の機能と一致することが多い。例えば咀嚼力は全身の筋量と相関関係にあり、咀嚼力が低下すると筋量も低下傾向になり、ロコモやサルコペニア、骨粗鬆症の発見や予防にも役立つ。

唾液量は加齢とともに低下するとされているが、心身が健康であれば、そう簡単に唾液量は低下しない、と斎藤氏。

しかも、唾液量は全身のホルモン量と相関関係にあり、唾液の分泌が十分であればホルモン量も適正であるといえる。ちなみに1日に分泌されるヒトの唾液量は1〜1.5リットルだという。

オーラルケア市場は右肩上がり

咀嚼力や唾液力を担うのは健康な「歯」であるが、虫歯や歯周病で歯を喪失してしまうと、口腔環境は悪化し、身体機能だけでなく記憶力まで低下させることもわかっている。

特に歯周病は独立した疾患ではなく、全身に影響を与える疾患であり、糖尿病・肺炎などの呼吸器感染・心血管障害・妊娠異常・骨粗鬆症の原因になることもわかってきている。

超高齢社会では口腔ケアが必須で、実際、富士経済の調査によればオーラルケア市場は右肩上がりで成長している。

口腔環境を整える鍵となるのが「歯」であるが、実は「唾液」も同様に重要な存在で、唾液の分泌は自律神経の支配を受けているため、ストレス度の高い人であれば年齢に関係なく分泌量が低下傾向になる。

例えば、若い人の方が口角炎や口唇炎、なかなか治らない唇の乾きなどが起こりやすくなっている。

しかし、こうした症状に悩む患者の唾液分泌量は大概低下傾向にあり、唾液が低下することによって口の中の常在菌の一つである「カンジダ菌」が過剰になることでこれらの症状が起こっていることがほとんどである。

口腔内細菌、腸内細菌叢に影響

唾液は常在菌のコントロールをする抗菌作用だけでなく、粘膜保護作用もあり、さらに唾液の中には成長因子や消化酵素も含まれているため、若い人であってもドライマウスにならないように注意する必要がある。

ちなみにドライマウスの原因は、年齢を重ねるとストレスだけでなく、糖尿病、腎不全、更年期、筋力の低下、薬の副作用の場合もあるので、それらを見逃さないためのサインとしても活用して欲しいという。

いずれにせよ、超高齢社会では口腔ケアが必須である。具体的には丈夫な歯の維持、咀嚼力の維持、そして唾液の分泌を促すためのケアである。

免疫研究では、他人の便を移植して病気が治すという「糞便移植治療」が話題となっているが、最近、口腔内の細菌叢の状態こそが、腸内の細菌叢に影響を与えているのではないか、と考えられるようになっているという。

中でも、昨年発表された「潰瘍性大腸炎を誘発し悪化させているのは口腔内細菌である」という論文は非常にインパクトがあった。

これまで腸内細菌は食べ物(乳酸菌や発酵食品)に支配されている部分が多いと考えられてきたが、その前段階で口腔内細菌に支配されていることが少しずつ解明されてきているという。

オーラルフローラの適正化が重要

おそらくこれからは「腸内フローラ」だけでなく「オーラルフローラ」という概念も知られるようになり、オーラルフローラの適正化が重要とされる時代になるだろう、と斎藤氏。

口唇炎や口角炎などの原因になる「カンジダ菌」も、ある種の乳酸菌を摂取してオーラルフローラを適正化することで菌の増殖が抑制されるといった試験結果も確認されているという。

どんな人が長生きするかといえば、「幸せな人」であるが、幸せは口元から作られるといっても過言ではない。楽しいから笑うのではなく、笑っているから楽しいというのが脳科学の考え方である。

口の扱い方で脳や感情までコントロールできる。アンチエイジングは口から始めるのが良いのではないか、と斎藤氏はまとめた。


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