ビフィズス菌の腸内での機構を解析〜バイオインダストリー奨励賞 受賞者企画セミナー

2019年4月5日(金)、TKP東京駅八重洲カンファレンスセンターにて「バイオインダストリー奨励賞 受賞者企画セミナー もう一つの臓器、腸内細菌叢の機能に迫る」が開催された。この中から、西山 啓太氏(慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室 講師)の講演「ビフィズス菌の宿主腸内に置ける共生機構」を取り上げる。


ビフィズス菌、ムチンと相互作用

ビフィズス菌はヒトの腸内において優勢な細菌である。ヒトの場合、生まれた直後からある年齢に達するまでビフィズス菌は増えていくが(乳幼児では細菌叢の90%を占める)、加齢とともに減少しはじめる。

それでもビフィズス菌が無くなることはなく、宿主に定着し続けようとする。このビフィズス菌が生息している消化管の下部である(マウスの)大腸を輪切りにして調べてみると、腸管上皮の上には分厚く腸内細菌叢が存在していることが確認できる。

さらに、この腸管上皮と腸内細菌叢の間には薄い膜のようにムチンが存在していることも分かってきた。

消化管下部は上皮・ムチンを主成分とした粘液層・そして腸内細菌叢の3層に分かれている(さらにその内側には上官で消化吸収されなかった食物繊維などがある)。

こうしたことから、ビフィズス菌にとってムチンと相互作用を保つことが、腸内で自身の定着を有利にする重要な生存戦略になっているのではないか、と西山氏は解説する。

ビフィズス菌は線毛、ムチン層を介して腸内に定着

ビフィズス菌とムチンの相互作用を解明するにあたり、西山氏らが注目したのが菌体表層タンパク質。

例えば、そのうちの「シアリターゼ」は糖質分解酵素としての役割だけでなく、ムチンへの接着因子としての役割も果たしているのではないかと仮説を立てた。

実際に、ヒトの腸内細菌叢と同様の環境でビフィズス菌を培養すると、腸内細菌叢のそれぞれの菌が出す代謝物をビフィズス菌が感知して線毛を伸ばし、その線毛が集まることで巨大なファイバーとなる様子が確認できた。

この研究から、何らかのマイクロビオータ(微生物)が作り出した代謝物質によってビフィズス菌が線毛を伸ばすことが確認できた。

現在、特許の関係で名前は公表できないが、アミノ酸の一種の物質であるAAAが、おそらくビフィズス菌の線毛を誘導する因子であることが見い出された、と西山氏。

ちなみにこのAAAは腸内細菌の中でもクロストリジウムという菌叢によって作られており、この菌叢がなければビフィズス菌の線毛もほとんど作られないことも解明された。

いずれにせよ、ビフィズス菌は線毛を介してムチン層を介して腸内に定着するが、それは他の細菌やその代謝物と共生することによって成り立っていることが明らかとなった、と西山氏。

ビフィズス菌の腸内への付着・定着の機構を解析

またビフィズス菌の菌体表層にあるシアリターゼは、これまで糖質源の少ない大腸で優先的に栄養を獲得する役割を果たす酵素だと考えられてきた。

しかし、シアリターゼには栄養獲得の機能に加え、腸管への接着因子の役割もある。

ビフィズス菌の中にはシアリターゼを持つものと、持たないけれどその代謝物を利用できるものなど、いくつかのパターンがある。

シアリターゼを持つものだけが、ムチンに結合することも分かり、腸管内での定着、つまりビフィズス菌の生存戦略にはシアリターゼも不可欠である。

ビフィズス菌の腸内への付着・定着の機構を解析することは学術研究的には遅れているが、これを明らかにすることで腸内環境における各菌の生存戦略の解明や、プロバイオティクスの応用などに役立つと西山氏はまとめた。


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