東京オリンピックで使用される食素材とは
〜第22回ファベックス展セミナー


2019年4月17日〜19日、東京ビッグサイトにて「第22回 ファベックス展」が開催された。同展示会セミナーより、勝野美江氏(内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局 総括参事官)の講演「2020年に向けた日本の食文化発信について」を取り上げる。


アスリートたちに栄養面の配慮

いよいよ一年後に迫った東京オリンピック・パラリンピック。

オリンピック・パラリンピックにおける飲食提供の準備について、組織委員会を中心にどのように進められているか。東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局 総括参事官 勝野美江氏が現状の概要について述べた。

あまり知られていないことだが、オリンピックという特別な舞台で提供する食事にはいくつかのルール規則があるという。

もちろん、提供する食事だけでなく食材についてもIOCやこれまでの大会の事例に沿って定められたルールがある。

例えば、アスリートという特殊な人たちに対する栄養面での配慮。

提供する食品の成分を開催国語だけでなく英語やフランス語で表示する、開催国の伝統的な料理だけでなく、西欧料理、アジア料理、アフリカ料理等世界各国のメニューを提供、様々な宗教や食習慣(イスラム教のハラール、ユダヤ教のコーシャ、ビーガンなど)への対応など。

こうしたことが、これまでの大会でも行われており、当然、東京大会でもそうしたことが遵守されることになる。

しかも東京大会は過去のオリンピック大会と比較しても、最も湿度が高く気温が高い時期に開催される。そのため、食中毒対策は特に厳重に行わなければならない。

オーガニック、GAP認証取得の農産物を優先

提供する食材の調達には一定のルールがある。例えば、農作物であれば「1、食品の安全が確保されている」「2、周辺環境や生態系と調和のとれた農業生産活動が確保されている」「3、作業者の労働安全が確保されている」といったこと。

こうした要件を満たすには、農業生産工程管理認証(GAP認証)を取得した農産物であることが前提となる。

さらにオーガニック栽培された農作物、障害者が主体的に携わって生産された農作物、日本農業遺産などによって認定された伝統的な農業で生産された国産の農作物が優先的に調達されるという流れになっている。

畜産物であれば、農産物と同様にGAP認証が取得されたものであること、アニマルウェルフェア(誕生から死を迎えるまで、極力ストレスのない環境下で飼育された畜産物)の考え方に対応した環境で生産された畜産物であることが求められる。

その上で有機畜産、農場HACCPで生産された畜産物、放牧畜産実践農場で生産された畜産物、障害者が主体的に関わって生産された畜産物などでの調達が推奨される。

また、水産物も同様にMEL、MSC、AEL、ASCといった組織委員会が認める認証を取得したものであることなどが求められる。

これらの調達基準をクリアした食材がオリンピック期間中、どのように提供されるのが望ましいかをテストするため、関係省庁の食堂では認証食材を活用したメニュー提供の試験を定期的に行い、各都道府県庁でもテストメニューの提供や試食会を行っている。

スポンサー企業もGAP食材を提供

また、GAP認証の認知を高めるために、オリンピックのスポンサー企業もGAP食材を社食で提供している。ANAではファーストクラスの食事で提供、JALでも一部のビジネスクラスでGAP食材の提供を試みているという。

もちろん農水省もGAP取得のサポートや支援活動を行なっている。我々消費者もGAP認証の食材を意識して選べるようになることが望ましく、イオンやコストコなどの大手スーパーではGAP認証と同等のグローバルGAPを意味するラベル「GGN」がついた商品の取り扱いがはじまっているという。

その他、オリンピックの飲食提供にも「基本戦略」というものが準備されている。

「参加選手が良好なコンディションを維持でき、競技で自己ベストを発揮できる飲食提供を実現すること」「食品衛生、栄養、持続可能などの配慮事項を網羅した飲食提供に努めることで、生産や流通も含めた飲食サービスの向上を図ること」「食の多様性に配慮するだけでなく日本の食のおもてなしを追求すること」「復興支援になるような飲食提供を実践すること」などが概要として掲げられている。

日本の食の素晴しさを伝える最大のチャンス

またメインダイニングは24時間稼働し、4500席の座数に対し、一日最大45,000食を提供することを想定している。

選手村にはメインダイニングの他に3つの飲食提供エリアを設置予定で、4つのエリアで合計59.000食/日を提供する試算をしている。

この4月には選手村メニューアドバイザリー委員会が立ち上がり、今年の11月には提供するメニューをIOCに提出して許可を得る予定だという。

また、すでに各自治体の中には「ホストタウン」として大会前後に外国人選手と交流する試みも始まっている。

大会前に事前合宿を行うホストタウンはやはり可能な限り「選手村」に近い食事の提供をすることが求められているという。

オリンピック・パラリンピックを成功に導くために、「食」に求められている部分は大きい。

選手だけでなく、選手団、スタッフ、観客、各国メディア、スポンサードゲストなど、大会に関わるすべての人に、日本の食の素晴しさを伝える最大のチャンスとなる。今後もオールジャパンでプロジェクトを推進し、成功に導きたいと抱負を語った。


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