多機能性食品の開発と健康酢
〜第6回日本黒酢研究会


2019年6月21日(金)、日比谷コンペティションホールにて「第6回日本黒酢研究会」が開催された。この中から、山田 耕路氏(精華女子短期大学 学長)の講演「多機能性食品の開発と健康酢」を取り上げる。


各世代に応じた栄養補助食品が必要

日本人の食生活は欧米人、特に米国人と比較して優れているとされる。しかし、生活習慣病の罹患者は増加しており、死因の半分程度が食生活に由来している。これを鑑みると、個人レベルで大きな問題があるのではないか、と山田氏は指摘する。

各栄養素の摂取目安量を示す「食事摂取基準」と照らし合わせても、平均値より過剰摂取、あるいは過少摂取している栄養素はそれほど多くない。平均すると日本人の食生活は問題なし、ということになる。

そう考えると、食事摂取基準は一定の役割を果たしているものの、今必要なものは個々人で何が足りず、何が過剰かを厳密にチェックできるような新たな手法ではないか。

そして、その上で、高齢者・中高年・若年層、あるいは幼少期と各世代に応じた栄養補助食品が必要で、それぞれのニーズに合わせた栄養補助食品の開発が求められている、と山田氏。

疾病予防の多機能性因子

例えば、幼少期であれば成長を促すことをサポートする一方で、食べる楽しみを促す物、添加物としてはカルシウムを流出してしまうリンを過剰摂取しないような工夫がされた物である。

高齢者であれば、肉を中心としたタンパク質の摂取が減少するため、それをサポートし、かつ嚥下もスムーズにできる食感を追求した物などが考えられる、と山田氏。

食品中には複数の体調調整機能因子が存在している。これを多機能性因子と呼ぶが、代表的な多機能性因子として「食物繊維」「多価不飽和脂肪酸」「抗酸化成分」などがある。

成分ごとに疾病予防作用があるが、これらの機能性因子を組み合わせることによって相乗効果が期待できる場合があり、この食品科学分野の研究はここ数年で凄まじく進化している。

多機能性食品を各世代に応じて開発

多機能性因子を複数組み合わせて使用することのメリットは、相乗効果が期待できるだけでなく、各機能性因子の使用量を削減できるケースがある。

いずれにせよ、この多機能性因子を調整した多機能性食品をそれぞれの世代に応じて開発していくことは今後ますます求められる、と山田氏。

多機能性因子のうち食物繊維と多価不飽和脂肪酸については、すでにほとんどの成分の機能が明らかにされており、未知の生理活性成分が発見される可能性は低い。

一方、抗酸化成分は抗酸化活性を有する多様な成分を含んでおり、未知の生理活性成分が発見される可能性はまだまだ十分にある。

原料由来の生理活性成分

食品中に含まれる「新規」の抗酸化成分の探索を、各専門家が懸命に取り組んでいる。抗酸化活性を有する機能性素材の一つに「健康酢」があり、市場でも活況を呈している。

食酢は主に精製した穀物を原料として生産され、その主成分は酢酸である。酢酸(食酢)には殺菌作用があることが古くから知られ、人々の食生活で主に調味料として利用されてきた。

近年は種々の原料を用いて健康酢が調製されるようになり、非精製の穀物を原料として製造された健康酢には、ぬか由来の生理活性物質が含まれている。

また、果実などの非穀物を原料として製造された健康酢にはその原料由来の生理活性成分が含まれるなど、それぞれ個性を持っている。

特に、果実や野菜から作られる場合、多様な抗酸化成分が含まれ、それらは複数の体調調製機能を有する多機能性因子であるため、未知の成分が含まれていることが考えられる。

さらにこれらの抗酸化成分は「ポリフェノール」と「非ポリフェノール」に大別されるが、特に「非ポリフェノール性」の抗酸化成分に関する情報やメカニズム研究は十分ではない。

抗酸化成分の分析

食品中のポリフェノール成分を除去するのにポリビニルポリピロリドン(PVPP)が汎用されている。これを用いることで、健康酢の中のポリフェノール成分を吸着除去することができる。

吸着した抗酸化成分を酢酸を用いて活性を維持したまま回収することができるため、この手法によって抗酸化成分の分析を行なっている。

また、抗酸化活性を直接測定するOn-lineアッセイ法というものがある。これにより新規抗酸化成分の分離分析も行える。

この結果、食品中の抗酸化成分は、PVPPに吸着するもの、吸着しないもの、酢酸で溶離できるものとできないもの、と大別できることもわかった。

例えばブルーベリー酢の中の抗酸化成分の約80%はPVPP吸着性のポリフェノール化合物であり、その大部分は活性を維持したまま酢酸の溶解する特徴がある。

また、ニンニクエキ酢中の抗酸化成分の約90%はPVPP非吸着性の非ポリフェノール化合物であり、抗酸化成分の分析にはさらなる検討が必要であることが明らかになっている。

美味しく食べやすいものに

他にも、緑茶中の抗酸化成分の約90%はPVPP吸着性のポリフェノール(カテキン類)であること。しかし紅茶の抗酸化成分の約45%はPVPP非結合性であることなどもわかった。

多機能性食品といっても、美味しく食べやすいものでなければならない。抗酸化成分の場合、過剰に摂取すると酸化毒性を発現する可能性もあるので、過剰摂取も控えなければならない。

多機能性食品の開発には新規成分を探索することも必要である。しかし、精製度を抑えることで多機能性因子の共存や相乗効果の発現を可能にすることのほうが多い。

機能性表示食品の場合、機能性関与成分が定量化できなければならない。しかし、健康酢や紅茶のように「成分や作用機序を同定できなくても美味しく効果もある」といった多機機能性食品にスポットを当てることも健康食品開発のひとつの可能性ではないか、とまとめた。


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