幼少期における腸内フローラ
〜第28回腸内フローラシンポジウム


2019年11月1日(金)、ヤクルトホールにて「第28回腸内フローラシンポジウム」が開催された。この中から、Christopher J Stewart博士(英国ニューキャッスル大学 細胞医学研究所)の講演「幼少期における腸内フローラ」を取り上げる。


ヒトは無数の細菌と共生

Christopher氏は32週未満の早産の乳児を対象とした若齢期の健康と病態における微生物叢の関係を10年以上研究している。

現在、英国のニューキャッスル大学で腸内微生物と宿主の相互作用の研究を行う研究室を立ち上げている。

腸内細菌を主にヒトは無数の細菌と共生しているが、その細菌数は我々の肉体を構成する細胞数よりも多い。

これらの細菌は生涯にわたり、食事の分解や免疫系の発達、病原体に対する抵抗など、ヒトの健康をサポートしている。

私たちが生涯、健全な細菌叢を維持するために最も大切なファーストピリオドは「幼少期」にあるのではないか、とクリストファー氏。

出生後、微生物が急速に定着

満期産(妊娠37週以上)で生まれた一般的な赤ちゃんの腸内には、微生物が急速に定着していく。

それまで無菌状態で母体の中で育まれていた個体には当然腸内細菌などは存在していない。

しかし、出産の過程(特に経膣分娩)、呼吸、母乳の摂取などにより、無菌だった赤ちゃんの腸内にはダイナミックに微生物が共生しはじめ、それがいわゆる「腸内フローラ」として多様性を拡大しながら発達していく。

しかし極端な早産で生まれた赤ちゃんの腸は非常に未熟で、生まれた時の免疫系も満期出産の赤ちゃんよりも未成熟になる。

腸と免疫の健全な成長を促すために特定の細菌種などの摂取を促すなどの方法も検討しなければならない。

満期で出産することが大切

現在はある程度、早産や未熟児の赤ちゃんに対し、細菌叢の発達を促すための治療やコントロール方法が確立されている。

とはいえ、健全な腸内細菌叢を獲得するには、出来るだけ満期で出産することが大切、とクリストファー氏。

満期産で生まれた子供の方が1型糖尿病のリスクやさまざまな免疫疾患のリスクが低減することも近年の調査で報告されている。

さらに、満期で生まれた後も、どのくらいの期間母乳で育ったかということが、その後の腸内細菌叢の発達に大きな影響を与えることがわかっている。

実際、産後1年間母乳で育った赤ちゃんほど腸内細菌叢がダイナミックに拡大していくことなども1万人規模の赤ちゃんの研究からもわかっている。

母乳の投与が短いと、アレルギーや肥満リスク高まる

クリストファー氏らのグループは最先端の共培養技術を開発している。

人間の腸管細胞から作成した腸管様組織を用いて生理学的に適切な条件下で、微生物と母乳、あるいは人工ミルクの成分が腸管バクテリアの機能をどの様に調節するかを探索する研究を行っている。

この研究で、出生から1年は母乳の投与量が多いほど赤ちゃんの腸内のビフィダス菌は上昇し、出生後1年経った後もそれぞれの微生物や細菌がダイナミックに変化していく。

しかし、母乳の投与が短いとビフィダス菌が低下する速度が上がり、出生後1年後以降にアレルギーや肥満などのリスクが高くなることが示唆されている。

また、日本では1〜2%程度の発症率だが、イギリスや米国では早期産の赤ちゃんの10%に「新生児壊死性腸炎(NEC)」が生じる。

原因は解明されていないが、早期産や未熟児の多くは腸管が未熟なため、腸に穴が開いたり壊死が起きたりする。

日本は新生児壊死性腸炎の発症率が低い

なぜ日本では新生児壊死性腸炎の発症率が低く、欧米の方が高いのかについてはまだわかっていない。

日本では妊娠期に母体が魚由来のDHA を欧米人よりも多く摂取していることが関係しているのではないか、といった説もあるが、はっきりした因果関係は証明されていない。

仮説として、経膣出産と帝王切開による分娩の差、また早期産の場合ほとんどの赤ちゃんが産後48時間以内に抗生物質を摂取することなども関係しているのかもしれない、とクリストファー氏。

腸内細菌と母乳や人工ミルクとの相互作用

いずれにせよ、乳幼児期に健全な腸内フローラを育むことは、生涯の健康度合いを左右する大事なことである。

妊娠期間中の母親の食生活・出産のタイミング・出産方法・産後の母乳投与期間・出生後の抗生物質の使用状況、生活環境などすべてが密接に関係してくる。

しかし、特に早産や未熟児で生まれた赤ちゃんのサポートとして、特定の腸内細菌と母乳または人工ミルクの相互作用について理解することは、早産や未熟児特有の疾病や疾病リスクを低減させるために有効である。

そうしたことが新たな診断や治療につながる、とクリストファー氏はまとめた。


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