EPAがアスリートに及ぼす効果
〜ニッスイ×Aub共同記者会見


2020年9月15日(火)、「ニッスイ×Aub 神野大地選手コンディション向上プロジェクト」オンライン共同記者会見が開催された。この中から、 杉田正明氏(日本陸連の科学委員会委員長)の講演「EPAがアスリートに及ぼす効果」を取り上げる。


EPA、スポーツパフォーマンス向上

ニッスイはもともとEPAがアスリートに与える効果を血中のEPA値の測定により研究していた。

一方、Aub社ではアスリートの腸内環境や腸内細菌叢を研究していたが、血中のEPAと腸内細菌の2つをモニターすると、トップアスリートのコンディショニングに役立つことから、ニッスイとの共同研究を行ったという。

2015年の箱根駅伝で一躍スターとなり、現在はプロランナーとして活躍する神野大地選手は、食事や腸内細菌、特にEPAに興味を持っていたことから、今回の共同プロジェクトとなった。

EPAは、イワシなどの青魚に多く含まれる成分で、医薬品やサプリメント、特定保険用食品、機能性表示食品などに利用されている。

EPAの効用については、心臓病リスク低下、血中中性脂肪低下、脳卒中リスク低下、脳機能改善、血圧低下、不整脈リスク低下、抗うつなどがよく知られる。

近年は、加齢黄斑変性やドライアイのリスク低下などにも注目が集まっている。また、スポーツニュートリションのニーズから、EPAのスポーツパフォーマンス向上の効果もよく知られるようになっている。

持久力向上や筋肉痛緩和作用

EPAについては、1994年のリルハンメルオリンピックでノルウェーの選手がEPAを摂取し活躍したことがニュースになった。これがきっかけとなり、順天堂大学の沢木特任教授らとニッスイとの共同研究がスタートし、順天堂大学は箱根駅伝で4連覇を成し挙げたといわれる。

EPAのスポーツへの効果は主に「持久力向上」や「筋肉痛緩和」、そして「リカバリー」。トップアスリートは激しいトレーニングが不可欠だが、トレーニング後や試合後のリカバリーは何よりも大事で、EPAを摂ると安全にトレーニングや試合に打ち込めるという。

また、晦ubの取締役・研究責任者である富士川氏から、調査研究経過の報告が行われた。

ニッスイによるアスリートの血中EPA濃度と、Aubによる腸内細菌叢の研究という2つの指標があることで、トップアスリートと一般競技者のコンディションの違い、さらに一般生活者との違いを見つけやすくなる。

EPAの血中濃度は一般の成人が0.27程度、一般アスリート(社会人駅伝チームなど)が0.3〜0.5、これに対し、試験期間中の神野選手は0.6〜0.8と高い値で変動していたことが確認された。

またAubが重視する腸内の酪酸産生菌は、一般アスリートでも一般生活者の2倍ほど多く保有していることが確認されている。神野選手の場合は、最大で一般アスリートの2倍、一般生活者の4倍保有していることが確認できたという。

ただ、神野選手の数値の日々の変動が何に起因するかはわかっていないため今後の研究課題だという。神野選手個人の数値変動要因を特定することができれば、ベストコンデイションを引き出すための条件が明らかになるのではないか、という。

神野選手は実業団時代、社会人1年目からEPAを摂取するようになった。中性脂肪の値が一般人より高かったため正常に戻すことが目的だったという。

EPAのサプリメント摂取から半年くらいで中性脂肪値は正常値になった。体感的には、大学4年間に5〜6回あった疲労骨折を社会人になってから一度もしていないことから、筋疲労の抑制と関係しているのかもしれないという。

また、神野選手はEPAの摂取と腸内細菌の関係について、腸の調子がいいとコンディションやパフォーマンスが良いのは間違いないので、引き続きコンディショニングにEPAを利用して行きたいと話した。

オメガ3系とオメガ6系のバランスが大切

第二部では、日本陸連の科学委員会委員長であり日本体育大学体育学部教授を務める杉田正明氏より「EPAがアスリートに及ぼす効果」についての解説が行われた。

杉田氏は高地トレーニングの専門家としてこれまでサッカー日本代表や競歩、マラソンなどの合宿にも参加している。

近年、トップアスリートに求められるのはどの競技においても「技術の高難度化」と「スピードの高速化」で、そのため日々のハードなトレーニングが欠かせない。

しかし、ハードなトレーニングを毎日安全に続けるためには「リカバリー」が何よりも重要になってくる、と杉田氏。

リカバリー方法には、睡眠・休息・栄養などがあるが、さまざまな技術を使い自分の体調を数値化・可視化することで、それぞれ適切なリカバリー方法が見えてくる。

アスリートの体質やトレーニング内容に応じたリカバリー方法を適切に取り入れることで、パフォーマンスの高難度化やスピードの高速化が実現する。

神野選手に限らず、マラソンの選手はトップになるほど中性脂肪の値が高い傾向がある。これはマラソン選手にとって中性脂肪が重要なエネルギー元となっているため。

特に脂質の中でもオメガ3系とオメガ6系はバランスよく摂取することが非常に重要である。

普通に生活していると無自覚のうちに多く摂取しがちなオメガ6系のアラキドン酸は必須脂肪酸だが、過剰になると炎症や動脈硬化を促進させてしまうためアスリートにとっても注意が必要だ、と杉田氏。

EPA、炎症を抑制・緩和し持久力を高める

一方、オメガ3系であるEPAは赤血球の膜を柔らかくする働きがある。そのため毛細血管にまで血液を届けやすくし、全身へ酸素を効率的に回す役割を担う。

EPAを8週間継続摂取した後に運動試験を行うとEPA摂取群は赤血球の膜内のEPA値が増加し、血管の炎症が減少する。また、アラキドン酸の値も減少し、さらに運動によって1分あたりに消費される酸素量も減少することが確認されている。

つまりEPAは炎症を抑制・緩和し、持久力を高める効果があるといえる、と杉田氏。

現在、スポーツの世界では「エルゴジェニックエイド」という考え方がある。

これは「スポーツにおけるパフォーマンス向上が期待される手段」のことで、食品や微量栄養素の摂取タイミングなども含まれる。

EPAも単なるサプリメントとしてではなくエルゴジェニックエイドを目的に、アスリートがより安全に効果的に競技を行うために不可欠なものとして注目・利用されている、とまとめた。


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