ケトン体、脂肪を燃やしエネルギーに
〜食の未来技術フェア2020


2020年11月25日(水)〜26日(木)、北とぴあにて「食の未来技術フェア2020」が開催された。この中から、 西沢邦浩氏(日経BP総合研究所 客員研究員 健康医療ジャーナリスト)の講演「脂肪を燃やしエネルギーに変える「ケトン体」とは」を取り上げる。


ケトン体、脂肪燃焼や活力増進作用

今「ケトン体」が注目されている。ケトン体とはアセトン、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸の総称である。

飢餓状態や糖尿病などによりエネルギー源として血糖が利用できなくなった時に、脂肪酸によって肝臓で産生され血中に放出される物質である。

ケトン体は体内で「糖」が枯渇した状態になると産生される物質で、脂肪を燃やす効果が期待できる。

「糖」が枯渇した状態とは、糖質制限をしたり、ファスティング(絶食)をしたり、ケトジェニック食と呼ばれる食事療法を実践した時、あるいは運動時などが該当する。

ケトン体が出ている状態とは脂肪が燃焼しやすい状態でもあり、これをダイエットに応用しようという考えが広まっている。

近年はケトン体の研究が盛んに行われ、脂肪燃焼作用だけでなく、「活力増進」「疲労回復」「代謝促進」「抗老化」「脳機能の維持・向上」「睡眠の質の向上」「持久力の向上」といった、さまざまな効果も報告されている。

米国では高脂質・低糖質ダイエットが流行

また最新の研究では、ケトン体がCOVID-19や季節性インフルエンザ、その他の呼吸器感染症に対する効果を持つ可能性があることを示唆する論文も出てきていている。

特に、米国ではケトン体を活用したダイエットが流行っており、「ケトジェニックダイエット」がセレブやモデルの間で有名である。

これは高脂質・低糖質の食事法で食事から糖をカットする糖質制限食と同等のもので、糖ではなく脂質がエネルギーに使われる回路を起動させることで減量を目指す。

糖質を徹底してカットする食事法(脂質75%、たんぱく質20%、炭水化物5%)であるため、インスリンの分泌も抑えられ、体脂肪の蓄積も抑えられる。

日本人にケトジェニックダイエットは向かない

しかし、これほどまでに糖質をカットしたケトジェニックダイエットはやはり日本人にとっては現実的とはいえない。

実際、日本でもいわゆる糖質制限ダイエットやロカボはダウントレンド傾向で、継続性の低さやリバウンドの問題が指摘されている、と西沢氏。

日本人の腸内環境の組成的にも脂質を増やす食事法はあまり向いているとはいえない。

糖質制限やロカボ、ケトジェニックを実施した人の中には「吐き気」「骨密度の低下」「腎障害」「悪玉コレステロールの増加」といった副作用も報告されている。

「食べ過ぎない」がケトン体値を上昇

そもそも日本とアメリカでは食に対する価値観も習慣も違い、日本人の多くは特に女性において「痩せ」が世界的な問題であり、肥満大国のアメリカとは状況が異なっている。

日本人は元来「一汁三菜」や「腹八分目」といった高い食の健康感を持った民族である。例えば日本に逆輸入された「マクロビオティック」も明治期に提唱された「玄米菜食」の考え方である。

「ファスティング」も1990年代前半に西勝造が確立した「西式健康法」の考え方であり、いずれの食事法もいわゆる「ゆる断食」や「腹八分目」と同等で、日常の食事を少しだけ調整し日頃から「食べ過ぎない」ことで「健康が維持できる」という考えに基づいている。

今、米国では「月に5日間だけ少食にする Fasting Mimicking Diet」といいう方法も話題だが、これも1ヶ月に5日間だけ連続して通常の1/3〜1/2カロリーにすることで、コレステロール値や炎症の値が優位に低下するというもので、ケトン体値の上昇も確認できる。

摂取カロリーの減少、ケトン体回路が活性

また1980年代に米国立老化研究所と米ウィスコンシン大学で行われたアカゲザルのカロリー制限の報告も、摂取カロリーを減らすことで見た目の老化が遅延し寿命が延長する可能性があることを示唆したもので、これもケトン体と関係している可能性が高い。

つまり、無理な糖質制限やロカボダイエットなどを行うのではなく、食を大切に思う日本人ならではの「腹八分目」や「一汁三菜」、「きちんとお腹が空いてから食べる」「週末断食」「プチ断食」「朝食断食」といった昔からある日本人の健康的とされる食事法をゆるく実践するだけでも、自然にケトン体回路が活性し健康長寿に貢献する可能性が十分に高いのではないか、と西沢氏。

もちろん、ケトン体の材料となることがわかっているMCTオイルなどを例えばドレッシングなどで無理なく取り入れるのも有効であろう。

適度な運動、食べ過ぎない食事でコロナ禍を乗り切る

しかし、コロナが収束しない現段階で無理なカロリー制限や糖質制限を行うことは免疫を低下させるリスクや、ストレスによる健康被害を招く恐れの方が高い。

1ヶ月の自然な運動(毎日30分の有酸素運動)で、肝臓でのケトン体生成量が増え脳由来神経栄養因子(BDNF)が増加するといったエビデンスも出ている。

コロナ太り、コロナ鬱、といった言葉も報道されているが、やはり適度な運動も免疫の維持に不可欠である。

適度な運動、食べ過ぎない食事など、日本人がもともと大切にしている健康法をコロナ禍の今こそ見直す良いタイミングではないか、と話した。


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