スパイス抽出物、認知症予防の可能性
〜食品開発展2021セミナー


2021年10月6日(水)〜8日(金)、東京ビッグサイトにおいて「食品開発展2021」が開催された。同展示会セミナーより、稲畑香料鰍フ講演「食品成分(スパイス抽出物)の認知症予防の可能性について」の新規機能性」を取り上げる。


2020年度の認知症患者数、600万人超え

高齢化社会が凄まじいスピードで進む日本において、認知症の患者数も急激に増えている。

2015年に厚労省が試算した際、2020年度の認知症患者数は250万人と予測されたが、実際は600万人を超え、加速度的に増えている。中でも認アルツハイマー型認知症が最も多く全体の約60%とされる。

アルツハイマー型認知症は、記憶や学習といった機能が後天的な障害によって持続的に低下し続け、最終的には日常生活に支障をきたすようになるというのが特徴だ。

思考、判断、精神に異常をきたし、問題行動を起こし、家族や友人などにも影響が及ぶため、多くの人が「認知症にだけはなりたくない」と願っているのではないか。

認知症は何よりも「予防」が肝心

問題は、認知症の根治が難しい点にある。現在、製薬剤にはAChE阻害薬などがあるが、脳細胞は一度壊死すると再生できない。

そのため、認知症の進行を緩やかにすることはできても根治することが現時点では叶っていない。つまりよく言われるように認知症は何よりも「予防」が肝心ということになる。

しかも記憶障害が顕著になる10〜15年前には脳の萎縮が始まっているため、長期間予防を意識しなければならない。

ただし、症状がほとんどない時期から予防を行うとしたら、やはりそれは医薬品ではなく、食品成分で長期間摂取しても安全なものであるものが望ましい。

アルツハイマーの原因とされるのが脳のシミとも呼ばれる老人斑だが、この主成分はアミロイドβペプチドである。

アミロイド前駆体タンパク質にβセクレターぜが作用することでこのタンパク質が生成される。

スパイスの多用とアルツハイマーとの関連

そこで、アミロイドβの予防となる天然素材がないか、特に食品成分がないかを研究するにあたり、さまざまな文献を調査したところ、インドのデリー近郊の村では、認知症罹患率が非常に低いことがわかってきた。

これは、インド人の食生活の特徴である「スパイスを多用する」「ベジアリアンが多い」といったことと関係しているのではないか、とさまざまな疫学調査を実施すると同時に、各スパイスのスクリーニング調査を行なった。

するとカレーに使われる代表的なスパイスであるコリアンダー、クミン、ターメリック、ブラックペッパー、生姜、コショウ類のほとんどに、アルツハイマーの最初の原因とされる老人斑を作り出すアミロイドβの前駆体であるタンパク質「βセクレターゼ」を阻害する作用(βセクレターゼ阻害作用)があることが確認された。



他にもシナモン、カルダモン、サフラン、クローブなどにもβセクレターゼ阻害作用が確認できた。

有効成分としては、キンマ・ヘキサンエキス、シナモン・ヘキサンエキス、ガランガル・ヘキサンエキス、ガジュツ・ヘキサンエキス、カショウ・ヘキサンエキス、カルダモン・ヘキサンエキス、カレーリーフ・ヘキサンエキスなど。

これらの有効成分にはβセクレターゼ阻害作用以外の健康効果も複数確認できている。

ターメリックやゴマ、βセクレターゼを阻害

これらのスクリーニングを通して、最もβセクレターゼ阻害作用が高かったのがターメリックとゴマであった。

ゴマはジャパニーズスパイスの代表ともいえるもので、スクリーニングに入れたところ、有効性が非常に高いことが確認できた。

ウコン(クルクミン)とゴマはそもそも健康食品としてのイメージが強く、スパイスとしても活用しやすい。

実はウコンに含まれる有効成分の中でもターメロン類という成分はオイル状で、ゴマに含まれる有効成分のセサミンは素材としてはパウダー状になる。

特にこのセサミンは体内での吸収率が低いため、この2つを混ぜてみたところ、非常に馴染みがよくセサミンパウダーがウコンオイルによく溶け、セサミン単体で接した時よりも約13倍も吸収されることがわかった(動物試験)。

マウス脳内でβセクレターゼ阻害

そこで、実際にマウスを使って、ウコンとゴマをミックスした成分が、脳へ移行するのかについて試験を行った。

その結果、ウコンに含まれるターメロン類もゴマに含まれるセサミンやセサモリンなどの有効成分は明らかに血清に移行し、血清からさらに脳に到達していた。

また、それぞれ単体で摂取するよりも脳に到達する有効成分の量が多くなることが明らかになった。

マウスの経口投与試験では、マウス脳内でのβセクレターゼ阻害作用も確認できたという。

さらにヒト臨床試験においてもウコンとゴマの抽出物で作る成分(メモリーチ)は「脳まで届く」ことが確認できているが、その作用は比較的緩やかで、10年、20年と長期間摂取し長期的に予防に貢献するという理想的な成分ではないか、という。

症状がない時、元気な時に予防を考えるのは難しいが、イメージが良い食品成分、安全性や食経験の豊富な成分を少しずつ長く取り入れていく行動を促すのに適切な成分だと紹介した。


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