納豆、新型コロナウイルスを分解
〜未来へのバイオ技術勉強会


2022年7月14日(木)、web配信により未来へのバイオ技術勉強会シリーズ Withコロナ時代を生きる@「新型コロナウイルス活性を消失せよ」が開催された。この中から、水谷哲也氏(東京農工大学農学部附属 感染症未来疫学研究センター センター長)の講演「日本の伝統食納豆が新型コロナウイルスを分解する」を取り上げる。


コロナ、日本人の致死率は0.3%と低い

新型コロナウイルス問題がはじまってから丸2年以上過ぎ、3回目の夏を迎えようとしている。しかしながら、「正しく恐れる」という当初よく使われた言葉も、このところ耳にすることがなくなっている。

しかしここにきて新たな変異株であるBA.5が爆発的に感染拡大していることで、私たちは再び「正しく恐れる」ことを意識すべきではないか、と水谷氏。

ここまでの日本における感染状況は、感染者数972万人をすでに突破し、まもなく1000万人を突破しようとしており、死者数は累計で3万1000人以上となっている。

しかし日本人の致死率は0.3%と低く、国内外から「ファクターXの存在」が指摘され、世界的にみても不幸中の幸いといえる。

感染の拡大も、ウイルスの力は弱い

ここにきて猛威を奮っているBA.5は、そもそも新型コロナウイルスのはじまりとなった「武漢型」が「アルファ株」「ベータ株」「BA.1」「BA.2」「 BA.3」に変異し、このうちの「BA.2」から「BA.4」「BA.5」が派生したと考えられている。

「BA.4」「BA.5」のスパイクタンパク質の変異は同じであることや、「BA.4」「BA.5」は感染力をあげる変異の全てを持っているため、今後更なる感染拡大が予測される。

ただその一方でウイルスの力そのものは変異により打ち消されているかもしれないと推測されている。

感染症を予測、防疫を先回り

現時点では世界的に「新型コロナウイルス」が問題となっているが、この先、私たちが新型コロナウイルスに打ち勝つことができても、人類はこの先も未知なるウイルスに脅かされ共存することからは逃れられない。

哺乳類や鳥類に眠っている未知のウイルスは約170万種類あることが推測され、そのうち人獣共通感染症は85万種類あると考えられている。

今後も必ずやってくる未知のウイルスのために人類ができることとして「万能ワクチンの開発」「万能治療薬の開発」「野生動物のコントロール」「未知のウイルスの発見」「未知に出現するウイルスの予測」「文系理系関係のない感染症学の発展」などが求められる。この流れのなかで東京農工大学では感染症未来疫学研究センター「未来疫学®」を設立した、と水谷氏はいう。

「未来疫学®」とは未来に出現する感染症を予測し、後手に回っていることが明らかとなった防疫を先回りするための新しい学問である。

「未来疫学®」において、すべきことの一つとして「食品中の抗ウイルス効果」に関する研究を行うことは重要である、と水谷氏。

私たち人類が寿命を伸ばしながら地球上で生き延びているのは、食品の影響による部分は明らかに大きい。食品中に含まれるさまざまな有効成分が私たちの健康、特に免疫に作用し、私たちの命を守ってくれていることも違いない。

抗ウイルス作用の食品を開発

未来のウイルスも新型コロナウイルスも、感染者が増えれば変異株が出現するが、新たな感染症に発症したとしてもワクチンが開発されるまでに早くても1年はかかる。

ワクチンや治療薬開発までの1年という期間に極力感染者数を増やさず変異株を出現させないことに寄与する可能性があるものはやはり食品成分で、治療薬ではないので完璧な効果がなくても「そこそこウイルスに効果がある」食品を開発するか、食品成分を同定することは重要ではないか。

これまでは、食品は免疫に何らかの影響を与え、その免疫系が活性することで「抗ウイルス作用」が得られる、と考えらえてきたが、「未来疫学®」では食品成分の「直接的抗ウイルス作用」の研究をはじめており、その食品の一つに「納豆研究」がある、と水谷氏。

納豆を作る際に必要な納豆菌には大豆を消化するために80種類以上のタンパク質分解酵素が含まれている。この80種類の酵素の中に新型コロナウイルスを分解できるものがあるのではないか、という推測が研究の発端になったという。

納豆の酵素、スパイクタンパク質を分解

そこで納豆メーカーである「タカノフーズ株式会社」の協力を得ながら現在研究を進めているという。納豆菌(TTCC903株を使用)を使って納豆抽出液を製造し、牛ヘルペスの培養細胞に納豆抽出液を添加すると、培養細胞への感染を完全に阻害することが確認できた。

アルファ変異株のスパイクタンパク質を分解する作用が納豆抽出液にあるか調べた結果、やはり培養細胞での試験であるが、スパイクタンパク質の分解も確認できた。

しかも納豆抽出液の中に含まれる酵素の一つであるセリンプロテアーゼにその効果があることも解明された。

他にもアルファ株、ガンマ株、デルタ株、ラムダ株、ミュー株、オミクロン株など主要な変異株に対して納豆抽出液はスパイクタンパク質の分解作用をもつことが確認され、この研究は2022年の日本ウイルス学会でも発表される予定だ。

もちろん培養細胞レベルであり「だから納豆を食べましょう」ということにはならないが、納豆菌の酵素(納豆抽出液)が新型コロナの感染を阻止する可能性は十分にあるのではないか、と水谷氏。

ただし、新型コロナウイルスは鼻腔と口腔内で感染が起こるため、今後の研究課題として食品として納豆を摂取したときに口腔内でどれだけウイルスを減らす可能性があるのか、についての研究や、納豆抽出液を噴霧剤にして点鼻したときにどのような効果が得られるのかなどについても研究する必要があるという。

世界中の食品からファクターXを

また今回は納豆菌の中でもTTCC903株を使用しているが、納豆菌の菌株によって多少効果の違いがあることもわかっている。

いずれにせよ、薬や治療ではなく、予防レベルのものであれが安全性の高い食品から完璧な形でなくても開発されることは今後の感染症対策にもなる。

現在世界では5歳に満たずに命を落とす子ども達が年間で約560万人もいて、この内の約半分以上が肺炎や下痢などの感染症によるものといわれている。

世界各国には納豆と類似した食品が多くあり、食品中には納豆以外にも抗ウイルス・抗食中毒・抗消毒になるような食材や食品成分が他にもあるはず、と水谷氏。

納豆の研究を進める一方で、世界中の食品の中からファクターXを作り出すことも可能ではないか。コロナの経験を次世代や他の感染症予防にも生かすための研究を続けたいとまとめた。


Copyright(C)JAFRA. All rights reserved.