メタボ対策、n-3系脂肪酸の重要性
〜第12回脂質栄養シンポジウム「メタボリックシンドロームと脂質栄養」


2010年1月30(土)、お茶の水女子大で、第12回脂質栄養シンポジウム「メタボリックシンドロームと脂質栄養」(主催:(社)日本栄養・食糧学会関東支部)が開催された。この中から、「メタボリックシンドロームと脂質栄養の基礎」(東北大学大学院農学研究科 池田郁男教授)、「2010年版食事摂取基準について」(東京大学大学院医学系研究科 佐々木敏教授)について講演内容を報告する。


n-3系のα-リノレン酸、血圧改善に有用

東北大学大学院農学研究科の池田郁男教授は、「メタボリックシンドロームと脂質栄養の基礎」と題して講演、脂質の中でもとくにn-3系脂肪酸の重要性について解説した。
脂肪酸には飽和・不飽和脂肪酸とあるが、とくに不飽和脂肪酸の多価不飽和脂肪酸が重要とされる。 多価不飽和脂肪酸にはn-3系とn-6系があり、いずれも人の健康維持や身体形成に必須だが、体内合成できないため食物から摂る必要がある。

n-3系はエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサペンタエン酸(DPA)が知られる。近年、DPAの効果が注目されているが、最新の実験ではDHA以上の有効性はないことが判っている。

また、n-3系のα?リノレン酸に、血中の悪玉コレステロールを減少させ善玉コレステロールを増やす働きがあるとされているが、最新の研究では、高血圧者の血圧を改善する効果があることも明らかになったと池田氏はいう。

メタボ対策、n-3系の多価不飽和脂肪酸が有効

近年、メタボリックシンドローム対策の必要性が叫ばれている。メタボリックシンドロームでは、高血圧や高血糖などの合併症が多いほど心疾患の危険性が高まるとされる。この心疾患にn-3系の多価不飽和脂肪酸が有効に働くと池田氏。血小板の凝縮抑制や血圧低下作用により、血栓症や狭心症、心筋梗塞を抑制する効果が期待されているという。

ちなみに、特保商品のDHA入り魚肉ソーセージ(1本50gのソーセージにDHAが850mg、EPAが200mg含有)を4週間摂ったところ、血液中の中性脂肪が減少したことが報告されているという。ただ、半分(25g)の場合は効果が見られなかったため、DHA+EPAを1日1g以上摂ることが望ましく、2010年度版の「食事摂取基準」にも同じ内容が明記されていると説明した。

「必要摂取量」を難しく考える必要はなく、できるだけ魚を食べるようにすればいいと池田氏。魚の摂食によって摂取エネルギーやコレステロール値が上昇したとしても、魚に含まれるn-3系不飽和脂肪酸はそれをカバーするだけでなく、魚を食べる量と反比例して心疾患因子が少なくなると報告した。

科学的根拠に基づいた策定で、摂取量の基準数値が変動

東京大学大学院医科学研究科の佐々木敏教授は「2010年版食事摂取基準」について解説した。
食事摂取基準は我々の健康維持、増進、生活習慣病の予防を目的に設定した食のガイドラインで、厚労省が監督、策定検討会がとりまとめ、5年ごとに改訂される。 2010年度版は2010年の4月から実施、2015年の3月まで使用される。

ガイドラインの改訂は既存のガイドラインの見直しに加え、最新の研究論文や学術論文を最大限活用するという。

ちなみに、1990年はガイドライン作成にあたり、参考文献が225件しか用いられなかったが、近年各分野の研究が進み、2005年には850件の文献が、今回2010年度版においては1244件の文献が用いられたという。
これらの文献から、より科学的根拠に基づいた策定を行なうため、各摂取量の基準数値が変動する。科学的エビデンスレベルが上がるたび、今後も変わると佐々木氏。

2010年度版で大きく変わったのが、「ライフステージ」という項目の追加。「乳児・小児」「妊婦・授乳婦」「高齢者」への特別の配慮が必要な事項として整理された。

中でも「エネルギー」は、「推定エネルギー必要量」がライフステージごとに変更となり、小児及び若年女性では減少し、高齢者では増加となった。また「ナトリウム」の摂取基準は男性が10g未満であったのに対し、9.0g未満に変更、女性は8g未満であったものが7.5g未満へと変更となった。

「耐容上限量」、過剰摂取による健康障害を防ぐための指標

摂取基準には、「健康の維持・増進と欠乏症予防」のために「推定平均必要量」と「推奨量」という用語を使っている。エビデンスの不足からこの指標を設定できない栄養素については「目安量」という表現にしている。

また過剰摂取による健康障害を防ぐための指標として「耐容上限量」という用語を使用(2005年度版までは「上限量」という用語を使用)。生活習慣病の一次予防を目的として、現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量を「目標量」として定義しているという。

「脂質」、エビデンスが少なく「目安量」と「目標量」のみ

今回「脂質」については、エビデンスが少ないため「目安量」と「目標量」で基準値を設定。個人の代謝特性は考慮されていないため、「目安量」や「目標量」が各個人に当てはまるかは断定できない。疾患には栄養だけでなく多くの環境や遺伝因子が存在するため、柔軟な対応が必要と佐々木氏。

食事摂取基準はガイドラインとして存在しなければ各事業で業務ができないため必要不可欠であることに間違いはないが、各基準数値よりも、ガイドラインの考え方をまずは理解することが大切という。

ガイドラインの理解不足や数値にばかり気を取られる事で、各論や基準値の誤解、誤用につながると指摘。エビデンスレベルは上がってきているが、個人個人の状態をしっかりと判断し柔軟な対応が求められると述べた。


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