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 納豆菌発酵、および納豆摂取時の被験者血液中のビタミンK(メナキノンー7)濃度

倉敷芸術科学大学産業科学技術学部 須見 洋行
原稿受付平成10年7月16日;原稿受理平成10年12月14日
1・緒言

これまで日本の伝統食品である納豆中にナットウキナーゼ、プロ−ウロキナーゼアクチベーダーなどの血栓溶解酵素を認め、その性質と利用方法などを報告してきたが1)〜4)、一方で最近は納豆菌の作り出すビタミンKが骨粗鬆症との関係で注目されている。すなわち、ビタミンKはGla−蛋白として血液中の種々の凝固因子だけでなく、オステオカルシンなどの骨中のいわゆる「カルシウム結合性蛋白」の合成に必須のビタミンであり、特にビタミンKの中でも納豆に含まれるメナキノン−7がヒト血中の最も多い分子タイプであること5)、また疫学的調査で大腿骨頚部の骨折患者ではこのビタミンK濃度が正常人に比べて約1/2に低下することなどが明らかにされ6)、こうしたビタミン補給食品としてわが国の伝統食品である納豆が今大変脚光を浴びている。しかし、納豆中のメナキノン類については日本食品成分表にも最近その値が示されたばかりで7)、実際の測定に当たってもMK−4以外には標準品も市販されていない状況で、これまでの報告も非常に少なかった。

本研究では、これまでの納豆研究の経験をもとに種々の納豆菌で作った納豆中のメナキノン類の変化とそれを摂取した後の同ビタミンの血中動態について検討した。

2.実験方法

(1)納豆および試薬

納豆はポリスチレン容器内で蒸煮大豆に、市販納豆で最もよく使われている3種類の納豆菌(高橋菌、成瀬菌、および宮城野菌)を50g当たり、各々2×10/mlの濃度で0.5ml量を添加し、37℃、24時間発酵させて調製した。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の標準に用いたフィロキノン(K)およびメナキノン−4(MK−4)はシグマ社製のものを購入、その他の試薬はすべて特級品を用いた。

(2)メナキノン−7の精製

納豆600gに75%イソプロピルアルコール1lおよびn-へキサン1lを加え1時間ゆっくりと攪拌、静置後2層に分離した上層を取り、無水硫酸ナトリウムで乾燥、蒸発乾固して抽出物約20gを得た。これを10mlのn−へキサンに溶解し、400mlのクロマトグラフィー用シリカゲルに通して吸着させ、2lのn−ヘキサン+トルエン(1+1)で溶出、分画した。メナキノン−7を含む分画を減圧下で蒸発乾固し得られたシリカゲル濃縮物を5mlのn−ヘキサンで溶解し、上記と同様に再度シリカゲルカラムで分画し、減圧下で蒸発乾固して約350mgを得た。このうち50mgを少量のアセトンに溶解し、アセトニトリル+メタノール(1+1)で充填した60mlのクロマト用ODS−シリカゲルに通液、アセトニトリル+メタノール(1+1)で展開した。溶出液をHPLCでモニタリングしながら、メナキノン−7と考えられる物質が単独で溶出している画分を分取、減圧乾固した。得られた物質について赤外吸収スペクトラムおよびマススペクトラムを得てメナキノン−7であることを確認した。なお、勝井らの方法8)で行った純度検定の結果は99.8%であった。

(3)ビタミンK類の分析

ビタミンKが白金−アルミナ触媒でハイドロキノン体に還元され、蛍光化することを利用してHPLCは島津ODS−Uカラム(4,6×250mm)、白金−アルミナ触媒カラム(4,0×10mm)、および97%エタノールを用いて40℃、0.7ml/minで操作した9)

試料0.5g(ml)に蒸留水0.5ml、イソプロパノ−ル1.5mlを混和、ヘキサン5.0mlを加え攪拌したのち遠心分離し、20℃で10分間1,710×gで遠心分離し、上清のヘキサン分画4mlをエバポレ−ターで濃縮し、100μlのエタノールで溶解したものをHPLCで分析した。

(4)血液凝固−線溶系の測定

血液のトロンボエラストグラフィー(TEG)パターンはHellige社、またプロトロンビン時間(PT)および部分トロンボプラスチン時間(APTT)はErma社のClot Digtim TE20を用いて常法どおりで測定した。

3.実験結果および考察

Fig.1は純化したメナキノンMK−7と市販納豆のHPLC分析パターンの例であるが、共にretention time(t)が約18分でMK−7のピークが認められた。一方、Fig.2a〜cはこの条件で各ビタミンK標準品を用いて作成した検量線であるが、MK-7は0,05〜50ngの範囲で直接関係を示した。

この測定条件下で各種納豆菌による蒸煮大豆の発酵の成績を比較した。その結果、Fig.3に示すように宮城野菌によってできた納豆が最も多くのMK-7を含んでいることがわかった。その濃度は37℃、24時間後に最高1,750μg/100g湿重量と高かったが、これに対してMK-4およびK濃度はいずれもその1/50以下(各々1.3μg/gおよび35.2μg/g)で、発酵による変化も見られなかった。

なお、最近厚生省が示したわが国の成人男子のビタミンK必要量は1日に体重1kg当たり1μgとされるが、これは今回作った納豆のMK-7量からすると1人当たり2〜3gの量にしかならない。

大量調製したこの納豆を5人の健常成人ボランティア(男4人、女1人)に朝10時に食べてもらい、経時的な血中のMK−7濃度を測定した。Fig.4は被験者の女性が100gの納豆を食べて4時間目のHPLCパターンの例であるが、もともとはほとんどなかったMK-7のピークが約150倍と著しく高まっていることがわかる。

Table 1はこれらのグループの各種摂取量での測定値をまとめたものであるが、いずれの量でも摂取2〜4時間後をピークとして有意に血中濃度の高まっていることがわかる。すなわち、納豆5g(それ自体に含まれるMK-7量は約84μg)で血中MK-7濃度は食べる前(1.1±0.4ng/ml血漿)の約10.5倍に、また30g(MK-7は約504μg)および100g(MK-7は約1,680μg)では22.5倍(22.5±5.0ng/ml血漿)および51.9倍(57.1±7.70ng/ml血漿)とほぼdose-dependentに高まっていることがわかる。また、その効果はかなり長時間続き、なかでも100g食べた場合は48時間後でも食べる前の9倍以上のMK-7濃度であった。

これまで正常成人の血中MK-7の濃度は0.57〜6.25μg/mlと5)6)、報告者によって大きな差が見られた。これはMK-7が不安定であるため、用いたスタンダード標品の違いによる問題もあろうが、今回の成績を考えると日頃納豆を摂取しているか否かによる影響も否定できないように思われる。いずれにしろ今回、日頃われわれが食べるくらいの納豆量でも血中MK-7濃度は食べる前に比べて有意に高まり、数値だけからすると骨粗鬆症患者の濃度を正常化するのに十分なくらいの血中濃度の上昇が引き起こされることが明らかとなった。

なお、今回の実験条件下では、いずれもTEGパターン(γ値9.4±1.4分、κ値6.0±0.7分、Ma値45±3.9mm)、およびPT(10.5±3.0秒)、APTT(28.1±11.0秒)で調べた血液凝固−線溶系に変化は認められなかった。  

4・要約

納豆菌発酵によるビタミンK生産と、納豆摂取時の同ビタミンの経時的な血中動態をHPLC法で定量した。

発酵中のビタミンKとして主に植物由来であるフィロキノン(K)、あるいはメナキノン−4の濃度に変化はなかったが、納豆菌由来のメナキノン−7濃度が著しく高まること、特にわが国の市販納豆で最もよく使われている3種類の納豆菌の中で宮城野菌で発酵したものが最も高濃度であり、その値は37℃、24時間で1,750μg MK‐7/100g湿重量を示した。

納豆5〜100gの摂取でヒト血中のメナキノン−7濃度の上昇はdose-dependentであり(最高値は57.1±7.7ng/ml血漿)、またその効果は長く、48時間後でも摂取前の9倍以上のメナキノン−7濃度であった。一方、今回の摂取量で血中の凝固−線溶系に変化は見られなかった。

引 用 文 献

1)Sumi, H., Hamada, H., Tsushima, H., Mihara, H., and Muraki, H.: A Novel Fibrinolytic Enzyme Nattokinase in the Vegetable Cheese Natto: A Typical and Popular Soybean Food in the Japanese Diet, Experientia, 43, 1110-1111 (1987)
2)Sumi, H., Hamada, H., Tsushima, H., and Mihara, H.: A Novel Strong Fibrinolytic Enzyme (Nattokinase) in the Vegetable Cheese "Natto", Fibrinilysis, 2, 67 (1988)
3)Sumi, H., Hamada, H., Nakanishi, N., and Hiratani, H.: Enhancement of the Fibrinolytic Activity in Plasma by Oral Administration of Nattokinase, Acta Haematol., 84, 139-143 (1990)
4)須見洋行、馬場健史、岸本憲明 : 納豆中のプロ−ウロキナーゼ活性化酵素と血栓溶解能、食科工、4311241127 (1996)
5)上原総一郎、後藤勝博、本庄恭輔、半田 洋、辻 靖、平山亮夫 : 健常成人50例における血漿中PhylloquinoneMenaquinone同族体の測定について、血栓止血誌、8127133 (1997)
6)藤田択男(監修) : 『カルシウムと骨代謝』、雪印乳業、東京、177188 (1997)
7)山口迪夫(監修) : 『日本食品成分表』、医歯薬出版、東京、2237 (1997)
8)藤井五一郎、貴島静正、府川秀明、市川富夫、末木一夫 : フィロノキン、メナキノン−4およびユビキノン−10の高速液体クロマトグラフィ−用標準品の作製、ビタミン、62505513 (1988)
9)Langenberg, J. P., and Tyaden, V. R.: Determination of (endogenous) Vitamin K1 in Human Plasma by Reversed-Phase High-Performance Liquid Chromatography Using Fluorometric Determination after Post-Column Elestrochemical Reduction, J. Chromatogr., 305, 61-67 (1984)

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