心の傷のケアにも食養生は役立つ
現在、辻野氏は往診専門の鍼灸、手技、食事療法を行っている。また、軽井沢の旅館「星のや」での宿泊型診療メニューで食生活や生活習慣の見直しによる体質改善を行っている。
震災以降は東京、千葉、神奈川エリアからの患者が多く、心のストレスや不眠などの問題を抱えている人も多いという。震災と津波は東北地方に甚大な被害を与えたが、東京や千葉など関東でも心に傷を負った人が多く、治療にも時間がかかりそうだと辻野氏。しかし食養生は心の傷のケアにも非常に効果的で、災害時のサバイバルにも役立つため実践して欲しいという。
健康を保つには筋肉量ではなく、「気」が重要
サバイバルといっても2種類あると辻野氏。一つは文字通り生死をかけたサバイバル。もう一つは都会で生きるという意味のサバイバル。都会では、汚染された空気、騒音、農薬や添加物、放射能の問題など、厳しい環境のなかで生きていかなければいけない。しかし、食養生の知識があれば、そうしたものを受け入れながら、健康を保ち、生きていくことができるという。
東洋医学では、健康であるということは「全身に気が巡っていること」と定義されている。健康を保つには「気」が大切であり、筋肉量の有無はそれほど重要な要素ではないという。
「気のあるもの」を食べることが食養生の基本
気を巡らせるのは「食」であるが、何を、どのように食べるか、ということが非常に重要。「気のあるもの」、つまり「命のあるもの」を食べているかどうか、が食養生の根本という。
例えば、リンゴも農薬で育てられたものと無農薬のものでは「気」が大きく異なる。またそれを皮ごと食べた場合は栄養も気も体内を巡るが、皮を剥くと、栄養は巡っても気は巡らないことになる。命ある食べ物を一物全体で食べることが気の巡る食養生であり、西洋医学でいうビタミンなどの栄養学よりも重視されると辻野氏。
太陽のリズムで生活することが重要
食養生においては食が重要だが、それ以上に大切なのが、水、空気、太陽、心であると辻野氏はいう。どんな水をいつ飲むか、例えば、食事中に水を頻繁に摂取すると消化効率が低下する。
次に重要なのが空気。疲れている時は、直前に呼吸が非常に浅くなっていたか、止まっているはずと辻野氏。日常で呼吸を常に意識し、チェックすることが重要という。
例えば、車の運転で、長時間同じ姿勢でいることの疲労より、運転の緊張で呼吸が浅く早くなってしまうことからくる疲労に気づくことであるという。
次に重要なのが太陽。太陽のリズムで生活することが重要で、早寝早起きの実践で、体内リズムを整えることが健康に重要という。
正しい食事、正しい水分補給、正しい呼吸、正しい生活のリズムが食養生の根本。いずれも簡単なことだが実施するのは非常に難しい。食養生の難しい点は唯一実践であると辻野氏はいう。
またこれらの4つの養生が実践できていたとしても、一番健康に影響を与えるのは心であり、心が怒りで満ちていれば、どんなに気が巡っていても途端に気が結んでしまうという。
人間の体はルーティンを好む傾向がある
そもそも人間の身体はルーティンを好む傾向がある。そのため、毎日同じ時間に起き、寝た方が良い。よく食べる人はよく食べ続けた方が良いし、小食な人はずっと小食のほうが良いと辻野氏。
食養生ではよく食べるというよりも必要なものを必要な時間にしっかり補うことを大切にしているため、基本は小食だが、日頃から小食にしておけば、緊急時にも身体はルーティンを好むため小食で十分満足できるという。
今回の震災時のようにやむを得ず断食をしなければならない状況になったとしても、日頃から小食であれば、さほど苦痛は感じない。断食で死ぬことは珍しいが、断食後の回復食を間違って命を落とすことは比較的多いという。
非常食として塩を常備しておく
今回の震災でカンパンや缶詰などの非常食が都内でも店頭から姿を消したが、非常食として持ち歩く必要があるとすれば、唯一食塩であると辻野氏。できれば海から採取された塩で、にがりや海の成分がはいったベタベタした塩が良いという。
塩にはミネラルが豊富に含まれているため、断食状態になっても、塩を適度に舐めることでほぼ血液に似た栄養を摂取でき、身体の機能をすみやかに動かしてくれるという。良い塩でできた味噌も常備しておけば、それを一舐めしただけで、エネルギーになると辻野氏。これは放射能に負けない身体作りにも役立つという。
「食べ物がない」という心配をなくし、日頃から、あるものに感謝して適度にいただくこと、そしてどんな変化が起きても、生活のリズムやサイクルだけはできるだけいつも通りにしておくことが、健康にとっては非常に大切で、サバイバル食養生においてもっとも重要なことであるとまとめた。