健康と食品機能の総合将来戦略、世界レベル目指して〜第22回健康食品フォーラム
2011年2月8日(火)、(財)医療経済研究・社会保険福祉協会主催の「第22回健康食品フォーラム」が東京都の瀬尾ホールにて開催された。「健康と食品機能の総合将来戦略」をテーマに、健康食品や食品の機能性、安全性評価などの将来展望について、有識者4氏による講演が行なわれた。

基調講演「食品機能と健康ビジョン研究会」報告〜国家プロジェクトと健康表示制度に関する提言
名古屋文理大学 健康生活学部フードビジネス学科教授 清水 敏雄

政府はもっと「消費者への情報提供、普及啓発」を

清水氏は、食品機能と健康ビジョン研究会が2009年に行なったアンケート調査を報告。対象企業は機能性食品関連企業373社(2/3が食品関連、他に薬品や化粧品他製造業、研究企業含む)。

この調査から、「企業が機能性食品の研究開発や普及のため政府に求める役割」について、289社が「消費者に対する情報提供、普及啓発」を求めていることが分かったという。

行政への要望の上位3では、「新たな機能性表示の制度化の検討、特定保健用食品の審査基準の明確化」「粗悪品の取り締まり」「特定保健用食品の審査基準の明確化」が挙がった。また、「大学や公的機関で進めるべき調査・研究テーマ」として、食品成分/素材の有効性/安全性のデータベース化、ヒト介入試験の導入、機能性成分の基礎研究、などがあった。

「機能性食品」、司令塔がなく個々で研究

世界各国で食の機能性の研究や普及活動が始まっているが、多岐に渡り取りとりまとめが困難なことは日本と同じ。EUでは国家単独で取り組むには難しいと判断し、加盟国全体の2兆円プロジェクトで動いている、と清水氏は解説する。

日本でも食品機能研究やトクホ商品などが、国家プロジェクトとして進められている。主に経済産業省、文部科学省、農林水産省、厚生労働省がそれぞれ予算計上し、食品機能と安全性という2点を重点的に健康食品への取り組みを行っている。予算はトータルで約100億円に達する。

しかし、「機能性食品」の司令塔はどこにもなく、個々で研究が進められているため、研究や開発が小規模になりがちで、ヒト介入試験もできない。法的定義も作られない状況が何年も続いており、産業上の大きな成果に結びつけるのが困難というのが現状。

日本の健康食品やトクホ商品を世界レベルにするために必要なこと

今後の対策として、司令塔をつくり研究テーマを絞り込む、国民の健康に寄与する食品を開発するためにヒト試験も行なう、その上でビジネスとして世界規模の産業を構築することが求められると清水氏。

さらに、健康表示の国際的な統一が進む中、日本がリーダーシップをとっていくために、まずは有効性の審査基準の明確化が大切で、特にヒト試験の審査基準が確立してないため、これを作成することが急務という。

また、安全性の審査基準の見直し(現在の一日摂取量の5倍量というものは非現実的)、さらにトクホにおいては特に審査内容の透明化と情報公開の促進、有効性と安全性の公的データベースの作成、一度トクホ認可された商品に対しても許可期限の設定と再評価システムを構築する、消費者クレーム窓口・健康被害の届出制度の構築など、日本の健康食品やトクホ商品を世界レベルにしていくために必要と提言した。

臨床栄養からみた機能性食品の開発と展望
徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 武田 英二

食品添加物やインスタント食品でリンの摂取が増加

徳島大学では医学部附属病院の栄養学科で、食品・栄養素の生体での代謝や作用、健康増進効果、疾患治療効果について臨床研究を行っている。講演では食品の機能について最新研究を報告。

近年、食品添加物やインスタント食品の影響でリンの摂取が増えている。リンは欠乏するとくる病や骨軟化症を招くが、摂り過ぎると骨繊維症や骨粗鬆症、慢性腎不全、心不全が生じる。また、近年では加齢促進も問題視されている。骨粗鬆症予防については、カルシウムを積極的に摂り、リンの摂取制限をすることが大切と武田氏。

リン過剰摂取、骨の疾病だけでなく血管機能も障害

最新の研究から、リンの過剰摂取は骨の疾病だけでなく血管機能をも障害し、動脈硬化の原因となることが明らかになっている。さらに慢性腎不全の患者にリン制限を行なった低タンパクの食事療法を行なったところ、透析導入を遅らせることができたと武田氏は報告。

また、低GI食(低グリセミック・インデックス食)は糖代謝障害や脂質代謝障害の予防及び治療に有効であることをデータで示した。さらに、ストレスを客観的に評価する方法についても研究中であると述べ、醗酵人参エキスの抗ストレス作用をヒト試験で明らかにしたデータを提示した。

とはいえ、食の研究は複合的で、ヒトの場合、個人の生活環境や体質、遺伝的要素により反応がさまざまなため薬の研究とは比べ物にならないほど手間と労力がかかると武田氏は指摘。

高齢化や医療費問題、QOL向上の問題からも栄養管理が重要で、科学的に立証された機能性食品はますます需要が高まってくる。特に日本食の特徴を活かした機能性食品の開発は国家プロジェクトとして推進されるべきであるとまとめた。

分子イメージングを活用した機能性食品の開発
独立行政法人 理化学研究所 分子イメージング科学研究センター
センター長 渡辺 恭良

乳酸は疲労の原因物質ではない

理化学研究所 分子イメージング科学研究センターでは、ポジトロンエミッショントモグラフィーという技術を中心に、効率のよい化合物の合成方法を開発。低分子化合物だけでなく、医薬品、ゲノム創薬につながるエビデンスに基づいた薬品開発のための研究を行なっている。

この技術により、生きている状態での動物・ヒトでの効能評価が可能で、認知症対策食品や動脈硬化対策食品など、あらゆる機能性評価をヒトベースで行なうことができるという。

特に近年、研究で力を入れているのが「疲労」。疲労は個人で状況が異なるためバイオマーカーがなかった。この研究を分子イメージングを活用して行ったが、最新の研究では、乳酸は疲労の原因物質ではない、疲労と老化には共通するメカニズムがある、疲労は脳神経の問題がほとんどであることなどが分かっていると渡辺氏。

分子イメージングで創薬プロセスの時間短縮とコスト減が可能に

また、いくつかの抗疲労食品成分の動態、機能評価についても分子イメージングで行われ、疲労の分子神経メカニズムも同時に判明しつつある。多くの有効成分や素材をエビデンスに基づいた評価ができ、開発につながるという。

分子イメージングにより、創薬プロセスは従来の方法より時間短縮とコスト減が図れる。またヒトでの薬物動態を解析することができるため、試薬の有効性・安全性の確認を効率よく実施、治験の成功率を30%〜50%に上げることが可能という。機能性食品成分の動態解析と機能評価にも貢献できるため、分子イメージング技術を国家プロジェクトとして確立させていくべきであると渡辺氏はまとめた。

食品機能性・安全性評価のためのニュートリゲノミクス
東京大学大学院 農学生命科学研究科 特任教授 阿部 啓子

機能性食品は予見的な解析が極めて重要

現在、機能性食品の可能性や有効性が語られるようになり、今後がますます期待が大きくなることが予測されるが、食品の機能性や効果の因果関係を証明することは非常に難しい。

医薬品であればそれがどの標的にどのように作用し、どの程度の効果を発揮したのかを数値化して評価することが可能である。しかし、機能性食品は医薬品とは大きく異なり、疾病になる前に摂取し、効果を事前予測しなければいけないが、それが困難と阿部氏は指摘。

機能性食品については予見的な解析が極めて重要となる。そこで、東京大学では機能性食品の学術的基礎を築く上で中心的な役割を果たすため、ニュートリゲノミクスという手法により機能性食品の科学的分析を行っているという。

ニュートリゲノミクスで食品の効果を事前に予知

ニュートリゲノミクスとは、ある食品を与えた時に体内で起こる変化を、遺伝子発現の変動から網羅的に捉える手法で、その効果を事前に予知しようとするものであるという。これは、機能性食品の栄養素のみではなく、安全性評価の事前予測についても行われる。

近年、食の嗜好性(おいしさ)は、脳を介して栄養性や機能性とも連動しているのではないか、ということが分子レベルで確認されている。新しい味覚・嗅覚研究が進められており、食品機能学は栄養性、嗜好性、機能性を統合した食のライフサイエンスとして世界的にも関心を呼びはじめていると阿部氏はまとめた。


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