21世紀を健康に生きる:ビタミンと微量栄養素〜日本ビタミン学会関東地区・社団法人 国際栄養食品協会(AIFN)合同シンポジウム
2013年12月21日(土)、東京海洋大学で、日本ビタミン学会関東地区・社団法人 国際栄養食品協会の合同シンポジウム「21世紀を健康に生きる:ビタミンと微量栄養素」が開催された。5人の講師によるビタミンの最新研究報告が行われたが、ここでは一瀬 宏氏(東京工業大学大学院生命理工学研究科 教授)の「健康に大事なビオプテリン」と小城 勝相氏(放送大学教養学部 教授)の「老化、酸化ストレス、ビタミン」を取り上げる。


ビオプテリン、レバーやハチミツに多く含まれる

まだほとんど知られていない、生命や健康に関わる微量成分が私たちの体内にいくつも存在している。その一つであり、近年注目が集まっているビオプテリンについて一瀬氏は研究を行っている。

ビオプテリンはビタミンと違い、グアノシン三リン酸(GTP)という成分をもとに体内で合成される補酵素の一つである。このビオプテリンは私たちの脳の松果体や肝臓に多く存在している。

また、食品中にも含まれていて、レバーやハチミツ、母乳(ヒト、牛ともに)にも比較的多く含まれている。ビオプテリンは、肝臓では補酵素として代謝を手助けする重要な役割を果たす。また、脳の中では神経伝達物質を作るための必須成分として存在するという。

ドーパミンやセロトニンの合成に必須

神経伝達物質は、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、アセチルコリン、ギャバ、グルタミン酸、神経ペプチドなどがよく知られているが、これらは私たちの情動を支配している。

こうした神経伝達物質は体内で合成されるが、これにビオプテリンが深く関与し、特にドーパミンとセロトニンの合成には重要であることが明らかになっているという。

ドーパミンは「やる気」や「集中力」に関係する神経伝達物質で、アミノ酸のチロシンから作られる。その時に必ず必要な化合物がビオプテリンで、ビオプテリンがなければドーパミンが作れない。ビオプテリンはチロシンと結びつき、L-ドーパという形を経てドーパミンになる。

一方、セロトニンは人の精神面に大きな影響を与え、心身の安定や安らぎと関係している。セロトニンもアミノ酸のトリプトファンから作られるが、その際にも必ず必要になるのがビオプテリンで、ビオプテリンはドーパミンやセロトニンの合成に必須であることが分かっているという。

脳内のドーパミン減少で、パーキンソン病に

ドーパミンもセロトニンも加齢だけでなくストレスでも合成量が減少することがわかっている。これらの物質の減少が近年増加しているうつ病と深い関係があるとされている。

うつ病の治療薬にはセロトニンが含まれているものが多いが、そもそもビオプテリンの欠乏が原因ではないかと、一瀬氏らは生まれつきビオプテリンが体内でわずかしか作ることのできないマウスを作成し解析をしているという。

例えば脳内のドーパミンが減少することによって起こる症状のひとつにパーキンソン病がある。パーキンソン病の主な症状には「ふるえ」「姿勢障害」などがあり、筋肉異常や関節のトラブルと誤解している人も少なくないが、実は脳の中に異常が起こることで発病することがわかっている。

一般的には正常値の20%以下までドーパミン生産量が減少するとパーキンソン病の症状が現れるという。従ってパーキンソン病の人にドーパミンの前駆物資を投与すると症状が和らぐこともわかっており、この研究に2000年ノーベル医学生理学賞が与えられている。

マウスの研究からわかってきたことは、脳内のドーパミン経路は乳幼児期にものすごい勢いで発達するが、幼児期にビオプテリンが少ないとドーパミン経路がうまく発達しないと一瀬氏。

しかしマウスの場合、乳幼児期にビオプテリンを投与することでドーパミン経路は通常レベルまで発達させることができ、逆に離乳後のマウスではビオプテリンを投与してもドーパミン経路は回復しないことがわかったという。

他にも、ビオプテリンには血管拡張、細胞性免疫、神経伝達、血管形成、アポートーシス誘導などの働きに関与していることがわかってきたという。しかしビオプテリンを積極的に摂取すればいいのかというと、まだそのあたりは解明されておらず、ただ「有効ではないか」という仮定で研究がすすめられている段階だと一瀬氏。今後は薬としての可能性も模索されていくであろうとした。

老化が起こるメカニズム、「遺伝子説」と「エラー説」

小城氏は、「老化、酸化ストレス、ビタミン」と題して講演。老化が起こるメカニズムには多くの仮説があり、70くらいのメカニズムが解明されている。大きく分けると「遺伝子がすべてを決定している」という「遺伝子説」と「細胞のエラーが蓄積して老化が起こる」という「エラー説」の2つに分類できるという。

「遺伝子説」は簡単にいうと、どんな人間も120歳くらいまでしか生きられないように遺伝子がプログラムされているというもの。「エラー説」は細胞の酸化や突然変異が徐々に蓄積され最終的に破綻するというものである。

動物の種類によって寿命はある程度決まっているため、遺伝子が寿命や老化に関係していることは明らかである。その一方で、一卵性の双子でも生活習慣が異なると、寿命や老化現象に大きな差が現れることから、エラーも関与しているといえるだろうと小城氏はいう。

酸化ストレス、ガンや動脈硬化に関与

この細胞のエラーを引き起こす原因が「酸化ストレス」であることもよく知られている。酸素は私たちの生命維持に必須である一方で、酸素を取り込んで体内でエネルギーを生産する時に、1%ほどの割合で活性酸素と呼ばれる毒性の非常に強い物質を作り出し、生体の分子と反応して細胞に損傷を与え、それが蓄積することで病気や老化が引き起こされる。

この酸化ストレスが関与する病気としてガン、動脈硬化、糖尿病の合併症、アルツハイマー型認知症などが代表的なものとして知られている。しかし人の体は、活性酸素に対抗するメカニズムもしっかり備えている。それがビタミンC、E、ナイアシン、グルタチオン、酸化ストレス感知システム、抗酸化酵素などであると小城氏。

こうした成分を積極的に取り込むことで体を酸化ストレスから守ることができるが、健康食品やアンチエイジングを目的とした食品の中にもビタミン類やファイトケミカル、あるいはポリフェノールと呼ばれる成分が含まれている。

私たちの体は生命維持のために酸素を絶対的に必要とする。その一方で活性酸素を発生させ、死を準備するというメカニズムが備わっているのではないかとした。


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