なぜ食塩摂取が高血圧の原因になるのか
〜ソルト・サイエンス・シンポジウム2015


2015年10月14日(水)、品川区立総合区民会館「きゅりあん」で、「ソルト・サイエンス・シンポジウム2015」が開催された。この中から、藤田 敏郎氏(東京大学名誉教授)の基調講演「食塩、カリウムと高血圧」を取り上げる。


食塩感受性の人は遺伝子が関与

食塩の摂り過ぎが高血圧の原因になっている。このことは、さまざまな民族を対象とした疫学調査からも明らかとなっている。

食塩の過剰摂取が高血圧の主因であることは間違いないが、食塩に対する血圧の反応には大きな個人差がある。

食塩で血圧が上がりやすい人を「食塩感受性」、そうでもない人を「食塩非感受性」と分類できる。「食塩非感受性」の人は、食塩摂取量が多くても高血圧症にならない。そして「食塩感受性」の人は、その原因に遺伝因子が関与していることが示唆されている。

未だその遺伝子は同定されていないが、「肥満者」と「ストレス者」で、食塩感受性高血圧が起こりやすいことが近年疫学研究によって示唆されている。

生活習慣の歪みが「食塩感受性」を亢進させるという説もある。実際、第二世界大戦下のオランダにおける飢餓が母体に多大な影響を与え、高血圧や肥満者を増加させた。

食塩感受性高血圧は2つの経路で起きる

高血圧になりやすい人の遺伝子については特定されていない。その要因は食塩の摂取過剰以外にもあるかもしれない。いずれにせよ「高血圧症」とは「腎臓におけるナトリウムの排泄機能障害により、ナトリウム排泄の調整機能異常が起こる」ということであるといえる。

これまでそのメカニズムは明らかにされていなかった。ところが近年2つの経路によって「腎臓のナトリウム排泄機能障害」が起こり「食塩感受性高血圧」が発症することが示されつつある。

これは東大の研究グループによって明らかにされた。1つ目の経路が「アルドステロン過剰」、そして2つ目の経路が「交感神経亢進」である。

アルドステロンはホルモンで、本来アルドステロンと食塩とは「シーソーの関係」にある。食塩を摂取するとアルドステロンの濃度が低下するようになっている

しかし肥満者は、食塩を過剰に摂取した場合でもアルドステロン濃度が十分に低下しないことが分かった。つまり「アルドステロン症」になると「食塩感受性高血圧」を呈するようになる。ラット研究でアルドステロン症は生まれながらに起こるのではなく、肥満やストレスによって亢進することが分かった。

また肥満のラットはそもそもアルドステロン値が高い。そしてそうしたラットの尿には「たんぱく質」も豊富に含まれている。

一方、肥満でアルドステロン値が高く、食塩感受性高血圧のラットにMR拮抗薬を投与すると尿タンパクは減少し、アルドステロンの異常により食塩感受性高血圧症が起こることが示された。

つまりアルドステロン値が高い、あるいはすでに食塩摂取時のアルドステロンの低下が十分に起こらない肥満者(肥満のラット)に食塩を過剰に食べさせると、腎臓がボロボロになり(MRが活性し)、腎障害が起こって蛋白尿になる。さらにナトリウム排泄にも異常が生じ、食塩感受性高血圧が起こるという経路だ。

肥満者はそもそも腎臓の交感神経が亢進

2つ目の「交感神経亢進」については、主に「腎臓の交感神経亢進」が示唆されている。というのも、肥満者はそもそも腎臓の交感神経が亢進していて、それが高血圧の要因になっているともいわれている。

腎臓の交感神経が亢進すると、ナトリウム排泄遺伝子が抑制されてしまう。それにより「腎臓のナトリウム排泄機能障害」が起き「食塩感受性高血圧」が発症するというわけである。

そもそもアルドステロンとは、人類の進化の過程において、海から塩のない陸にあがって生きることを選んだ生命が、体に塩を貯蓄しておくために神によって与えられたホルモンと考えられている。

実際に、「アルドステロン受容体不活性異変」を生まれながらに有している胎児は、ナトリウムが常に喪失してしまうために残念ながら生きられない。つまり生命維持には欠く事のできないホルモンである。

「肥満」や「ストレス」によってアルドステロンは本来塩分をとれば低下するという機能を持っていたのに、それを失ってしまっている人が「食塩感受性高血圧」になっている。肥満の人やストレス過多の人、高齢者は徐々に減塩していくほうが望ましいし、効果も出やすい。

食塩感受性もこうした2つの経路以外のことも考えられるが、治療のガイドラインがオーダーメードで変わっていくことが望まれるとした。


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