食物・栄養とがん、多目的コホート研究の成果〜JASIS2016 ライフサイエンスイノベーション

2009年9月7日〜9月9日まで幕張メッセで分析機器、科学機器の総合展示会であるJASIS2016が開催された。同展示会セミナーより笹月 静氏(国立がん研究センター 社会と健康研究センター予防研究部)の講演「食物・栄養とがん〜多目的コホート研究の成果とエビデンスのまとめ」を取り上げる。


食事調査、厳密なものでなく難しい

国立がん研究センターでは、1990年以降、全国11カ所の保健所を基点に多目的コホート研究を行っている。

コホートとは年齢や居住地など、ある一定の条件を満たす特定の集団で、多目的コホートは2つのコホートから成り、全国で14万420名がこの調査に参加している。

コホート研究ではまず、健康に問題のない時点で、どのような生活習慣をしているかアンケートや健康診査、血液成分の保存などのベースライン調査を行う。その後、5年10年ごとに、生活習慣や健康状態のアンケートや疾病の検査などを行う。

食事の調査では、1年間に摂った食品ごとに「毎日食べている」「週2〜3回食べている」「週1回程度食べている」「全く食べていない」などに分け、マークシートにチェックしてもらう。

ただ、決して厳密なものではなく、「どのような食品を長期的に摂っていると、どのような疾病になりやすいか、なりにくいか」、ということは実際のところ極めて難しいという。

大豆や魚、疾患のリスク低下に貢献

とはいえ、このコホート研究によって生活習慣要因や環境要因、ゲノム情報とがんなどの生活習慣病及び死亡との関係について270報以上の報告が行われているという。

そのうち食品や栄養に関するものは97報。「肉、魚、野菜、果物、乳製品、大豆食品などの食物、脂肪酸、ポリフェノール、カロテノイド、食物繊維、カルシウム、ビタミン類」などの個別栄養素や食パターンなどさまざまなテーマを扱ってきたと笹月氏。

この中で、リスク低下と関連するものとしては、「野菜と胃がん」「野菜と食道がん」「大豆食品(イソフラボン)と循環器疾患」「大豆食品(イソフラボン)と近位結腸がん」「大豆食品(イソフラボン)と非喫煙男性の肺がん」「大豆食品(イソフラボン)と限局性前立腺がん」「魚(n-3系脂肪酸)と結腸がん」「魚(n-3系脂肪酸)と心筋梗塞」「魚(n-3系脂肪酸)と男性の糖尿病」「魚(n-3系脂肪酸)と肝がん」など。

また、リスク上昇と関連するものでは、「食塩(ナトリウム)と胃がん、循環器疾患、脳卒中」「肉(赤身)と大腸ガン」「コーヒーと膀胱がん」などがあるという。

食塩と胃がんの関係、女性には有意な違いが見られない

これらの知見の中で「食塩(ナトリウム)と胃がん」について、男性において食塩摂取量が多いほど胃がんリスクが高まることもわかっている。

しかしながら、女性には有意な違いが見られず、これがなぜなのかは説明がつかないと笹月氏。

また、「大腸がんと野菜」といった野菜摂取でがんが予防できそうなイメージを持たれている。しかし、野菜を摂るほどリスクが低下するといった調査結果は得られていない。ただ、極端に食べない人にのみリスクが高まる傾向が認められたという。

WHO(世界保健機構)も2003年に「食物・栄養要因とがんとの関連」として「リスク要因」と「抑制要因」を「確実」「可能性大」「可能性あり」というレベルに分類している。

しかし、「確実」に「抑制要因」と分類されているものに食品は一つもなく「運動」の方が「確実」の項目に分類されているという。

ちなみに「可能性大」のものとしては「果物・野菜」が入っており、「可能性あり」のものにようやく「食物繊維、大豆、魚のN-3系脂肪酸、カロテノイド、ビタミンB2、B6、葉酸、ビタミンB12、C、D、E、カルシウム、亜鉛、セレン、非栄養性植物機能成分(フラボノイド)が挙げられているという。

食べ過ぎ、食べなさ過ぎが問題

また、2007年に「世界がん研究基金による10項目のがん予防指針」が発表されているが、そこでも特定の食品を一定量摂取するように、といった指針はない。

しかし、「高カロリーの食品を控えめにし、糖分を加えた飲料を避けること」「肉類(鶏肉は除く)を控えめにし、加工肉を避ける」「アルコールは適量」「塩分の多い食品は控え目に」「いろいろな穀類、豆類を摂り、野菜と果物は1日400g以上摂る」といったことが推奨されているという。

コホート研究においても、WHOなどの取りまとめにしても、これを食べれば安心とか、これを食べると危険という食品はなく、あくまで食べ過ぎ、食べなさ過ぎが問題であることを頭に入れ、バランスの摂れた食生活をすることが望ましいと笹月氏はまとめた。


Copyright(C)JAFRA. All rights reserved.