農作物に期待される機能性とは
〜機能性農産物等活用セミナー


2016年11月28日(月)、東京ヤクルトホールで、「機能性農産物等活用セミナー」開催された。この中から、山本万里氏(農研機構 食品研究部門 食品健康機能研究領域)の「農作物に期待される機能性とは?」を取り上げる。


機能性成分が多い品種の開発に注力

農研機構では機能性食品開発プロジェクトとしてさまざまな機能性農作物素材を研究開発している。特に品種改良では、機能性成分が多い品種の開発に力を入れているという。

具体的にはケルセチンが通常の2倍以上含まれている玉ねぎの「クエルゴールド」やβグルカンが豊富な大麦「きらりもち」、メチル化カテキンが豊富な緑茶「べにふうき」などはすでに知名度も高く主力農作物だという。

こうした機能性農作物の研究育成は日本全国14の拠点で中心に行われている。

11品目のエビデンスを取得

健康に貢献する食品開発を行うために農研が行っているのは品種改良だけではない。

機能性成分のデータベースの構築や、栄養指導のシステム開発、テイラーメイドな提供システムの構築などにも予算を回す必要があるとしている。

中でも食品素材の臨床試験は1素材につき1億円以上かかる。そのため、20億円という限られた予算内ですべての食品の介入試験を行うのは難しい。現在は11品目のみでエビデンスの取得とデータベースの公開を行っている、という。

βグルカン高含有大麦、内蔵脂肪が低下

その11品目の幾つかを紹介。いずれもヒト介入試験が行われている。

βグルカン高含有大麦「きらりもち」を白米に混ぜて3ヶ月食べると(βグルカン2g/日)、含まないものに比べて内蔵脂肪面積が有意に低下したことが認められ、βグルカン含有粉のパンや麺に使用できる加工法も開発できているという。

白米と同様に炊ける「表面加工玄米」については、玄米と同じ栄養や機能性成分を含みながらも、玄米より吸水に優れ白米モードで炊飯できる玄米で、こちらは1日150gを3ヶ月連続摂取で体重、腹囲、中性脂肪が低下したことが報告されているが、βグルカンの方が効果的であった。

βクリプトキサンチン高含有かんきつ、骨粗鬆症発祥リスクが低下

βコングリシニン高含有の大豆「ななほまれ」は1日に5g摂取を3か月連続摂取で食後の中性脂肪上昇が有意に低下。

豆腐には加工できない大豆だが、豆乳や大豆フレークとしては加工できるという。ケルセチンが高含有の「クエルゴールド」は乾燥玉ねぎにして味噌汁に入れることで1日50gを6か月連続摂取で、ヒトでの認知機能改善効果が認められている。

βクリプトキサンチン高含有かんきつは10年間のコホート研究で、シーズンに毎日3〜4個食べているヒトは「骨粗鬆症、メタボリックシンドローム、非アルコール性の肝機能低下、2型糖尿病、動脈硬化」の発症リスクが有意に低いことが報告されている。

メチル化カテキン高含有緑茶「べにふうき」はメチル化カテキン34mg(総カテキン600g)を3か月連続摂取で、LDL高めの人の血中変性LDLが有意に低下し血管老化の予防に効果的であることが認められている。

アントシアニン、インフルエンザウイルスの増殖抑制

また、ケルセチンやアントシアニンと組み合わせるとより効果的であることがわかったことも報告。胚芽の大きいお米「はいごころ」は4時間の浸水でGABAの含有量が上昇し、10〜20g摂取(日)で血圧の上昇を抑制するというレビューがある。

他にもアントシアニンが豊富なジャガイモやサツマイモが紹介され、この2つはヒト介入試験のデータはないが、アントシアニンが細胞試験でインフルエンザウイルスの増殖抑制や、胃がん細胞の増殖抑制作用が認められていることを報告。

玄米+大麦、内臓脂肪が顕著に減少

このような優れた機能性を示す食材でお弁当を製作し、160人を対象に毎日そのお弁当を食べてもらうと、内臓脂肪にどのような効果が現れるかを観察するヒト介入試験を行った。

お弁当の内容として「お茶のみ機能性食品」「おかずのみ機能性食品」「米飯のみ機能性食品」と分類し、56日間観察したところ、米飯を「玄米+大麦」に替えたグループのみ内臓脂肪面積が顕著に減少したことが分かった。

しかしこれは昼食がボリューム的にピークになり、夜ごはんやその後のおやつが自然に減少する効果もあったかもしれない。そのため、さらに強力な介入試験が必要だとした。

プラセボの設定が難しい

農林水産物も機能性表示を積極的に行いたいが現状は4品目しか登場していない現実がある。

これは機能性表示を行うには「機能性関与成分が定量できる」という原則に農林水産物が当てはまりにくいからであることを解説。自然産物であれば関与成分のばらつきは当然生じる。

またヒト介入試験も非常にやりづらい。機能性農林水産物を加工したティーバックの緑茶やペットボトル飲料などで現在は取り組みを行っている。

今後も丸ごと食品(農林水産物)の機能性表示食品としての取り組みには、生産管理、集荷管理、検査装置などの開発も必須である。

また、農林水産物でプラセボを設定することの難しさをどうクリアするかなど、農林水産物独自の課題についても説明。ほうれん草、だったんそば、りんごなど今後市場への流通が期待されているという。

サプリメントだけでなく農林水産物にも機能性が表示できることがこの制度の最大のメリットで、そのため、難しい問題をクリアできるよう、引き続き努力したいとまとめた。


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