腸内細菌、腸管以外の臓器にも影響〜第27回腸内フローラシンポジウム

2018年10月26日(金)、ヤクルトホールにて「第27回腸内フローラシンポジウム」が開催された。この中から、金井隆典氏(慶応義塾大学医学部内科学 消化器)の講演「腸管外現象に影響を及ぼす特定の乳酸菌」を取り上げる。


腸内環境と密接に関与する疾患が増加

産業革命以降、私たちの生活様式は近代化の一途を辿り、衛生環境は格段に良くなり、医療も進歩した。それにより、これまで人類を苦しめてきた致死性の感染症の多くが克服された。

一方で、炎症性の腸疾患や腸免疫が原因と考えられる難病、さらに腸管外の疾患ではあるが腸内環境と密接に関与している喘息・花粉症・アトピー性疾患・肥満・糖尿病・動脈硬化・自閉症などの疾病が増えている。

これらの疾病は人類の誕生が20万年であるのに対し、直近100年という非常に短期間に発症したもので、しかも先進国で急増しているという特徴がある。

その原因として、ヒトの共生微生物である「腸内細菌」のバランス失調「ディズオバイオーシス」が注目されている、と金井氏。

腸内細菌、腸管以外の臓器疾患にも影響

「ディズオバイオーシス」とは抗生物質の改良と過剰使用、過衛生、高脂肪低食物繊維食、発酵食品の衰退、ストレス、運動不足、家畜や土壌からの隔絶など、さまざまな近代化により、腸内細菌の「単純化」、細菌の構成パターンも乱れているという。

腸に棲息する腸内細菌は腸管以外の臓器疾患にも影響を与えていることは、先の疾病症状からも容易に推測できる。

しかし、それがなぜなのか、どのようなメカニズムで関与しているのかについては解明されていないことばかりで、近年ようやく研究が始められてきているという。

講演では「腸内細菌と皮膚(毛髪)」「腸内細菌と肝臓」に注目し、ある種の腸内細菌がそれぞれの臓器に与える影響について、最新の知見を報告した。

腸内細菌叢と脱毛の関係

5万年ほど前の人間は非常に多毛で、脱毛という現象がなかったことが推測されている。先進国に住む男性は加齢とともに脱毛の症状に悩まされる人が少なくないが、脱毛という現象も近代化が進むことで起こるようになったと考えられている。

このことと腸内細菌叢の変化に関係があるのか、ないのかという研究をラットで行った。

腸内細菌はいろいろな代謝物を作っている。例えばビタミンKやビタミンB7ともいわれるビオチンもその一つである。

無菌マウスにビオチン欠乏食を与えると、3週間程度でマウスは著しく脱毛することが知られているが、通常のマウスにビオチン欠乏食を与えても脱毛は起こらない。

このことから、抗生物質を多用し、さらにビオチン欠乏食にした場合、脱毛しやすい腸内環境になるのではないか、と仮説を立てて試験を行った。

すると、抗生物質とビオチン欠乏食を投与したマウスのグループはやはり3週程度で著しく脱毛した。

脱毛を起こしたマウスの便からは特異的に「ラクトバシラスムリナス」と呼ばれる乳酸菌が増え、それらのマウスの腸内は激しいディスバイオーシスを起こしていることがわかった。

他のコントロールマウス群から「ラクトバシラスムリナス」は検出されず、「ラクトバシラスムリナス」はビオチンを消耗する菌であることが分かった。

これはマウスの試験だが、私たち現代人が、脱毛という現象に悩まされる背景には近代化した生活様式(過衛生)とビオチンが少ない食事によって脱毛を起こしやすい腸内細菌叢になっているから、と推察することができる。

逆に、この研究を深めていくことで、脱毛を予防する食事法や乳酸菌を見つけることも可能かもしれない、という。

免疫寛容、乳酸菌が急激に増加

次に「肝臓免疫寛容」と特定の乳酸菌の関係についても最新の知見を報告。ここ数年で肝臓の臓器移植がポピュラーになってきているという。

なぜなら肝臓の移植は成功率も術後生存率も高く、肝臓そのものが「免疫に寛容な臓器」とされているからだ。しかし肝臓の免疫が他に対して寛容である理由についてはほとんど解明されていないという。

ConA(Concanavalin A)という物質を投与するとすぐに肝障害が起こることが知られているが、1週間後に同じConAを投与しても免疫寛容が起こるため、肝障害は起こらない、という不思議な現象がある。

免疫寛容が起こるまでの1週間の間に腸では一体何が起こっているのか?

マウスの試験で調査したところ、ConA投与4日目で「ラクトバチルスジョンソニー」という乳酸菌が急激に増加していることを突き止めたという。

乳酸菌、ネガテイブな影響を与えるものも

そこでラクトバチルスジョンソニーを単離し、先にこれを投与した状態でConAを投与する試験を行った。すると、ConAを投与しても肝障害の値が低くなり、予防に役立ったことを示した。

このメカニズとしては、ラクトバチルスジョンソニーという特定の乳酸菌が、肝臓において、IL-10/TGF-β賛成樹状細胞を増加させ、肝臓の免疫寛容を誘導したのではないかという。

乳酸菌といえば、腸内環境、そして健康維持に不可欠ということばかり注目されているが、今回の2つの報告では、腸内細菌叢やヒトの体にどちらかといえばネガテイブな影響を与えるものもありそうだということ。

また他の臓器に特異的に働きかけるため、より予防に役立つ特徴を持つものもあるのではないか、と金井氏。特に他臓器への影響については今後のさらなる研究が待たれる、とした。


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