栃の実ポリフェノールの機能性とその応用
〜ケアメディカル産業展2018


2018年11月21日(水)〜22日(木)、大田区産業プラザにて「ケアメディカル産業展2018」が開催された。同展示会セミナーより小川智史氏(農学博士)の講演「栃の実ポリフェノールの機能性とその応用」を取り上げる。


古くから民間療法薬として使用

栃の木は全国に自生している樹木で、木の部分は主に建築用の木材として使用されている。白い円錐状の花が咲き、この花から良質な蜂蜜と蜜蝋が取れる。

栗に似た栃の木の実は9月上旬ごろから自然に落下し、日本ではかなり古くから民間療法で利用されている。

栃の実はそのままでは苦味が強く、アク抜きをする必要がある。栃の実を食べる風習は日本のみとされ、食料飢饉の際には非常食として用いられていた。

栃の実は、お菓子、主にお餅や団子などの原料やトッピングなどに用いられ、銘菓として人気の高い商品も多い。

2002年頃、日本でも栃の研究が始まる

日本で「栃の木」と呼ばれる樹木は、ヨーロッパでは「マロニエ」として知られている。ただマロニエは「セイヨウ栃の木」という近縁種で、日本の栃の木と全く同じではない。

パリのシャンゼリゼ通りにはマロニエが並び、パリジャンにはお馴染みだが、ヨーロッパではマロニエが糖尿病の治療薬や化粧品素材としても非常にポピュラーものになっている。

ヨーロッパでは、マロニエは医薬品として使用され、臨床研究データやエビデンスも豊富だが、日本では栃の木の研究が行われていなかった。

しかし、近縁種であるマロニエの数々の機能性が多数認められていることから、栃の木や実にも似たような機能性があるのではないか、と仮説が立てられ、2002年頃から日本でも研究がスタートした。

栃の実、高い抗酸化作用

栃の実を完全にアク抜きをした状態で種子(いわゆる実の部分)と種子皮(いわゆる皮の部分)に分類し、それぞれの成分を調べると、種子にはポリフェノール類が豊富に含まれ、種子皮にはプロアントシアニジンが多く含まれることが分かっている。

プロアントシアニジンはカテキン類に属すポリフェノールの一種で、ブルーベリーやクランベリーに多く含まれるが、栃の実の種子皮に含まれるプロアントシアニジンの量は、ブルーベリーやクランベリーに含まれる量よりも豊富である。

栃の実の種子皮に含まれるプロアントシアニジンはプロアントシアニジンの中でもAタイプに分類され、細菌付着抑制や抗がん、脂肪吸収抑制作用があることが解明されている。

プロアントシアニジンの機能性も優れているが、栃の実は抗酸化作用が高く、ブルーベリーの抗酸化力を100の値とすると、クランベリーは90、栃の実は130となる(DPPHラジカル消去法にて測定した場合)。

目を酷使する現代人に役立つ

現在、栃の実ポリフェノールとして様々な研究がスタートしている。島根大学との共同研究では、動物試験で、抗肥満、糖吸収抑制、脂肪吸収抑制、抗酸化、光障害に対する保護、抗がん剤メトトレキサートの副作用発症リスクの低減、ピロリ菌付着抑制などが明らかになりつつある。

いずれも作用機序の解明には至ってはいないが、栃の実を摂取すると血中の抗酸化力が上昇するため、このことが関与しているのではないかと考えられている。

特に、光障害に対する保護作用については、栃の実を摂取したマウスは、そうでないマウスと比べ、光照射をした後の網膜の損傷(酸化ストレスによるもの)が見られなかったという結果が得られ、目を酷使する現代人に役立つ可能性が高い。

コスメやお茶など多彩な用途

そもそも、栃の実は苦味が強いが、これはサポニンによるもの。アク抜きの程度をコントロールすることで、サポニンの血糖値上昇抑制、脂肪吸収抑制、抗肥満とポリフェノール類の持つ機能性との相乗効果も高いと考えられる。

日本で、1万5000年前から食料源としてされてきた栃の実は「不老長寿の実」とも言い伝えられている。

現在は、菓子の原料としての利用が主流だが、コスメ、お茶、ハーブブレンド、タブレットなどの商品も少しずつ増えてきている。今後の展開も大いに期待できるとまとめた。


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